とある会社の秘密の研修

廣瀬純七

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初デート

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翌日、結衣は玲奈先輩から借りた淡いピンクのワンピースを身にまとい、ショッピングモールへと向かった。  

「……こんな服着て出かけるの、初めてかも。」  

バーチャルの世界に来てから何度か外に出ることはあったが、仕事や研修ばかりで、こうして「プライベート」で待ち合わせをするのは初めてだった。  

駅からモールに向かう途中、ショーウィンドウに映った自分の姿をふと見てしまう。  

そこに映っていたのは、**完全に「中村結衣」という一人の女性だった。**  

「……うん、大丈夫。」  

自分にそう言い聞かせながら、待ち合わせ場所へ向かう。  

### **待ち合わせ**  

12時ちょうど。  

モールの入り口でキョロキョロと辺りを見回していると——  

「結衣さん!」  

少し離れたところから手を振る男性の姿があった。  

「……っ!」  

思わず息をのむ。  

そこにいたのは、バーチャルの世界の「木村健一」。  

**つまり、自分と瓜二つの「本来の姿」にそっくりな男性。**  

「来てくれてありがとう!」  

健一は爽やかに笑いながら、自然な仕草で結衣の隣に並んだ。  

「いえ、こちらこそ……。」  

改めて近くで見ると、本当にリアルな存在だった。  

自分の元々の姿と、声も雰囲気もそっくり。  

「さて、どこから回ろうか?」  

「えっと……。」  

戸惑っていると、健一は「ちょっとこっち来て」と言いながら歩き出す。  

——まるで「男の自分」が女性をリードするような動きだった。  

不思議な感覚に包まれながら、結衣はその後ろをついていく。  

### **買い物とランチ**  

まず最初に入ったのは雑貨屋。  

「ちょっとしたインテリアとか、オフィスで使える小物が揃ってるみたいだよ。」  

「へぇ、こういうお店ってあまり入ったことなかったかも……。」  

並ぶ可愛い雑貨を眺めながら、結衣はふと「もしリアルの自分だったら、こういう店に興味を持っただろうか」と考えてしまう。  

「これなんかどう?」  

健一が手に取ったのは、シンプルなデザインのボールペンセットだった。  

「仕事でも使えそうだし、いいんじゃない?」  

「うん、確かに……。」  

**——まるで、男性の自分が女性の自分にプレゼントを選んでいるような感覚。**  

頭の中が少し混乱しそうになるが、それ以上に会話が弾むのが心地よかった。  

その後、二人はカフェに入り、ランチを取ることにした。  

「ここ、結構美味しいらしいよ。」  

「そうなんですか?」  

「うん、前に同期の子と来たことがあって。」  

その一言に、また妙な違和感を覚える。  

**——「同期」? AIなのに?**  

この世界の健一がただのプログラムなら、そんな「過去の経験」があるのだろうか。  

**——それとも、本当に誰かが操っているのか?**  

「結衣さん?」  

「えっ?」  

「大丈夫? ちょっと考え事してた?」  

「あ、はい……。」  

健一は少し心配そうにしながら、「無理しないでね」と微笑んだ。  

その笑顔を見て、結衣は少し安心した。  

**——少なくとも、今は楽しく過ごそう。**  

そう思い、目の前のパスタにフォークを伸ばした。  

### **デートの終わりと新たな疑問**  

買い物を楽しみ、カフェでゆっくり過ごし、モールを歩き回ったあと——  

「今日は楽しかったよ、ありがとう。」  

健一はそう言いながら、結衣を駅まで送ってくれた。  

「いえ、こちらこそ……。」  

「また、よかったらどこか行こうね。」  

そう言って笑う健一に、結衣は「はい」と自然に答えていた。  

**——AIかもしれないけど、本当に「人」として接してしまう。**  

バーチャルの世界での「デート」は、思っていたよりもずっとリアルだった。  

そして、結衣の中である疑問が大きく膨らんでいく。  

**「バーチャルの木村健一は、本当にAIなのか?」**  

それとも——  

**「リアルの誰かが操っているのか?」**  

その答えを知る日は、もうすぐなのかもしれない。
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