入れ替わった夏

廣瀬純七

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お風呂での会話

 金魚をバケツに移し終えた頃、廊下の奥から孝子の声が飛んできた。
「二人とも、今日は暑かったでしょう。花火大会で汗もかいたし、先にお風呂に入ってきなさいな」

 その声に押されるように、夏美(=達也)と小学生の達也は連れ立って浴室へ向かった。浴衣を脱ぎ、浴室の曇ったガラス戸を開けると、木の桶や石鹸の匂いがふわりと広がる。

 浴槽に湯を張る前、二人は並んで体を流しはじめた。小さな体を泡だらけにしながら、少年の達也は何気なく口を開く。

「ねえ夏美お姉ちゃん。さっきのトイレさ、女子の方が混んでるんなら、男子トイレを使えばいいじゃん」

 その言葉に、達也(=夏美)は思わず手を止めた。石鹸の泡が手のひらからぽたりと落ちる。

「え……な、何言ってるのよ」

 咄嗟に夏美らしい調子を装って答える。けれど耳の奥が熱くなる。男子として過ごしてきた自分だからこそ、彼の言葉が妙に胸に突き刺さったのだ。

 少年の達也は真顔のまま、不思議そうに続ける。
「だって、トイレなんて用を足すだけだろ? 入り口が違うだけで、中は一緒じゃないか」

「……ち、違うの! 男子と女子では、そういうわけにはいかないのよ!」

 そう言い返した自分の声に、ふっと自覚が芽生える。——自分はいま“女子である夏美”として、弟分に近い存在の少年に説教している。

 背中を流してやりながら、夏美(=達也)は小さく息を吐いた。
「だからね……女子トイレが混んでても、男子トイレに入るなんてことはできないの。わかった?」

 少年の達也は、まだいまいち腑に落ちない様子で首をかしげた。
「ふーん……そういうもんなのか」

 浴室に湯気が立ちこめ、二人の会話はそのまま白い霧の中に溶けていった
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