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02-ここどこだよ!?
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自宅に帰って菓子パンで食事を済ませた後は購入したばかりの粘土をしまい、作りかけの粘土細工を完成させることにした。
今作っているのは食品サンプル……いや、フェイクフードやミニチュアフードと呼ばれてるものだ。
今度、近くの大型施設でハンドメイドの即売会イベントが行われるのでそこで販売するものを完成させる。
参加者は女性が多くて最初の頃は男一人で参加することに躊躇いもあったが、今ではすっかり顔なじみの出展者さんもいて居心地のいい空間である。
それに何より、俺の作ったものを嬉しそうに買ってくれたり褒めてくれる人がいるのが何より嬉しい!
褒められたりすると次も頑張ろうという気持ちになる。
売上や来てくれたお客さんの数は俺の物作りの活力に直結してるのだ。
今回作るのは華やかな苺のホールケーキ。
マス目の書かれたボートに白い養生テープを貼って粘土が付着しにくくしたオリジナルの粘土板を取り出し、白い樹脂粘土を目分量で出し捏ねて形を整える。
きちんとしたプロの作家さんなら専用の道具を使うのかもしれないが、俺はそこまで道具にこだわっていない。
粘土ヘラも百均でそろえたものだし、粘土をつぶすのに使うプレッサーの代わりに幅のある定規を使っている。
プロになりたいわけでもないし、自分がそれなりに楽しめればいいと思ってるからな。
土台が出来たらケーキの側面に質感を付ける。
ここで使うのは歯ブラシだ。歯ブラシで軽く表面をトントンと叩くことによってケーキらしい質感になる。
お次はデコレーション。
何日か前に作って置いた飾りの苺とクリームを載せる。
苺もクリームも、もちろん樹脂粘土で作った。
苺は爪の先くらい小さく丸めた粘土を雫の形にして爪楊枝の先端を押し付け凹ませ種を表現、乾燥させたら水に溶いた絵の具で着色してさらに乾かして作った。
クリームは紙粘土と樹脂粘土を混ぜたものを水に溶かして混ぜ、トレカサイズのチャック付きポリ袋にいれておいたものを使う。ミニチュアサイズの絞り口なんてないからポリ袋の端っこをカッターで切り抜いてそこから本物の生クリームみたいに絞りだすんだ。これが結構難しい。
土台をクリームで飾り、仕上げに苺を乗せる。
本物、とまでは行かないがそこそこ美味しそうな見た目にできた。
あとはしっかりと乾燥させるだけ。
ここが一番長い。
大きさや混ぜ合わせた粘土の種類によっては乾燥に何日もかかることもある。
乾燥が中途半端だとせっかく綺麗に出来ても、ちょっとした力でつぶれたりしてしまう。
だから手がぶつかったりしない場所に棚を作って完成するまで触れずに置いて置くのだ。
「こうしてみると俺、上達したよなぁ……」
乾燥用の棚に並べた粘土のミニチュアを眺めしみじみと呟く。
始めたばかりの頃はそれこそ園児のお遊びと変わらない出来だったが、今ではそこそこのものが作れるようになった。
とは言えプロのハンドメイド作家に比べたら俺なんかひよっこだ。
それでもいい、俺の作ったもので喜んでくれる人が一人でもいるなら俺はずっと作り続けるだろう。
ずっと同じ姿勢で集中していたせいか肩や腰が痛い。
そろそろ風呂に入って寝る支度をしようかと椅子から立ち上がった瞬間。
ガタガタガタガタガタッ
部屋が大きく揺れて立っていられなくなる。
(地震か!?)
俺は慌ててスマホを握りしめ机の下に潜り込んだ。
揺れは五秒程度で収まったがかなり大きかった気がする。
だが不思議なことにスマホの警報もならなかったし、部屋のものは何一つ動いていない。
不審に思ったが今のうちに避難経路を確保した方がいいだろう。
机の下から出て上着を掴み貴重品の入ってる鞄を手に玄関へ向かう。
靴を履いて何時でも逃げられる体制で玄関を開けた俺は、外の景色を見て愕然とした。
ドアの向こうは見慣れた街並みではなく、大自然が広がっていたのだ。
青々と生い茂る木々に、サラサラと流れる小川……そして少し離れた場所で月明りを受けキラキラと光る湖。
(…………)
外の景色は俺の理解の範疇を超えていた。
そのままぱたんとドアを閉める。
「なんだ、今の」
問いかけるが返事などあるはずもない。
もう一度ドアを開ける。やはり景色は大自然だ。
俺の目がおかしくなった?
あー、確かに最近細かい作業が多くて目を酷使してたからな……健康診断でも視力下がってたし、目が悪くなりすぎて幻覚が見えるとか?
んなわけあるか!
どう考えてもこれは異常事態だ。
手元のスマホを開き、とりあえず友人にかけてみる。真面目な奴だから馬鹿にせず解決策を探してくれるだろうと思ってかけてみたが繋がらない。
スマホ画面を見てみると圏外になっていた。
そんな馬鹿な。
俺の自宅はそこそこ都心にあって圏外になる事などまずありえない。
部屋の中に戻りテレビをつけてみるが電波が受信されていないのか映らない。
ノートパソコンを開いてみたがやはり繋がらない。
そこで俺はある事に気が付く。
ネットは繋がらないが何故か部屋の電気はついたままだ。テレビも電源は入ったし、パソコンも使える。
他にもガスや水道は使えるようでお風呂場のシャワーも問題なくお湯が出た。
外の景色はやっぱり俺の幻覚か?
目頭を指でつまみチカチカする視界を振り払ってもう一度玄関のドアを開ける。
やはり外は大自然だった。
ここどこだよ!?
今作っているのは食品サンプル……いや、フェイクフードやミニチュアフードと呼ばれてるものだ。
今度、近くの大型施設でハンドメイドの即売会イベントが行われるのでそこで販売するものを完成させる。
参加者は女性が多くて最初の頃は男一人で参加することに躊躇いもあったが、今ではすっかり顔なじみの出展者さんもいて居心地のいい空間である。
それに何より、俺の作ったものを嬉しそうに買ってくれたり褒めてくれる人がいるのが何より嬉しい!
褒められたりすると次も頑張ろうという気持ちになる。
売上や来てくれたお客さんの数は俺の物作りの活力に直結してるのだ。
今回作るのは華やかな苺のホールケーキ。
マス目の書かれたボートに白い養生テープを貼って粘土が付着しにくくしたオリジナルの粘土板を取り出し、白い樹脂粘土を目分量で出し捏ねて形を整える。
きちんとしたプロの作家さんなら専用の道具を使うのかもしれないが、俺はそこまで道具にこだわっていない。
粘土ヘラも百均でそろえたものだし、粘土をつぶすのに使うプレッサーの代わりに幅のある定規を使っている。
プロになりたいわけでもないし、自分がそれなりに楽しめればいいと思ってるからな。
土台が出来たらケーキの側面に質感を付ける。
ここで使うのは歯ブラシだ。歯ブラシで軽く表面をトントンと叩くことによってケーキらしい質感になる。
お次はデコレーション。
何日か前に作って置いた飾りの苺とクリームを載せる。
苺もクリームも、もちろん樹脂粘土で作った。
苺は爪の先くらい小さく丸めた粘土を雫の形にして爪楊枝の先端を押し付け凹ませ種を表現、乾燥させたら水に溶いた絵の具で着色してさらに乾かして作った。
クリームは紙粘土と樹脂粘土を混ぜたものを水に溶かして混ぜ、トレカサイズのチャック付きポリ袋にいれておいたものを使う。ミニチュアサイズの絞り口なんてないからポリ袋の端っこをカッターで切り抜いてそこから本物の生クリームみたいに絞りだすんだ。これが結構難しい。
土台をクリームで飾り、仕上げに苺を乗せる。
本物、とまでは行かないがそこそこ美味しそうな見た目にできた。
あとはしっかりと乾燥させるだけ。
ここが一番長い。
大きさや混ぜ合わせた粘土の種類によっては乾燥に何日もかかることもある。
乾燥が中途半端だとせっかく綺麗に出来ても、ちょっとした力でつぶれたりしてしまう。
だから手がぶつかったりしない場所に棚を作って完成するまで触れずに置いて置くのだ。
「こうしてみると俺、上達したよなぁ……」
乾燥用の棚に並べた粘土のミニチュアを眺めしみじみと呟く。
始めたばかりの頃はそれこそ園児のお遊びと変わらない出来だったが、今ではそこそこのものが作れるようになった。
とは言えプロのハンドメイド作家に比べたら俺なんかひよっこだ。
それでもいい、俺の作ったもので喜んでくれる人が一人でもいるなら俺はずっと作り続けるだろう。
ずっと同じ姿勢で集中していたせいか肩や腰が痛い。
そろそろ風呂に入って寝る支度をしようかと椅子から立ち上がった瞬間。
ガタガタガタガタガタッ
部屋が大きく揺れて立っていられなくなる。
(地震か!?)
俺は慌ててスマホを握りしめ机の下に潜り込んだ。
揺れは五秒程度で収まったがかなり大きかった気がする。
だが不思議なことにスマホの警報もならなかったし、部屋のものは何一つ動いていない。
不審に思ったが今のうちに避難経路を確保した方がいいだろう。
机の下から出て上着を掴み貴重品の入ってる鞄を手に玄関へ向かう。
靴を履いて何時でも逃げられる体制で玄関を開けた俺は、外の景色を見て愕然とした。
ドアの向こうは見慣れた街並みではなく、大自然が広がっていたのだ。
青々と生い茂る木々に、サラサラと流れる小川……そして少し離れた場所で月明りを受けキラキラと光る湖。
(…………)
外の景色は俺の理解の範疇を超えていた。
そのままぱたんとドアを閉める。
「なんだ、今の」
問いかけるが返事などあるはずもない。
もう一度ドアを開ける。やはり景色は大自然だ。
俺の目がおかしくなった?
あー、確かに最近細かい作業が多くて目を酷使してたからな……健康診断でも視力下がってたし、目が悪くなりすぎて幻覚が見えるとか?
んなわけあるか!
どう考えてもこれは異常事態だ。
手元のスマホを開き、とりあえず友人にかけてみる。真面目な奴だから馬鹿にせず解決策を探してくれるだろうと思ってかけてみたが繋がらない。
スマホ画面を見てみると圏外になっていた。
そんな馬鹿な。
俺の自宅はそこそこ都心にあって圏外になる事などまずありえない。
部屋の中に戻りテレビをつけてみるが電波が受信されていないのか映らない。
ノートパソコンを開いてみたがやはり繋がらない。
そこで俺はある事に気が付く。
ネットは繋がらないが何故か部屋の電気はついたままだ。テレビも電源は入ったし、パソコンも使える。
他にもガスや水道は使えるようでお風呂場のシャワーも問題なくお湯が出た。
外の景色はやっぱり俺の幻覚か?
目頭を指でつまみチカチカする視界を振り払ってもう一度玄関のドアを開ける。
やはり外は大自然だった。
ここどこだよ!?
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