50 / 51
秘密
しおりを挟む結衣と健一がバーチャルの世界の住民になってから数日が経った。穏やかな時間が流れる中、ふたりはいつものカフェで向かい合って座っていた。
しかし、今日は健一の表情がどこか真剣だった。
「結衣……俺、最近気づいたことがあるんだ」
「え?」
健一は少し息を整えてから、静かに言葉を紡いだ。
「私はリアルの世界では……中村結衣だったんだ。そして……あなたは木村健一だったんでしょう?」
その言葉を聞いた瞬間、結衣の胸が大きく高鳴った。やっぱり——。
結衣は少し驚いた顔をした後、ふっと微笑んだ。
「……それは途中から何となく分かっていたわ」
健一は目を見開き、結衣の手をそっと握った。
「じゃあ、やっぱり……」
「うん。でも、それがどうしたの?」
「どうしたって……驚かないのか?」
「ううん、むしろ納得したの。だって、こうしてあなたと惹かれ合ったのも、きっと運命だったんだと思うから」
健一は静かに微笑んだ。
「……そうか。俺もそう思う」
ふたりはただお互いを見つめ合った。
リアルの世界では、木村健一と中村結衣だったふたり。
しかし、バーチャルの世界では、二人の体が入れ替わって健一は結衣になり結衣は健一になって出会い、恋に落ちた。
「これからもずっと、一緒にいよう」
「ええ……あなたとなら、どこにいても幸せだから」
ふたりは静かに手を取り合い、新しい人生を歩み始めた。
### **玲奈さん夫婦の秘密**
結衣と健一がバーチャルの世界の住民になってから、しばらくの時間が流れた。
ある日の夜、ふたりは寮の談話室でくつろぎながら話をしていた。
健一がふと真剣な顔になり、結衣の方を見つめる。
「結衣、ちょっと驚くかもしれないけど……実は先日結婚した玲奈さん夫婦も、俺たちと同じなんだ」
「えっ?」
「玲奈さんと木島さん、リアルの世界ではお互いの体が入れ替わっていたんだって」
結衣は思わず息をのんだ。
「それってつまり……リアルの世界では玲奈さんが木島さんで、木島さんが玲奈さんだったってこと?」
「そういうことみたいだ」
結衣は目を丸くして、健一の言葉を反芻した。
「でも、それって……お互いに本当の自分を知ったうえで結婚したってこと?」
健一は頷く。
「そうみたいだよ。玲奈さんは『性別なんて関係ない。一番大事なのは心よ』って言ってたって」
結衣はしばらく沈黙したあと、ふっと微笑んだ。
「……なんだか素敵ね」
「うん、俺もそう思う」
結衣は玲奈の幸せそうな笑顔を思い出しながら、そっと健一の手を握った。
「私たちも、玲奈さんたちみたいに幸せになれるかな?」
「もちろん。俺たちも、ずっと一緒にいよう」
健一が優しく微笑むと、結衣も小さく頷いた。
バーチャルの世界では、性別も過去も関係ない。
大切なのは、心と心が通じ合うこと。
結衣は改めて、今ここで生きていくことを選んで良かったと思った。
10
あなたにおすすめの小説
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる