秘書と社長の秘密

廣瀬純七

文字の大きさ
16 / 17

16


「山下くん、いい顔をしていたよ。私が直接言えなかったことを、君の体を通して伝えることができた」

「……社長。山下くんだけじゃありません。フロアの皆、佐藤さんがいなくなった後、少しだけ顔が明るくなっていましたよ」

 その時、スマートフォンの画面が激しく明滅した。

【シンクロ率 100%:ミッション完了。まもなく元の視点に戻ります】

「あ……時間ですね。社長、美容室の予約、間に合いそうです」

「ああ。……木村くん、今回もありがとう。君がいなければ、私はまた一つ、大切なものを壊すところだった」

 光が溢れ、二人の意識が再び交差する。 肉体の重み、視界の高さ、そして自分自身のアイデンティティが、パズルのピースがはまるように元に戻っていく。

 ……数秒後。 高橋健一は、自分の社長椅子に座っていた。 目の前には、少し乱れた髪を整えながら、いつものように冷静な表情を浮かべる木村由紀。

「……戻ったな」

「はい。……あ、社長。ネクタイ、少し曲がっていますよ」

 由紀が歩み寄り、慣れた手つきで高橋のネクタイを直す。その距離は、三日前よりもずっと近く、そして信頼に満ちたものに感じられた。

「木村くん。……明日の朝、全社員を集めてくれ。私の口から、リリースの延期と、新しい方針を説明する。……もう、隠し事はなしだ」

「承知いたしました。……あ、それと社長」

 由紀はドアノブに手をかけ、振り返った。

「美容室の代金、経費で落としてもいいですか? 社長の体で走り回ったせいで、髪がボロボロなんです」

 高橋は声を上げて笑った。

「ああ、もちろんだ。最高級のトリートメントを受けてこい。……それから、彼氏とのデートも、今度こそ邪魔させないからな」

「……ふふっ。ありがとうございます」

 由紀が去った後の社長室で、高橋は一人、夜景を眺めた。 アプリは消えていた。だが、もう不思議な力に頼る必要はない。

 彼はペンを取り、山下たち現場のエンジニアへ送るための、心からのメッセージを書き始めた。


 
感想 0

あなたにおすすめの小説

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

リアルフェイスマスク

廣瀬純七
ファンタジー
リアルなフェイスマスクで女性に変身する男の話

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

ストレンジ&デイズ

廣瀬純七
青春
ある朝、高校生の男女が入れ替わる不思議なお話。

バーチャル女子高生

廣瀬純七
大衆娯楽
バーチャルの世界で女子高生になるサラリーマンの話

兄の悪戯

廣瀬純七
大衆娯楽
悪戯好きな兄が弟と妹に催眠術をかける話