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冬木雄一
しおりを挟む**第1章: 不思議なカメラ**
冬木雄一(ふゆき ゆういち)は、ただの会社員だった。30代に差し掛かり、日々の仕事に追われる中、特に目立ったこともなく、平凡な毎日を過ごしていた。しかし、ある日、彼の平凡な日常が一変する。偶然手に入れた一台の古びたスマートフォンが、その全ての始まりだった。
休日の午後、雄一は古びた骨董品店で不思議なスマートフォンを見つけた。普通のスマホに見えたが、画面に浮かび上がったメッセージが彼の目を引いた。
「このスマホで撮影した人物に、あなたはなれる。」
そのメッセージに興味を抱いた雄一は、試しに自分の姿を鏡で撮影してみた。しかし、何も変わらなかった。「ただの冗談か」と思い、スマホをポケットに入れ、店を後にした。
数日後、雄一は友人たちと飲みに行くことになり、その夜、ある女性の写真を撮ることになる。それが、すべての始まりだった。
**第2章: 初めての変身**
その夜、雄一は酔いが回り、店内の雰囲気もあって盛り上がっていた。ふと、友人たちと一緒にいた女性の一人、桜井美咲(さくらい みさき)が、スマホを向けて笑顔を見せた。冗談交じりに彼女の写真を撮った瞬間、急に雄一の視界がぼやけ、体中が熱くなった。
次の瞬間、彼は驚くべき変化に気づく。目の前に映る自分の姿が、鏡の中の美咲そのものだった。手は細く、髪は長く、服さえも美咲のものに変わっていた。信じられない思いで、彼は鏡を何度も見返したが、そこに映るのは、まぎれもなく桜井美咲だった。
パニックになりながらも、彼は気づいた。このスマホで撮影した人物に「なる」ことができるという奇妙な力が、本当に存在していたのだ。
**第3章: 新しい生活**
初めは恐怖に襲われた雄一だったが、次第にその「変身」の能力に興味を持ち始めた。彼は桜井美咲として街に出かけ、自分では絶対に体験できない「女性」としての生活を初めて経験する。異性の視線、友人との会話、そして鏡に映る自分の姿。その全てが新鮮で、まるで別世界に迷い込んだかのようだった。
日々、彼は異なる女性たちの写真を撮り、それぞれの人生を「体験」していく。キャリアウーマン、学生、主婦…彼女たちが持つ異なる視点を通じて、雄一は新しい感覚や視点を次々と得ていった。彼女たちの感情、悩み、喜び、それらがリアルに雄一の中に流れ込んでくる。
しかし、変身を重ねるにつれて、彼は次第に「自分」という存在を見失い始める。
**第4章: 失われた自分**
何度も変身を繰り返していると、雄一はあることに気づいた。自分が誰なのか、何を望んでいるのか、次第に曖昧になってきたのだ。桜井美咲として過ごした一日は楽しかったが、彼女の悩みも感じ、そこから逃れたいという感情さえも抱いていた。
やがて、彼は「自分自身」に戻れなくなることへの恐怖に囚われる。この能力は、ただの楽しみではなく、彼のアイデンティティそのものを侵食しているのではないかと感じるようになった。
そして、ある夜、雄一は鏡の前に立って問いかける。
「俺は、誰なんだ?」
何度も変身を繰り返すうちに、彼の内面は次第に曖昧になり、自分が雄一であるという確信さえ失いかけていた。スマホの力は魅力的であり、彼に新しい視点を与えたが、その代償として彼から「自分」という存在を奪おうとしていた。
**第5章: 選択**
最終的に、雄一はスマホの力に決着をつける決意をする。彼は自分の過去を振り返り、元の自分に戻るためには、この力を手放すしかないと悟った。スマホを使っているうちに、得た経験や知識は多かったが、失ったものも同様に大きかった。
ある夜、彼はスマホを手に取り、最後に一枚の写真を撮る。今度は自分自身の写真だ。それを撮影した瞬間、雄一は元の姿に戻り、スマホは静かに壊れた。
「もう二度と、他の誰かになることはない。」
彼はスマホを捨て、新しい人生を歩み始めた。そして、変身を通じて得た多くの女性たちの経験を胸に、自分自身として生きる道を見つけ出した。
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