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「社長……これ、どうするんですか。次の会議、あと十分で始まりますけど」
由紀の姿になった高橋は、一瞬だけ絶望に目を見開いたが、すぐに口角を歪な形に釣り上げた。
「……いや、待て。これはチャンスだ」
「はい?」
「この姿なら、奴らの本音が聞ける。……木村くん、いや、社長。今すぐ私に、社内を案内してくれないか。秘書として、な」
こうして、IT企業のトップによる、前代未聞の「潜入調査」が幕を開けた。「木村くん、背筋を伸ばせ。私はそんなに猫背じゃない」「……無理を言わないでください。社長の体、肩凝りがひどすぎて重いんです」
社長室の大きな姿見の前で、二人は奇妙な「演技指導」を繰り広げていた。 中身が社長の高橋である由紀は、慣れないハイヒールの高さに苦戦しながらも、どこか楽しげに自分の顔を鏡でチェックしている。一方、中身が由紀である高橋は、高級スーツの重みに耐えかねたように肩を回していた。
「いいか、会議では私が後ろで指示を出す。君はただ、威厳を持って座っていればいい。余計なことは喋るな」「……善処します。でも、秘書の私がそんなにニヤニヤしていたら怪しまれますよ」
二人は連れ立って社長室を出た。 向かうは、開発チームの進捗報告会議。最近、遅延が目立っているプロジェクト『ゼウス』のテコ入れのための会議だ。
会議室のドアを開けた瞬間、室内の空気が一変した。 談笑していたエンジニアたちが一斉に口を閉じ、背筋を正す。その様子を、高橋(中身は由紀)は「社長」として無言で席に着くことで受け流した。 由紀(中身は高橋)は、その斜め後ろ、いつもの秘書の定位置にノートPCを広げて座る。
(ほう……。私が来ると、これほどまでに空気が冷えるのか)
高橋は、秘書の視点から初めて見る「自分の影響力」に驚いた。いつもは上座から見下ろしていた光景が、今は全く違って見える。社員たちの顔には、敬意というよりも「恐怖」と「諦め」が混じったような色が浮かんでいた。
由紀の姿になった高橋は、一瞬だけ絶望に目を見開いたが、すぐに口角を歪な形に釣り上げた。
「……いや、待て。これはチャンスだ」
「はい?」
「この姿なら、奴らの本音が聞ける。……木村くん、いや、社長。今すぐ私に、社内を案内してくれないか。秘書として、な」
こうして、IT企業のトップによる、前代未聞の「潜入調査」が幕を開けた。「木村くん、背筋を伸ばせ。私はそんなに猫背じゃない」「……無理を言わないでください。社長の体、肩凝りがひどすぎて重いんです」
社長室の大きな姿見の前で、二人は奇妙な「演技指導」を繰り広げていた。 中身が社長の高橋である由紀は、慣れないハイヒールの高さに苦戦しながらも、どこか楽しげに自分の顔を鏡でチェックしている。一方、中身が由紀である高橋は、高級スーツの重みに耐えかねたように肩を回していた。
「いいか、会議では私が後ろで指示を出す。君はただ、威厳を持って座っていればいい。余計なことは喋るな」「……善処します。でも、秘書の私がそんなにニヤニヤしていたら怪しまれますよ」
二人は連れ立って社長室を出た。 向かうは、開発チームの進捗報告会議。最近、遅延が目立っているプロジェクト『ゼウス』のテコ入れのための会議だ。
会議室のドアを開けた瞬間、室内の空気が一変した。 談笑していたエンジニアたちが一斉に口を閉じ、背筋を正す。その様子を、高橋(中身は由紀)は「社長」として無言で席に着くことで受け流した。 由紀(中身は高橋)は、その斜め後ろ、いつもの秘書の定位置にノートPCを広げて座る。
(ほう……。私が来ると、これほどまでに空気が冷えるのか)
高橋は、秘書の視点から初めて見る「自分の影響力」に驚いた。いつもは上座から見下ろしていた光景が、今は全く違って見える。社員たちの顔には、敬意というよりも「恐怖」と「諦め」が混じったような色が浮かんでいた。