秘書と社長の秘密

廣瀬純七

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「佐藤。……お前の報告書と、今、木村秘書が持ってきたログ。どちらが真実か、私の前で証明してみせろ」

 佐藤は、蛇に睨まれた蛙のように硬直した。目の前に突きつけられたタブレットの画面と、高橋(由紀)の冷徹な眼光の間で、パクパクと口を動かしていた。

「そ、それは……そのログは、まだ解析途中のものでして! 木村秘書がどこから持ち出したか知りませんが、素人が見ても誤解するだけです!」

 佐藤は必死に、背後に立つ「秘書」を指差した。しかし、高橋(由紀)は動じない。

「素人、か。……木村くん、説明してくれ」

 その言葉を合図に、由紀(高橋)が一歩前へ出た。彼女の口から漏れたのは、秘書の事務的なトーンではなく、かつてこの会社をゼロから作り上げた技術者の、深く重みのある分析だった。

「この第4階層のメモリエラーは、単なるバグではありません。並列処理のデッドロックです。佐藤さん、あなたは納期を優先するために、排他制御のプロセスを意図的にバイパスしましたね? その結果、アクセスが集中した瞬間に全システムが停止する。……これを『軽微なバグ』と呼ぶのは、エンジニアに対する冒涜です」

 淀みない専門用語の羅列に、佐藤は言葉を失った。なぜ、ただの秘書が、開発の核心部分をこれほど正確に、しかも社長以上の迫力で指摘できるのか。

「な、なぜそれを……君は、ただの秘書だろう!?」

「秘書だからこそ、見えるものがあるんです。……あなたが部下たちに強いた沈黙も、隠蔽の指示も、すべてね」

 高橋(中身は由紀)が、デスクをドンと叩いて立ち上がった。

「佐藤。……プロジェクト『ゼウス』のリリースは、二週間延期する」

「えっ!? し、しかし、株主やクライアントへの説明が……!」

「嘘をついてガラクタを売るよりはマシだ。……お前は今日限りでPMを解任する。山下くんをリーダーに昇格させ、体制を立て直せ。……お前の処遇については、後日沙汰を下す。下がれ」

 佐藤は崩れ落ちるように膝をつき、最後には逃げるように社長室を後にした。

 静まり返った室内。 二人は同時に、大きな溜息をついた。

「……お疲れ様、木村くん。完璧な『社長』だったよ」「……疲れました。社長、あんなに睨みつけるの、体力使うんですね。肩がさらに凝りました」

 由紀(高橋)は、高橋(由紀)手を見て、少しだけ寂しそうに笑った。

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