恋愛リベンジャーズ

廣瀬純七

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三日目の朝

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 まだ空が薄青い早朝、部屋は静まり返っていた。

 枕元のスマホが、控えめに震える。
 純は、半分眠ったままそれに手を伸ばした。

 画面に表示された名前を見て、意識が一気に覚める。

 **拓也**

 メッセージを開く。

 > おはよう、体調はどう?
 > あまり回復していなかったら無理をしないで休んでね

 その文面は、いつも通り穏やかで、でも前より少しだけ踏み込んでいる気がした。

 「……優しいな」

 純の声で、ぽつりと呟く。
 胸の奥が、じんわり温かくなる。

 三日目の朝。
 昨日まで身体を支配していた重さは、確かに薄れていた。完全じゃない。でも、起き上がれないほどでもない。身体が「動いてもいいよ」と、静かに許可を出している感じがする。

 ――大分、良くなってる。

 そう実感しながら、返信を打つ。

 《ありがとう、大分良くなったみたい》
 少し間を置いて、指が自然と次の言葉を選ぶ。
 《拓也に会いたいから今日は会社に行きます❤》

 送信。

 ハートマークを付けたことに、もう迷いはなかった。
 それは意味のない飾りじゃない。
 今の気持ち、そのままだ。

 スマホを置き、ゆっくりベッドから起き上がる。
 下腹部に、まだわずかな違和感はあるけれど、昨日までの鋭さはない。

 洗面所へ向かい、まずはトイレに入る。
 夜用のナプキンを外し、昼用に替える。
 生理用のショーツを履き替える動作も、もう昨日ほどぎこちなくない。

 「……慣れるもんだな」

 そう呟きながら、少しだけ苦笑する。

 慣れたくて慣れたわけじゃない。
 でも、これが日常の一部として存在している人がいる。
 その現実が、今ははっきりと分かる。

 洗面台の前に立ち、鏡を見る。

 少しだけ、顔色が戻っている。
 目の奥に、昨日までの疲れは残っているけれど、今日はちゃんと前を向けそうだ。

 ――メイク、しよう。

 デパートの化粧品売り場での記憶が、自然と蘇る。
 店員の落ち着いた声。
 ブラシの動かし方。
 「引き算を意識してくださいね」という一言。

 ファンデーションを薄く伸ばし、叩くように馴染ませる。
 眉は描きすぎない。
 アイシャドウは、昨日より少しだけ血色を意識して。

 鏡の中の純が、少しずつ“整って”いく。

 「……うん」

 派手じゃない。
 でも、ちゃんと人に会いに行く顔だ。

 服を選び、出勤用のブラウスに袖を通す。
 鏡の前で姿勢を正すと、背筋が自然と伸びた。

 キッチンでは、簡単にヨーグルトと温かいお茶だけを口にする。
 無理はしない。
 でも、動く準備は整った。

 玄関で靴を履きながら、もう一度スマホを確認する。
 拓也からの返信は、まだ来ていない。

 それでもいい。

 今日は、会える。
 同じ空間で、同じ時間を過ごせる。

 ドアを開け、朝の空気を吸い込む。

 三日目の朝。
 完全じゃなくても、前に進める日。

 純になった拓也は、そう確かめるように一歩踏み出し、静かに出勤へと向かった。
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