どうやら私はラスボス魔王の娘に憑依したらしい。

枝豆@敦騎

文字の大きさ
20 / 25

20

しおりを挟む
「怖気付いたか?」

フッと鼻で笑われ思わず睨みつける。

「し、仕方ないじゃない……こんなに沢山の人の前に注目されながら出ることなかったんだもの……」

それだけじゃない、私は変に注目されるのが怖いのだ。
いじめられていた時の、嘲笑うようなあのじっとりとした視線を向けられる感覚が蘇る。私のことを話しているとは限らないのに私の悪口を言っているように思えてしまう。
中にはわざと私に好意的な態度を取り、つい話した雑談にもならない内容を『こんなこと言ってた』と嘲笑うためだけに言いふらす人間もいた。
人間不信やうつ病、自殺未遂を犯しても不思議ではないくらい私が追い詰められていた時の記憶が蘇る。医師にかかり何かしらの病名が与えられれば、私の環境はもう少し違ったかもしれないが母は私が心療内科や精神科に行くことを禁じた。
一度こっそりと行ったけれどそれがバレてひどく暴言を吐かれたこともある。
実際、あの時はカミソリで手を切ったりもした。と言っても母に見つかると『イジメられるお前が悪い、お前が異常者だから』と責められるので手首をざっくりと、ではなく他の怪我とごまかせるように手の甲を痕が残らない程度に薄く切り付ける程度だったが。
今振り返れば異常者と責めるくせに、医者にも行かせてくれない母が異常だと分かるが。

(怖い、嫌だ、逃げたい……)

昔の記憶とマイナスの感情が私の中に溢れ出して、この体には無いはずの傷痕がズキズキと痛む気がした。
なかなか姿を表さない魔王とその娘を不審に思ってかホールがザワつく。

(行かなきゃ……私は大丈夫、大丈夫にする、大丈夫になる、こんなこと何でもない)

繰り返し自分に言い聞かせるのに足は動かない。
私の様子にクローケンが動揺してるのが伝わってくる。

(わたしは、私は、大丈夫、大丈夫になる、大丈夫だから、大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫……)

「ヴィア」

ぎゅっと手を組みながら何度も心の中で繰り返しているといきなり抱き上げられた。
ビクリと肩を震わせ驚きながら思わずしがみつくと、サイアスの真っ赤な瞳と目が合う。

「恐ろしいなら見なくていい。私の肩に顔を押し付けていろ」
「……でも」
「構わない。王である私が良しとしている」

そう言ってサイアスは私の髪が乱れないようにそっと後頭部に手を添えてぽんぽんと撫でる。
気遣ってくれてるのだろう。

「挨拶を終えたらすぐに部屋に戻してやる。少しだけ我慢してくれ」
「……うん、ありがとう」
「……ん」

小さく礼を言うとサイアスが微笑んだ。
その微笑みに心が少しだけ救われた気がして、私はしがみつきサイアスの肩に顔を埋めた。

そのままサイアスはホールへ続く階段を降りていく。
遅れて登場した魔王にホールに集まった人々は戸惑いながらも視線を向けていく。もちろんサイアスにしがみついてる私にも。
ありえないのに私を見て嘲笑ってるように錯覚し、しがみつく手が震える。
そんな私の背中にサイアスは手を添えながら階段を降りきると、ホールにいる魔族に向けて挨拶をする。
自分の過去からくる恐怖に耐えるのに必死で内容はほぼ覚えてないが「新人騎士着任おめでとう」とか「国の発展のために力を貸してほしい」とかそんな内容だった。

「……私からの言葉は以上だ。後は思い思いに楽しめ」

サイアスがそう締めくくるとホール内にクラシックのような穏やかな音楽が流れ始め、人々が好きに行動し始める。

「ケビン。ヴィアを部屋に連れて行け」
「しかしこの後は……っ、分かりました」

私の顔見せも予定に組まれていたのだろう。この後の予定を口にしかけて、私がまだ小さく震えている事に気がついたケビンはすぐに了承する。

「ヴィア、よく頑張った。もう部屋に戻っていい」

サイアスは私の体を下ろすと優しく頭を撫でた。

「……パパは行かないの?」

ケビンが頼りない訳ではないが、何故かサイアスとケビンでは安心感が違う。不安な気持ちからつい子供のようなことを言ってしまった。

「私はまだ少しやることがあるから残らねばならない。戻るのは遅くなるだろう」

魔王として挨拶回りや声がけなどすることは沢山あるのだろう。
少し心細さを感じるが子供のように我儘を言ってはいけない。部屋に戻れるだけ良しとしなくては。

「わかった。私は大丈夫。ケビンと部屋に戻るわ」

そう言ってサイアスから手を離し、代わりにケビンと手を繋ぐ。

「ケビン、頼んだぞ」
「畏まりました。ヴィアお嬢様、行きましょうか」
「うん。じゃあね、パパ」

手をひらひら振り、私はケビンと今降りてきた階段を登る。
人目につかないカーテンの裏まで戻ると、ようやく恐怖心が薄くなった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

婚約破棄された公爵令嬢と、処方箋を無視する天才薬師 ――正しい医療は、二人で始めます

ふわふわ
恋愛
「その医療は、本当に正しいと言えますか?」 医療体制への疑問を口にしたことで、 公爵令嬢ミーシャ・ゲートは、 医会の頂点に立つ婚約者ウッド・マウント公爵から 一方的に婚約を破棄される。 ――素人の戯言。 ――体制批判は不敬。 そう断じられ、 “医療を否定した危険な令嬢”として社交界からも排斥されたミーシャは、 それでも引かなかった。 ならば私は、正しい医療を制度として作る。 一方その頃、国営薬局に現れた謎の新人薬師・ギ・メイ。 彼女は転生者であり、前世の知識を持つ薬師だった。 画一的な万能薬が当然とされる現場で、 彼女は処方箋に書かれたわずかな情報から、 最適な調剤を次々と生み出していく。 「決められた万能薬を使わず、  問題が起きたら、どうするつもりだ?」 そう問われても、彼女は即答する。 「私、失敗しませんから」 (……一度言ってみたかったのよね。このドラマの台詞) 結果は明らかだった。 患者は回復し、評判は広がる。 だが―― 制度は、個人の“正 制度を変えようとする令嬢。 現場で結果を出し続ける薬師。 医師、薬局、医会、王宮。 それぞれの立場と正義が衝突する中、 医療改革はやがて「裁き」の局面へと進んでいく。 これは、 転生者の知識で無双するだけでは終わらない医療改革ファンタジー。 正しさとは何か。 責任は誰が負うべきか。 最後に裁かれるのは―― 人か、制度か。

『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」 幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された 公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。 その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、 彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。 目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。 だが、中身は何ひとつ変わっていない。 にもかかわらず、 かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、 「やり直したい」とすり寄ってくる。 「見かけが変わっても、中身は同じです。 それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」 静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。 やがて彼女に興味を示したのは、 隣国ノルディアの王太子エドワルド。 彼が見ていたのは、美貌ではなく―― 対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。 これは、 外見で価値を決められた令嬢が、 「選ばれる人生」をやめ、 自分の意思で未来を選び直す物語。 静かなざまぁと、 対等な関係から始まる大人の恋。 そして―― 自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。 ---

余命半年の僕は、君を英雄にするために「裏切り者」の汚名を着る

深渡 ケイ
ファンタジー
魔力を持たない少年アルトは、ある日、残酷な未来を知ってしまう。 最愛の幼馴染であり「勇者」であるレナが、半年後に味方の裏切りによって惨殺される未来を。 未来を変える代償として、半年で全身が石化して死ぬ呪いを受けたアルトは、残された命をかけた孤独な決断を下す。 「僕が最悪の裏切り者となって、彼女を救う礎になろう」 卓越した頭脳で、冷徹な「悪の参謀」を演じるアルト。彼の真意を知らないレナは、彼を軽蔑し、やがて憎悪の刃を向ける。 石化していく体に走る激痛と、愛する人に憎まれる絶望。それでも彼は、仮面の下で血の涙を流しながら、彼女を英雄にするための完璧なシナリオを紡ぎ続ける。 これは、誰よりも彼女の幸せを願った少年が、世界一の嫌われ者として死んでいく、至高の献身の物語。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

処理中です...