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21-飴玉作り

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それから三日程たった。
青薔薇の耳飾りはまだ渡せていない。
子供達はエリシアから毎日午前中に文字を教えてもらい、午後は周りに人がいない場合のみ外で魔法の実践を始めたようだ。
その中でそれぞれのスキルも少しずつ使えるようになり始めているのだとか。

マルセルのスキルは俊足。
今はまだ使いこなせず足が同年代の子より少し早い程度だが、使いこなせるようになれば通常の三倍の速さで動けるようになるらしい。
そしてライネルのスキルは浮遊。
落ち葉一枚浮かせるのが今の限界だが、これも鍛錬すれば自分が浮いたり重い物を浮かせたり出来るそう。

いいなあ、いいなあ、二人ともめっちゃ便利……。

俺のミニチュア実体化も便利でありがたいスキルではあるのだが、隣の芝生は青く見えるものでつい自分と比べてしまう。

今日も昼食を食べた後、人がいないうちにと外に出てスキルの練習や魔法の実践訓練を始めた子供達を窓からぼんやり眺めていると不意にポケットに入れていた鏡の通信機が震えた。
デリックからの通信のようだ。

「あ、デリックさん、こんにちは」
『ニロ、今そこにエリシアはいますか?』
「今は子供達と外にいますけど……どうかしたんですか?」
『実は私達のパーティーにダンジョン調査の指名依頼がきておりまして』
「ダンジョン……!!」
『エリシア無しでは調査が難しくなる為、戻って欲しいのです』

詳しい内容はパーティーメンバーではない俺に話せないとの事だった。
守秘義務もあるだろうし、仕方ない。
俺は外に出てエリシアに通信機を渡すと子供達を連れて家に戻る。

「マルセル、ライネル。エリシアさんは少しお話してるから家に戻っておやつにしよう。中で手を洗っておいで」
「はーい!」
「おやつ!」

おやつで釣れば子供達は疑問も持たず家に戻っていく。
家に入る前にエリシアを振り返ると彼女は真剣な顔でデリックと話していた。







リビングで子供達と一緒におやつのケーキを食べていると、数分でエリシアは中に戻って来た。

「ニロ、急で悪いけど私明日の朝には街に戻るわ。今回は指名依頼だから断れなくて」
「そうですか……わかりました」

エリシアがいると心強かったのだが本来彼女は冒険者だ。俺と違って仕事がある。

「え……エリシアお姉さん、どこかいっちゃうのか?」
「えーっ!?」

マルセルとライネルが声を上げる。

「ダンジョン調査だから一ヶ月くらいはかかるけど、まだ二人には教えたいこともあるしまた戻ってくるわ。大丈夫よ」

子供達も随分エリシアに懐いたらしく、離れるのが惜しいようだ。
俺も情が移ってしまったのか少し寂しいと感じる、決して口には出さないが。
せめて無事に帰ってきてくれるよう祈るつもりだ。あと今夜は徹夜してでもお土産を作ろう。
ダンジョンに危険は付き物だろうし、怪我をしても俺の実体化させたミニチュアフードなら治してくれるだろうからな。

その夜はエリシアの為に決起パーティーを開くことにした。
実体化させた食事の大判振舞いだ。
子供達の好きなハンバーグにナポリタンがメインだったが、デザートにはエリシアの好きなマカロンやケーキを出した。皆が喜んでくれて何よりだ。

その後、エリシアと子供達が寝静まったのを確認して俺は早速作業に入る。
作るのは飴だ。日持ちするし小さいから持ち運びにも適しているだろう。

完成イメージは駄菓子屋に瓶やボトルで売っているカラフルな飴。
あれなら味も色々楽しめていいだろうし、たくさん作れるからパーティーメンバーにも行き渡る。

飴を作るメインの材料はレジン液だ。
パレットに液を出して赤、水色、黄色、オレンジ、ピンクにそれぞれ色を付けていく。
イメージとしては赤は苺味、水色はソーダ味、黄色はレモン味、オレンジはオレンジ味、ピンクは桃味。

ところでソーダってこの世界にあるのか……?
……なくてもいいか、飴が炭酸になる訳じゃないし甘いなーで済むだろ、多分。

着色したレジン液を半球型のシリコンモールドに入れてライトで硬化。
硬化後はモールドから取り出して同じようにもうひとつ半球を作り硬化させてから最初の半球とレジンでくっつける。
レジンで各色の球体が出来たら、表面に薄くはけでレジンを塗り粘土で作ったシュガーパウダーの上を転がす。
更にそれをライトでしっかり硬化させればあっという間に駄菓子屋風の飴が完成する。

ちなみにこのシュガーパウダー、作り方は簡単だ。
白い粘土の塊を乾燥させ、おろし金でさらさらになるまで擦っただけ。

作業自体は細かい分けでもなく、ほとんどモールドに入れて硬化させるだけだから簡単ではあるが量を作るとなると一苦労だ。

だが、エリシアの為、俺に良くしてくれる【何でも屋】の皆の為に多少無理してでも頑張らねば!!

こうして俺は無我夢中で作業し続け、気が付けば夜が明けていた。

早朝、エリシアは街へと向かっていった。
出発の時、飴玉を入れた瓶と青薔薇の耳飾りをなんとか渡すことが出来た。
ただ、耳飾りの方はポケットに忍ばせていて、うっかり廊下に落としてしまっていたらしくライネルが気が付き拾ってくれていたお陰で事なきを得たのだが。

とにかくエリシアさんを送り出せてよかった……ダンジョン調査、無事に終わるといいな。



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