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リアルの性別とバーチャルの性別
しおりを挟む翌朝——。
結衣は、まだ夢の中にいるようなぼんやりした頭で目を覚ました。
昨日の寮長との会話がずっと頭から離れない。
**「この世界にはNPC(AI)が混ざっている……?」**
今まで普通に話していた相手が、本当に生身の人間なのか、それともコンピューターが生み出した存在なのか——その境界が分からなくなる。
結衣はそんなモヤモヤを抱えたまま、社員寮の食堂へ向かった。
### **◆**
食堂では、すでに何人かの社員が朝食をとっていた。
「あ、中村さん、おはよう!」
昨日、お風呂で会った先輩社員が手を振ってくれる。
「お、おはようございます……!」
ぎこちなく返事をしながら、結衣は席に着いた。
食事を取りながら考えるのは、やはり昨日のこと。
——あの先輩はNPCなのか?
——高橋先輩は本物の人間なのか?
**「……もし、AIだったら?」**
そう考えた瞬間、急にこの世界が別のものに見えてきた。
まるで映画やゲームの中にいるみたいに、どこまでがリアルでどこまでが作られたものなのか分からない。
「ふふっ、そんなに難しい顔をして、どうしたの?」
突然、背後から柔らかい声がした。
振り返ると、そこには昨日の寮長が立っていた。
「寮長さん……。」
「ちょっとお話ししない?」
促されるままに、結衣は食堂の隅の席へと移動した。
### **◆**
「昨日の話、まだ気になっているみたいね?」
寮長はそう言って、優しく微笑んだ。
結衣は頷いた。
「……どうしても気になってしまって。誰が本物の人間で、誰がNPCなのか……。」
「そうね、それは研修を受ける上で重要なポイントかもしれないわね。」
寮長はコーヒーを一口飲むと、続けた。
「でもね、中村さん。もう一つ大事なことがあるのよ。」
「大事なこと……?」
「それは、**リアルの人間が操っているものでも、あなたのようにリアルの性別とは逆になっている場合がある**ということよ。」
「——えっ?」
結衣は思わず息をのんだ。
「……それって、どういうことですか?」
「そのままの意味よ。この世界には、リアルの男性がバーチャルでは女性として活動することもあるし、その逆もあるの。」
「!!」
衝撃が走った。
「私みたいに……?」
「そう。あなたはリアルでは男性だけど、ここでは中村結衣という女性。でも、他にも同じような人がいるかもしれないわよ?」
「……!」
**——じゃあ、昨日お風呂で会ったあの先輩は?**
**——研修で指導をしてくれる高橋先輩は?**
彼らは見た目の性別通りの人間なのか?
それとも、リアルでは別の性別で、この世界では違う姿をしているのか?
「……そんなの、見分けがつかない……。」
結衣が小さくつぶやくと、寮長は微笑んだ。
「そうね。でも、それがこのバーチャル研修の面白いところなのよ。」
「面白い、ですか……?」
「リアルでの性別に関係なく、あなたはこの世界で“中村結衣”として過ごす。そして、他の人もまた、リアルの自分とは違う形でここにいるかもしれない。」
「……。」
「つまりね、大事なのは**『その人が誰なのか』ではなく、『どんな人なのか』ということ**よ。」
結衣は、その言葉を反芻した。
**——リアルの性別ではなく、バーチャルでの自分がどうあるか。**
今まで意識していなかったが、それはとても重要なことなのかもしれない。
「……私にとっての“中村結衣”は、どんな人なんでしょうか。」
ポツリとつぶやくと、寮長は優しく微笑んだ。
「それは、あなたがこれから見つけることね。」
結衣はそっと、自分の手を握りしめた。
この三か月間の研修で、自分は何を見つけることができるのだろうか——。
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