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15-報連相

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食事を終えた後、俺が食器を片付けて戻ると子供達は床に丸まって寝ていた。
追手から逃げて疲れ切っていたんだろう。
寝室から毛布を持ってきてかけてやる。
後でこの子たちの寝床も作らないとと考えていると、エリシアが俺を廊下に連れ出した。

「あの子達を追いかけてた男達だけど、探知魔法で調べてみたらさっきようやく歩けるようになってここから離れて行ったわ」
「そうですか……ここの事はバレてませんかね?」
「それは大丈夫。武器もニロが奪ったし、聖域の外には魔物がいるから逃げた所で魔物の餌になるわ」
「あー……武器取り上げたのはやり過ぎたかもです」
「いいのよ。あいつらマルセルとライネルを奴隷って呼んでたでしょ?この国は奴隷の使役や売買を禁じているんだけどたまにいるのよ、この国で誘拐した人を奴隷制度が許されている他国で販売する奴隷商人が。彼らもその部類でしょうし、魔物に食い殺された方が世の中のためだわ」

エリシアさん容赦ないっす!!
でも誘拐して奴隷にする、なんて日本人の俺からしたらやっぱ許せないから否定はしない。

「あの子たちもかなり怖い思いをしたと思うし、話は落ち着いてから聞きましょう。それから一応、魔道具でデリックに子供達を保護した報告をお願いしていいかしら。たしかこの前貰っていたわよね」
「あ、はい。わかりました……あ、でも俺、通信のやり方がわからなくて」
「それなら大丈夫よ、鏡に向かってデリックの名前を呼べば繋がるはずだから」
「わかりました、やってみます」
「じゃあ私は子供達についてるからお願いするわね」
「はい」

リビングに戻るエリシアを見送ってから寝室に向かい、俺は通信用の魔道具を手に取った。

「デリックさーん、デリックさん、いらっしゃいますか?」

鏡に向かって声をかけてみると表面がぱっと切り替わりデリックが姿を現す。

『おやニロ。どうしましたか?エリシアが何か我儘でも?』
『何!?ニロから通信か?デリック、変わってくれ』
『ニロ!?エリシアは!?二人とも元気?』
『ジャック、レイチェル、落ち着け!』

【何でも屋】のメンバーが集まってたいのか途端に騒がしくなる。
元気そうな姿に思わず笑みが浮かんだ。

「皆さんお元気そうで。あ、エリシアさんも元気ですよ。今ここにはいませんけど」
『よかったー!ニロ、私が心配してるってエリシアに伝えてね!』

レイチェルの安堵した声が聞こえる。

「わかりました。必ず伝えます。それでデリックさんにお伝えする事があったんです」
『なんでしょう?』

俺はパンダ獣人の兄弟を保護したことや追い払った男達の事を全てデリックに説明した。
傍に居るジャック達も聞いているだろう。

『……なるほど、奴隷商人ですか。彼らの特徴は分かります?扱っていた武器など覚えていれば教えて頂きたいのですが』
「あ、それなら武器は奴らから取り上げて俺の家で保管してます」
『それは良い判断でしたね、扱う武器によっては入手経路から奴隷商人が何処の国の人間か分かることもありますから。セドリック、ニロの家に武器を引き取りに行ってもらえますか?』
『構わないが……今受けている依頼はどうする?』
『それなら私達でなんとかなるよ?簡単な討伐依頼だし』
『そうか。なら明日にでも武器を引き取りに行こう』
『お願いします……という訳でニロ、明日はセドリックがお邪魔しますね』
「え、明日ですか?」

翌日と言う言葉に驚く。
たしか彼らの街からここまで歩いて二日かかるはずだが。
そう思い尋ねてみると通信機の向こうでセドリックが答えた。

『俺は転移魔法が使えるんだ。ただ一度行った場所にしか行けないのと、自分一人とちょっとした荷物しか移動させられないという制限がある』

転移魔法!瞬間移動みたいなものか……!!
いいなあ、俺もそんな力があればジャックさん達のいる街に遊びに行けるのに……!!

「便利ですね、羨ましいです!」
『確かに個人で動く時は便利だな。ただ魔力消費も多いからあまり連続して使えないが』

便利と言っても無制限に使えるわけじゃないらしい。
魔法といっても万能じゃないんだな、勉強になった。

明日セドリックが来た時に保管してる武器を渡す約束をして通信を切る。
リビングに戻り子供達を起さない様に気を付けながらエリシアにデリックたちと話した内容を伝えた。

「そう、セドリックが。彼なら適任ね」
「そうなんですか?」
「えぇ。ジャックとセドリックは元傭兵で武器にも結構詳しいのよ」
「へえ、傭兵……たしかにお二人とも体格がいいですもんね」
「それだけ鍛えているし、戦いも経験してるからね。じゃあ明日に備えて今日は早めに休みましょうか……あ、私はここで寝るわ。夜、子供達が起きるかもしれないし」

せっかく部屋を片付けて整えていたが子供達だけにする訳にもいかないし、抱き上げて運んだら起きてしまいそうだから仕方ない。

それにしてもエリシアさんって、貴族って感じあんまりしないな……。
俺の事も心配してくれたし、子供達にも優しいし……。
こんな人が彼女だったらいいなとは思うけど、確実に俺じゃ釣り合わない。
くだらないことを考えていないでエリシアさんの使う布団持ってこよう。

俺はエリシアの使う布団を運ぶと子供達の事は彼女に任せ、寝室に引っ込むことにした。

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