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彩音
しおりを挟む「私、男になっちゃったの……。」
彩音(あやね)は鏡を見つめながら、信じられない思いで自分の変わった体を確認していた。数日前まで、彼女は普通の女性だった。いや、"普通"とは言えないかもしれない。この世界では、新たに発見されたウイルスが猛威を振るい、感染者の性別を変えてしまうという信じ難い事態が起きていたのだ。
ウイルスの名前は「リジェンダウイルス」。数年前から突然現れ、最初はまるで都市伝説のように囁かれていた。感染すると、数週間の潜伏期間を経て、徐々に体が変化していく。科学者たちは必死に治療法を探していたが、未だ確立された治療法は見つかっていない。
#### 第1章: 発端
彩音がそのウイルスに感染したと気づいたのは、最初の症状が現れた時だった。体が重く、いつもとは違う感覚が体内を巡っているのを感じた。彼女は体調不良だと思い、風邪薬を飲んで一晩休むことにした。
しかし、次の日の朝、鏡を見た彼女は、自分の顔立ちがほんの少し変わっていることに気づいた。頬が引き締まり、唇の形が微妙に変わっている。そして何よりも声が低くなっていた。
「風邪のせいかしら……?」
心配しつつも、あまり深く考えず仕事に向かった。しかし、日を追うごとに異変はますます顕著になっていった。胸が少しずつ平らになり、体毛が濃くなり、ついには喉仏まで現れ始めた。
「まさか、あのウイルスに……?」
友人たちの間でもリジェンダウイルスの噂は耳にしていたが、自分が感染するとは思ってもみなかった。
#### 第2章: 変化の受容
日々、体が男性化していく中で、彩音は自分のアイデンティティに苦しんだ。鏡に映る自分はもはや、自分ではない。友達や家族も戸惑い、距離を置き始めた。職場でも「以前とは違う」という視線を感じるようになり、彩音は次第に外に出ることさえ恐ろしくなっていった。
ある日、親友の美咲(みさき)にすべてを打ち明けた。
「美咲、私……もう女じゃないの。身体が、どんどん変わっていく。どうしたらいいのかわからない。」
美咲は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに彩音の手を握りしめた。
「大丈夫だよ。私はあんたが誰であろうと、変わらないよ。男になっても彩音は彩音でしょ?」
その言葉に彩音は涙が溢れた。自分を理解してくれる人がいる。それだけで少しだけ気持ちが楽になった。
#### 第3章: 新しい自分
変化が完全に進んだ時、彩音の外見は完全に男性のものとなった。元の女性らしい柔らかな顔立ちはなくなり、筋肉質な体つきと低い声、濃い髭が特徴的な男の姿がそこにあった。しかし、彼女の心の中にはまだ彩音という女性が存在していた。
それでも、彩音は少しずつ新しい生活に順応し始めた。服装も男性的なものに変え、周囲に合わせるように努力したが、内心ではまだ葛藤が続いていた。
ある日、彩音は街を歩いていると、一人の男性に声をかけられた。
「君、前は女性だったんじゃない?」
彼はリジェンダウイルス感染者を支援するグループのリーダーで、同じような経験をした人々を集めていた。彼との出会いは彩音にとって大きな転機となった。彼女はそのグループに参加し、同じ境遇の仲間たちと話すことで、自分だけが苦しんでいるわけではないことを知った。
#### 第4章: 自分を見つける旅
彩音はその後、少しずつ自分自身を取り戻していった。新しい体に違和感はあったが、それを受け入れることで、自分の中にあった強さに気づいた。そして、男性としての新しい生活をスタートさせた。
彼女は、男になったからといって、心の中の女性が消え去ったわけではないことを理解した。むしろ、両方の側面を持つ自分を受け入れることで、より深い自己理解に至ったのだ。
「私は男でも女でもない。ただ、私なんだ。」
そうつぶやきながら、彩音は新しい自分を見つめ直し、新たな未来へと歩き出した。
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### エピローグ
性転換ウイルスによって、彩音は大きな変化を経験した。しかし、その変化を通じて彼女は、自分が誰であるかをより深く理解することができた。この先も多くの困難が待っているかもしれないが、彼女はもう一人じゃない。
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