とある会社の秘密の研修

廣瀬純七

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バーチャルの世界の人々

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研修初日を終え、社員寮の大浴場で思わぬハプニングに遭遇した結衣——健一は、すっかり疲れ果ててしまった。  

**「まさかこんなにリアルな世界で、普通に女湯に入ることになるとは……!」**  

自分が女性になっているとはいえ、心の中は完全に男のままだ。無防備な状態で他の女性と一緒にいることに慣れるには、まだ時間がかかりそうだった。  

その夜、結衣は寮長に呼ばれ、軽い面談を受けることになった。  

### **◆**  

寮長室に入ると、そこには落ち着いた雰囲気の中年女性が座っていた。  

「どう? 初めての研修生活は。」  

「えっと……正直、まだ慣れないです。でも、皆さん優しくて……なんとかやっていけそうです。」  

結衣がそう答えると、寮長は微笑んだ。  

「それならよかったわ。でも、あなた、少し戸惑っているように見えるけど……何か気になることでもあるの?」  

「……実は、この世界について、まだよく分かっていないことが多くて。」  

「例えば?」  

結衣は少し考えてから、ずっと気になっていた疑問を口にした。  

「この世界の人たちは……全員、本物の人間なんですか?」  

寮長はクスッと笑い、優しく答えた。  

「いいえ、この世界の人間には、**リアルの人間が操作しているものと、コンピューターが操っているものがあるのよ。**」  

「えっ……!?」  

驚きのあまり、結衣は思わず前のめりになった。  

「つまり、この世界にいる人たち全員がリアルの人間とは限らないってことですか?」  

「そうよ。このバーチャル空間はリアルな研修環境を作るために、精密に設計されているの。ただ、人間すべてをリアルな研修生や指導者にするのは難しいでしょ? だから、ある程度は**AIが作り出した“NPC”**が混ざっているの。」  

「NPC……!?」  

結衣の脳裏に、今日一日で出会った人々の顔が浮かんだ。  

大浴場で会った明るい先輩社員。  
指導を担当する高橋和樹。  
研修で出会った他の新入社員たち。  

**——彼らの中には、本物の人間ではなく、コンピューターが動かしている存在がいるかもしれない?**  

「でも……NPCだとしたら、どうやって見分けるんですか?」  

寮長は意味深に微笑んだ。  

「ふふ、それは簡単には分からないわ。だって、この世界のNPCは**ほとんど人間と変わらないほどリアルに作られている**もの。感情も持つし、会話もできる。ちょっとやそっとじゃ見抜けないわよ。」  

「……そんな……。」  

結衣は、自分の手を握りしめた。  

この世界はただのシミュレーションだと思っていた。けれど、ここで出会う人たちは、みんな本物のように話し、笑い、生活している。  

**——それが、実際には人間じゃないかもしれない?**  

もし、大浴場で会ったあの先輩がNPCだったとしたら?  
もし、高橋先輩がAIだったとしたら?  

考えれば考えるほど、分からなくなる。  

「もしかして、私自身もNPCだったり……?」  

ふと、そんな考えが頭をよぎった。  

「それはないわ。」  

寮長はあっさりと言い切った。  

「あなたは間違いなく、リアルの人間。これは保証するわ。」  

「……それならよかったです。」  

少しホッとしたものの、結衣の心はまだざわついていた。  

「でも、気になるなら、これからの生活の中で考えてみるといいわ。**この世界のどこまでがリアルで、どこまでがバーチャルなのかを。**」  

「……はい。」  

寮長の言葉を胸に刻みながら、結衣は寮長室を後にした。  

### **◆**  

**——高橋先輩は、本当に人間なのか?**  

**——お風呂で会ったあの先輩は、AIではなかったのか?**  

考えれば考えるほど、答えが出ない。  

この世界にいるのは、リアルな人間だけではない。  

そう気づいた瞬間、結衣はまるで自分がどこにいるのか分からなくなるような、不思議な感覚を覚えた。  

**このバーチャル世界の真実は、まだ全てが明らかになったわけではないのだから——。**
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