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「私の行きつけのレストランのプラチナチケットだ。今日、無理を言って一席空けさせた。彼氏と、最高のディナーを楽しんでこい。……昨日の穴埋めの、ほんの一部だ」
由紀は驚いたように目を見開いたが、やがて柔らかく微笑んで、そのカードを受け取った。
「……ありがとうございます。遠慮なく、一番高いコースを頼ませていただきますね」
二人は並んでエレベーターに乗り、一階のロビーへ降りた。 自動ドアが開くと、冷たくも清々しい早朝の空気が二人を包み込む。
「じゃあ、また明日。……いや、明後日かな」「はい。……あ、社長」
タクシーを拾おうとした高橋を、由紀が呼び止めた。
「女子会で言われていたこと、忘れないでくださいね。ネクタイのセンス、今日のは……まあまあだと思います」
高橋は自分のネクタイを触り、苦笑した。
「……努力するよ」
別々のタクシーに乗り込み、二人はそれぞれの家へと向かう。 高橋は車窓から流れる朝日を眺めながら、スマートフォンを取り出した。あのアプリは、跡形もなく消えていた。
だが、彼の胸の中には、昨日まではなかった「社員たちの体温」が確かに残っている。
明日からの『ネクスト・コア』は、きっと少しだけ、風通しが良くなるはずだ。 高橋健一は、心地よい疲れと共に、静かに目を閉じた。
あの不思議な体験から三日。 高橋健一は変わろうとしていた。朝は自分から社員に声をかけ、会議ではまず若手の意見に耳を傾ける。しかし、数年かけて築き上げられた「冷徹なワンマン社長」という壁は厚く、社員たちの反応は「社長、急にどうしたんだ?」「何か悪いものでも食べたのか?」という戸惑いが大半だった。
そんな中、プロジェクト『ゼウス』に重大なトラブルが発生した。 PMの佐藤からは「軽微なバグです」と報告が上がっているが、高橋には分かっていた。あの女子会で聞いた現場の疲弊、そして隠蔽の空気。これは「軽微」などではない。
午後二時。社長室。 高橋はデスクに置いたスマートフォンを凝視していた。三日前に消えたはずのアイコンが、数分前から再び画面に浮かび上がっていたのだ。
「……木村くん」 呼びかけると、書類を整理していた由紀が顔を上げた。彼女もまた、高橋の視線の先にあるものに気づいていた。
由紀は驚いたように目を見開いたが、やがて柔らかく微笑んで、そのカードを受け取った。
「……ありがとうございます。遠慮なく、一番高いコースを頼ませていただきますね」
二人は並んでエレベーターに乗り、一階のロビーへ降りた。 自動ドアが開くと、冷たくも清々しい早朝の空気が二人を包み込む。
「じゃあ、また明日。……いや、明後日かな」「はい。……あ、社長」
タクシーを拾おうとした高橋を、由紀が呼び止めた。
「女子会で言われていたこと、忘れないでくださいね。ネクタイのセンス、今日のは……まあまあだと思います」
高橋は自分のネクタイを触り、苦笑した。
「……努力するよ」
別々のタクシーに乗り込み、二人はそれぞれの家へと向かう。 高橋は車窓から流れる朝日を眺めながら、スマートフォンを取り出した。あのアプリは、跡形もなく消えていた。
だが、彼の胸の中には、昨日まではなかった「社員たちの体温」が確かに残っている。
明日からの『ネクスト・コア』は、きっと少しだけ、風通しが良くなるはずだ。 高橋健一は、心地よい疲れと共に、静かに目を閉じた。
あの不思議な体験から三日。 高橋健一は変わろうとしていた。朝は自分から社員に声をかけ、会議ではまず若手の意見に耳を傾ける。しかし、数年かけて築き上げられた「冷徹なワンマン社長」という壁は厚く、社員たちの反応は「社長、急にどうしたんだ?」「何か悪いものでも食べたのか?」という戸惑いが大半だった。
そんな中、プロジェクト『ゼウス』に重大なトラブルが発生した。 PMの佐藤からは「軽微なバグです」と報告が上がっているが、高橋には分かっていた。あの女子会で聞いた現場の疲弊、そして隠蔽の空気。これは「軽微」などではない。
午後二時。社長室。 高橋はデスクに置いたスマートフォンを凝視していた。三日前に消えたはずのアイコンが、数分前から再び画面に浮かび上がっていたのだ。
「……木村くん」 呼びかけると、書類を整理していた由紀が顔を上げた。彼女もまた、高橋の視線の先にあるものに気づいていた。