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「……また、あれを使うおつもりですか?」
「佐藤の報告は嘘だ。だが、今の私が現場に乗り込んでも、奴らは防衛本能で口を閉ざす。……真実を掴み、このプロジェクトを救うには、これしかないんだ」
高橋は苦渋の決断を下すように、由紀を真っ直ぐに見つめた。 由紀は小さく溜息をついたが、その瞳には拒絶の色はなかった。むしろ、三日前よりも深い信頼の光が宿っている。
「……分かりました。ただし、今日の定時後、私は美容室の予約を入れています。それまでに必ず戻してくださいね。社長の髪質でカットされるのは御免ですから」
「約束する。……すまない、木村くん」
二人は示し合わせたように、スマートフォンの両端に指を添えた。 三日前は偶然だった。だが、今回は明確な「意志」を持った接触だ。
――【フェーズ2:同期を開始します】――
画面に冷淡なメッセージが表示された瞬間、前回よりも鋭く、青白い閃光が部屋を包んだ。 脳を直接ハッキングされるような電子音が響き、二人の意識は再び、肉体の檻を飛び越えて交差する。
「……っ、く……!」
先に声を上げたのは、由紀の体に収まった高橋だった。 二度目ということもあり、感覚の切り替わりは早かった。視界が低くなり、胸元に重みを感じ、鼻腔をくすぐる自分の(高橋の)香水の匂いが、由紀の石鹸のような香りに変わる。
目の前では、高橋の姿をした由紀が、ネクタイを緩めながら大きく肩を回していた。
「……相変わらず、ひどい肩凝りですね。社長、少しはストレッチしてくださいと言ったはずです」
低い、自分の声。だがその口調は、完全に「秘書の木村由紀」だった。 高橋は由紀の体で立ち上がり、鏡を見ることもなく、デスクに置いてあった秘書用のバインダーを掴んだ。
「木村くん、いや、社長。……三時間だ。三時間以内に、佐藤が隠している『ゼウス』の致命的な欠陥を暴き出す。君はここで、外部との連絡を遮断してくれ」
「承知いたしました。……行ってらっしゃいませ、社長、」
高橋(由紀)が不敵な笑みを浮かべて社長椅子に深く座り、由紀(高橋)は、迷いのない足取りで社長室を飛び出した。
三日前は「潜入」だった。 だが、今日は「奪還」だ。
ハイヒールの音を響かせ、高橋は戦場と化した開発フロアへと向かう。 秘書という名の「最強の盾」を纏った社長の、二度目の反撃が始まった。
「佐藤の報告は嘘だ。だが、今の私が現場に乗り込んでも、奴らは防衛本能で口を閉ざす。……真実を掴み、このプロジェクトを救うには、これしかないんだ」
高橋は苦渋の決断を下すように、由紀を真っ直ぐに見つめた。 由紀は小さく溜息をついたが、その瞳には拒絶の色はなかった。むしろ、三日前よりも深い信頼の光が宿っている。
「……分かりました。ただし、今日の定時後、私は美容室の予約を入れています。それまでに必ず戻してくださいね。社長の髪質でカットされるのは御免ですから」
「約束する。……すまない、木村くん」
二人は示し合わせたように、スマートフォンの両端に指を添えた。 三日前は偶然だった。だが、今回は明確な「意志」を持った接触だ。
――【フェーズ2:同期を開始します】――
画面に冷淡なメッセージが表示された瞬間、前回よりも鋭く、青白い閃光が部屋を包んだ。 脳を直接ハッキングされるような電子音が響き、二人の意識は再び、肉体の檻を飛び越えて交差する。
「……っ、く……!」
先に声を上げたのは、由紀の体に収まった高橋だった。 二度目ということもあり、感覚の切り替わりは早かった。視界が低くなり、胸元に重みを感じ、鼻腔をくすぐる自分の(高橋の)香水の匂いが、由紀の石鹸のような香りに変わる。
目の前では、高橋の姿をした由紀が、ネクタイを緩めながら大きく肩を回していた。
「……相変わらず、ひどい肩凝りですね。社長、少しはストレッチしてくださいと言ったはずです」
低い、自分の声。だがその口調は、完全に「秘書の木村由紀」だった。 高橋は由紀の体で立ち上がり、鏡を見ることもなく、デスクに置いてあった秘書用のバインダーを掴んだ。
「木村くん、いや、社長。……三時間だ。三時間以内に、佐藤が隠している『ゼウス』の致命的な欠陥を暴き出す。君はここで、外部との連絡を遮断してくれ」
「承知いたしました。……行ってらっしゃいませ、社長、」
高橋(由紀)が不敵な笑みを浮かべて社長椅子に深く座り、由紀(高橋)は、迷いのない足取りで社長室を飛び出した。
三日前は「潜入」だった。 だが、今日は「奪還」だ。
ハイヒールの音を響かせ、高橋は戦場と化した開発フロアへと向かう。 秘書という名の「最強の盾」を纏った社長の、二度目の反撃が始まった。