セックスチェンジアプリ

廣瀬純七

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タイムリミット

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 「ひかりちゃん、初日お疲れ様!」  

 千尋が笑顔で声をかける。店長も「慣れるのが早いね」と微笑んでくれた。俺はホッとしながら控え室でエプロンを外す。  

 でも――ここで油断してはいけない。  

 スマホの画面を見ると、変身アプリのタイマーが点滅している。残り時間、あと60分。もしこの姿のまま外にいたら、突然元の姿に戻ってしまう。そんなことになったら一大事だ。  

 「すみません、今日はちょっと用事があるので先に失礼します!」  

 俺は慌てて店を飛び出した。駅までの道を急ぎ、電車に乗り、自宅までの距離をひたすら走る。  

 ――あと10分。  

 心臓が早鐘のように鳴る。マンションの階段を駆け上がり、部屋の鍵を開けると、すぐにベッドに飛び込んだ。  

 そして、次の瞬間。  

 視界が揺れ、頭がくらくらする。アプリの画面が「変身解除」と表示されると、俺の体がゆっくりと元の姿に戻っていく。  

 ――俺は、霧島翔に戻った。  

 メイド喫茶での甘い時間は消え去り、部屋の薄暗い灯りの中、男に戻った自分が鏡に映る。  

 「……本当に、夢みたいだったな」  

 明日、またアプリを使えば、俺は「ひかり」に戻れる。でも、それはいつまで続けられるんだろう――?  


 湯船の中で、俺はぼんやりと天井を見上げた。湯気がゆらゆらと舞い、まるで夢の中にいるような気分になる。けれど、現実は冷酷だった――俺はもう「ひかり」ではない。  

 12時間の魔法は解け、気づけばいつもの自分に戻っている。  

 「なんか俺、シンデレラみたいだな……」  

 思わず口に出して、自分で笑ってしまう。シンデレラは華やかな舞踏会の後、魔法が解けて元の姿に戻った。でも、俺の場合はメイド喫茶という夢の世界から、ただの契約解除された男に戻っただけだ。  

 ――違う。少しは違うかもしれない。  

 確かに俺は今、平凡な32歳の男に戻った。でも、昼間のひかりとして過ごした時間は確かに存在した。メイド服を着て「お帰りなさいませ、ご主人様!」と声をかけ、お客様と笑い合い、紅茶をこぼし、先輩メイドに励まされ……すべてが幻ではない。  

 だけど、それは12時間しか続かない夢。  

 「もし、ずっとこのままでいられたら……?」  

 俺は自分の手を見つめた。大きく、しっかりとした男の手。その手が、昼間は華奢で可愛らしいものに変わっていた。まるで、別の人生を生きているみたいだった。  

 魔法が解ける前に、もっと楽しみたかった。  

 俺は少し湯船の中で目を閉じ、次の12時間を想像した。明日また「ひかり」としてメイド喫茶に行く。その時間だけは、本当の自分になれるような気がする。  

 ――そう思ったら、俺の「午前0時」はそれほど悪くないのかもしれない。  

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