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開発フロアに足を踏み入れた瞬間、由紀の姿の高橋は鼻をつくようなコーヒーの匂いと、淀んだ空気を感じ取った。 三日前の女子会で聞いた通りだ。フロアの隅々から、疲弊したエンジニアたちの「音のない悲鳴」が聞こえてくるようだった。
「あ、木村さん。どうしたんですか、こんな時間に」
真っ先に声をかけてきたのは、プロジェクトマネージャーの佐藤だった。その目は泳ぎ、額には薄っすらと汗が浮かんでいる。
「社長が、進捗報告書の数値に違和感をお持ちです。特に、サーバー負荷のテストデータについて、生(なま)のログを確認してくるようにと」
高橋は、由紀の涼しげな声を使い、あえて事務的に言い放った。佐藤の顔色が目に見えて青ざめる。
「な、生ログですか? それは……今、整理しているところでして。わざわざ秘書の方が来なくても、後で私が社長室へ持っていきますよ」
「社長は『今すぐ』とおっしゃっています。佐藤さん、あなたは会議室で待機してください。私が直接、山下くんの席で確認します」
「えっ、山下!? いや、彼は今忙しくて……」
「これは社長命令です」
高橋は、由紀の体で、かつてないほど鋭い視線を佐藤に投げた。その威圧感に気圧されたのか、佐藤は「……わかりました」と力なく引き下がった。
高橋は迷わず、末席で頭を抱えている若手エンジニア、山下の元へ歩み寄った。山下は、秘書の突然の来訪に驚き、椅子から転げ落ちそうになる。
「き、木村さん!? 何ですか、急に」
「山下くん、小声で聞いて。……プロジェクト『ゼウス』、本当は何が起きているの?」
「え……それは、佐藤さんが報告した通り、軽微なバグが……」
「嘘を言わないで。三日前の夜、あなたが給湯室で言っていたことを覚えているわ。……『社長が昔書いたコードは凄かった。あの頃の情熱があれば』って」
山下が、弾かれたように顔を上げた。なぜそれを彼女が知っているのか、という驚愕がその目に浮かぶ。高橋は、由紀の細い指で山下の肩を優しく叩いた。
「社長は、あなたのその言葉を……いえ、あなたの情熱を信じたいと思っているわ。だから、本当のことを教えて。このままリリースしたら、どうなるの?」
山下は周囲を気にしながら、震える指で画面を操作した。隠されていたディレクトリの中に、真っ赤なエラーログが滝のように流れる画面が現れる。
「あ、木村さん。どうしたんですか、こんな時間に」
真っ先に声をかけてきたのは、プロジェクトマネージャーの佐藤だった。その目は泳ぎ、額には薄っすらと汗が浮かんでいる。
「社長が、進捗報告書の数値に違和感をお持ちです。特に、サーバー負荷のテストデータについて、生(なま)のログを確認してくるようにと」
高橋は、由紀の涼しげな声を使い、あえて事務的に言い放った。佐藤の顔色が目に見えて青ざめる。
「な、生ログですか? それは……今、整理しているところでして。わざわざ秘書の方が来なくても、後で私が社長室へ持っていきますよ」
「社長は『今すぐ』とおっしゃっています。佐藤さん、あなたは会議室で待機してください。私が直接、山下くんの席で確認します」
「えっ、山下!? いや、彼は今忙しくて……」
「これは社長命令です」
高橋は、由紀の体で、かつてないほど鋭い視線を佐藤に投げた。その威圧感に気圧されたのか、佐藤は「……わかりました」と力なく引き下がった。
高橋は迷わず、末席で頭を抱えている若手エンジニア、山下の元へ歩み寄った。山下は、秘書の突然の来訪に驚き、椅子から転げ落ちそうになる。
「き、木村さん!? 何ですか、急に」
「山下くん、小声で聞いて。……プロジェクト『ゼウス』、本当は何が起きているの?」
「え……それは、佐藤さんが報告した通り、軽微なバグが……」
「嘘を言わないで。三日前の夜、あなたが給湯室で言っていたことを覚えているわ。……『社長が昔書いたコードは凄かった。あの頃の情熱があれば』って」
山下が、弾かれたように顔を上げた。なぜそれを彼女が知っているのか、という驚愕がその目に浮かぶ。高橋は、由紀の細い指で山下の肩を優しく叩いた。
「社長は、あなたのその言葉を……いえ、あなたの情熱を信じたいと思っているわ。だから、本当のことを教えて。このままリリースしたら、どうなるの?」
山下は周囲を気にしながら、震える指で画面を操作した。隠されていたディレクトリの中に、真っ赤なエラーログが滝のように流れる画面が現れる。