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第一章
変身
しおりを挟む翌朝、彩香は昨夜の出来事を反芻しながらコーヒーを飲んでいた。クリームを使い、男性の姿となって行動したことで得られた新しい感覚――自分の言葉が相手に響く、力強い存在感。それは、これまでの彼女の人生では味わったことのないものだった。
「でも、これをどう使うべきなのか……」
彩香の心には、まだ迷いがあった。自分が楽しむためだけならば簡単だ。しかし、このクリームにはもっと大きな可能性がある気がしてならない。社会での役割や影響力、そして自分の人生を変える選択肢として。
**職場での挑戦**
その日の午後、彩香はついに職場でクリームを使う決意をした。理由はシンプルだった。来週行われるクライアント向けの大きなプレゼン。彩香が考えたコンセプトは斬新で確信があったが、男性上司たちからは「ちょっと冒険的すぎる」と半ば却下されかけている。
「自分の意見を押し通すには、このクリームが必要かもしれない」
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仕事が終わり、誰もいない休憩室で彩香は再びクリームを取り出した。今回は、顔だけでなく喉元にも少量を塗布した。鏡を見つめると、彼女の顔立ちはみるみるうちに男性的なものに変化し、声も低く太いトーンになった。
「これで大丈夫……よね?」
翌朝、彩香――いや、男性としての「彩人(あやと)」はスーツ姿で出社した。同僚たちは初めて見る「新人男性社員」に驚いたが、特に疑問を抱くこともなく受け入れた。
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**会議室での衝撃**
プレゼン当日、彩人として会議室に立った彩香は、これまでの自分とは全く違う感覚を味わった。堂々と意見を述べる彼を、男性上司たちは一目置いているようだった。
「素晴らしいアイデアですね。この方向で進めましょう!」
上司の一人が満足そうに頷く。彩香として伝えていた時には「リスクが高い」と一蹴された内容が、彩人の言葉では説得力を持ったのだ。
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**現実に戻る瞬間**
しかし、成功の喜びも束の間、彩香の心に疑念が芽生えた。
「自分が『男性』として見られることで評価されたってこと? 本来の私自身じゃ、認められないってことなの?」
その夜、彩香は男性の姿のまま帰宅し、鏡の前でじっと自分の姿を見つめた。このクリームは確かに可能性を広げてくれるが、それと同時に、現実の厳しさを突きつけてくる道具でもある。
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**次なる一歩**
彩香はクリームをポーチにしまい、深く息をついた。
「この力を使って、どう社会を変えていけるか考えないと……」
彼女は再び自分の未来を描き始めた。そして、それが単なる「変身」ではなく、誰もが自分らしく生きられる社会を作るための一歩であると信じて。
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