12 / 12
お風呂での会話
金魚をバケツに移し終えた頃、廊下の奥から孝子の声が飛んできた。
「二人とも、今日は暑かったでしょう。花火大会で汗もかいたし、先にお風呂に入ってきなさいな」
その声に押されるように、夏美(=達也)と小学生の達也は連れ立って浴室へ向かった。浴衣を脱ぎ、浴室の曇ったガラス戸を開けると、木の桶や石鹸の匂いがふわりと広がる。
浴槽に湯を張る前、二人は並んで体を流しはじめた。小さな体を泡だらけにしながら、少年の達也は何気なく口を開く。
「ねえ夏美お姉ちゃん。さっきのトイレさ、女子の方が混んでるんなら、男子トイレを使えばいいじゃん」
その言葉に、達也(=夏美)は思わず手を止めた。石鹸の泡が手のひらからぽたりと落ちる。
「え……な、何言ってるのよ」
咄嗟に夏美らしい調子を装って答える。けれど耳の奥が熱くなる。男子として過ごしてきた自分だからこそ、彼の言葉が妙に胸に突き刺さったのだ。
少年の達也は真顔のまま、不思議そうに続ける。
「だって、トイレなんて用を足すだけだろ? 入り口が違うだけで、中は一緒じゃないか」
「……ち、違うの! 男子と女子では、そういうわけにはいかないのよ!」
そう言い返した自分の声に、ふっと自覚が芽生える。——自分はいま“女子である夏美”として、弟分に近い存在の少年に説教している。
背中を流してやりながら、夏美(=達也)は小さく息を吐いた。
「だからね……女子トイレが混んでても、男子トイレに入るなんてことはできないの。わかった?」
少年の達也は、まだいまいち腑に落ちない様子で首をかしげた。
「ふーん……そういうもんなのか」
浴室に湯気が立ちこめ、二人の会話はそのまま白い霧の中に溶けていった
「二人とも、今日は暑かったでしょう。花火大会で汗もかいたし、先にお風呂に入ってきなさいな」
その声に押されるように、夏美(=達也)と小学生の達也は連れ立って浴室へ向かった。浴衣を脱ぎ、浴室の曇ったガラス戸を開けると、木の桶や石鹸の匂いがふわりと広がる。
浴槽に湯を張る前、二人は並んで体を流しはじめた。小さな体を泡だらけにしながら、少年の達也は何気なく口を開く。
「ねえ夏美お姉ちゃん。さっきのトイレさ、女子の方が混んでるんなら、男子トイレを使えばいいじゃん」
その言葉に、達也(=夏美)は思わず手を止めた。石鹸の泡が手のひらからぽたりと落ちる。
「え……な、何言ってるのよ」
咄嗟に夏美らしい調子を装って答える。けれど耳の奥が熱くなる。男子として過ごしてきた自分だからこそ、彼の言葉が妙に胸に突き刺さったのだ。
少年の達也は真顔のまま、不思議そうに続ける。
「だって、トイレなんて用を足すだけだろ? 入り口が違うだけで、中は一緒じゃないか」
「……ち、違うの! 男子と女子では、そういうわけにはいかないのよ!」
そう言い返した自分の声に、ふっと自覚が芽生える。——自分はいま“女子である夏美”として、弟分に近い存在の少年に説教している。
背中を流してやりながら、夏美(=達也)は小さく息を吐いた。
「だからね……女子トイレが混んでても、男子トイレに入るなんてことはできないの。わかった?」
少年の達也は、まだいまいち腑に落ちない様子で首をかしげた。
「ふーん……そういうもんなのか」
浴室に湯気が立ちこめ、二人の会話はそのまま白い霧の中に溶けていった
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
秘書と社長の秘密
廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。
突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。
ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?