入れ替わった夏

廣瀬純七

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就寝前に

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 夜が更け、家の中が静けさに包まれていく。夕食と風呂を終え、布団を敷いた座敷に横たわると、外からは相変わらず蝉の声と、時折吹き抜ける夜風の音が耳に届いた。天井の木目を見つめながら、達也はようやく一人きりになれた時間に深く息を吐いた。

 昼間の出来事が頭の中で渦を巻く。トイレで突然姿が変わったこと、自分の目の前に現れた小学生の自分、そして川での出来事——溺れていた少年を助け出した瞬間の緊張感と、救われた自分が見せた驚きの顔。それらがひとつながりの記憶となって、混乱の渦に達也を引きずり込んでいた。

 (なぜ俺は夏美になっているんだ……?)

 思えば、あの従姉妹はいつも自分を引っ張ってくれた存在だった。川遊びでも虫取りでも、怖がる自分を笑い飛ばし、強引にでも手を引いてくれた。今、自分がその立場に立たされているのは、偶然なのか、それとも必然なのか。

 (もしあのとき、本当の夏美がいなかったら……俺は川で命を落としていたのかもしれない。じゃあ、今こうして俺が夏美としてここにいるのは——あの出来事をやり直すためなのか?)

 考えれば考えるほど答えは出ない。だが、ひとつだけ確かなのは、未来の自分がこうして過去に入り込んでしまっているという事実だ。大学三年生としての時間、友人やこれからの進路、そのすべてが今は遠くに霞んでしまい、手の届かない幻のように思える。

 (戻れるのか……? 元の俺に。いや、戻らなきゃ困る。けど——もし戻れなかったら? 俺は夏美として、このまま生きていくのか?)

 そう自問した瞬間、胸の奥に小さな恐怖と同時に、妙な安堵も生まれた。夏美の姿をまとい、小さな自分と向き合い、守ろうとするこの日々は、決して悪いものではない。むしろ、過去をやり直せる貴重な時間のように感じられていた。

 縁側の外からは虫の声が重なり合い、夜の闇はますます深まっていく。達也は布団の中で目を閉じながら、自分がなぜここにいるのか、そしていつ元の世界に戻れるのかを考え続けた。やがて意識が薄れていき、夢と現実の境が曖昧になっていく中、彼の胸の内にはひとつの問いが残り続けていた。

 ——この夏休みを過ごしきったとき、俺はどこにいるのだろうか?

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