セックスチェンジアプリ

廣瀬純七

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思い出の断片

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 店の掃除を終えて控え室に戻ると、俺はふっと息をついた。今日も無事に終わった。真奈が来たことは驚きだったが、なんとか乗り切ることができた。でも、何かが引っかかっている。  

 ――そうだ。俺が初めてメイド喫茶に興味を持ったのって、いつだったっけ?  

 記憶をたどる。  

 数年前、仕事でくたくたになって帰宅したとき、リビングで真奈が楽しそうにスマホを見ながら話していた。  

 「お兄ちゃん、メイド喫茶って知ってる?」  

 「知ってるけど、行ったことはないな」  

 「すっごく楽しいんだよ!『お帰りなさいませ、ご主人様』って迎えられて、紅茶も美味しいし、世界観が素敵なの!」  

 あの時の真奈の話が、俺の心のどこかにずっと残っていた。そして、気づけば俺は今、「ひかり」としてその世界の中にいる。  

 ――メイド喫茶を教えてくれたのは、真奈だったんだ。  

 俺は思わず笑ってしまった。まさか、こんな形で繋がるとは思わなかった。でも、彼女には絶対に知られちゃいけない。  

 「また来るね」  

 真奈はそう言って店を後にした。次に来たときも、俺は“ひかり”として接客するだろう。でも、その裏で、真奈に心の中で「ありがとう」と言いたい気持ちが湧き上がっていた。  

 ――もし彼女が俺の正体を知ったら、何て言うんだろう?  


仕事が終わり、ひかりは駅のホームに立っていた。

 「電車、遅延しております」  

 ホームのアナウンスが響く。俺はスマホの画面を確認した。変身解除まで、あと10分。  

 ――まずい。  

 駅のホームに立ち尽くしながら、焦りがこみ上げる。予定通りなら今頃マンションの階段を駆け上がっているはずなのに。電車が止まったまま動かない。  

 「……どうする?」  

 乗客のざわつく声が耳に入る。ひかりの姿のまま、この場で元に戻ってしまったらどうなる?この駅には人が多いし、見られるのは確実だ。  

 選択肢はひとつしかなかった。  

 ――とにかく、人目を避ける。  

 俺は改札を抜け、駅の片隅のベンチへ向かった。スマホのカウントダウンは、あと3分。胸の鼓動が早くなる。  

 そして、その瞬間。  

 視界がゆらぎ、手足がじんわりと熱くなる。身体が変わっていく感覚――俺は元の姿に戻っていく。  

 数秒後、俺はベンチの端に座る「霧島翔」として、静かに息を整えていた。  

 「……ギリギリだったな」  

 周囲に誰もいないことを確認し、俺はそっと立ち上がる。  

 いつか、こんな危機はまた訪れるかもしれない。変身のタイムリミットがある以上、俺は常に時計とにらめっこする生活を続けなければならないのだ――。  

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