異世界をホントは救いたい(希望)

ガランドウ

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序章 異世界を救わない

エピソード11 存在意義

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 皇帝城地下聖堂
 
 真崎まさき黄 浩然ファン ハオランと白面の人物との距離を取りながら、2人に向けていたハンドガンをヒップホルダーに仕舞う。

 警戒心を解いた訳では無いが、危機察知が発動しない限り危険は無いと判断したからだ。

 「僕の自己紹介は必要ないと思うけど、合ってるよね?」

 「ん?ああ、まぁそうですね。私は済美 静香さいび しずかの友人なわけで、当然君達の事もよく知っていますよ」
 黄は真崎を値踏みするように顎に手を当て、頷いて見せる。

 「対話と言った限りは、僕の質問にも応えてくれる。でいいよね?」

 「当然です真崎 駿しゅん。何でも聞いてくださいな」
 真崎の言葉に黄は大仰しく両腕を広げ、糸目でありながら整った顔立ちに笑顔を湛えた。

 自分の名を敢えて呼ばれた事で、自分達の情報は握られていると確信し、真崎は触れなければならない質問をぶつける。
 「済美所長に手を出したのか?」

 「はて?その質問の意図するところは・・」
 真崎の質問に思い悩むふりをする黄だが、張り付いた笑顔が徐々に真顔へと変わる。

 「こう言えばいいですかね。私達は一国家権力に喧嘩を売る程、狂ってはいませんけど?」
 黄の細い目が若干見開かれ、その眼光は真崎に対して挑むかの如く揺るがない。

 真崎は黄の視線を外すことなく受け止めながら、少しの安堵の後言葉の裏取りへ思考を走らせる。

 済美所長の安否を第一に考える真崎にとって、質問に対する「国家権力」という黄の言葉は、真偽を問うまでもなく済美所長の安全を確信できる言葉であった。

 ならば現況は、この異世界での事案として完結すべき事柄であり、眼の前にいる人物が真崎達に敵対する集団と仮定するならば、力量差は自分達の方が上だと思えるのだが、不確定要素として考えなければならないのは、最初に現れた念話を使う白面の人物の存在だ。

 真崎の脳に響かせた思念は男性の声であったが、それは黄の口調ではなかった。

 単純にこの場には真崎以外に眼の前の2人しかいないのだから、思念の主は自ずと白面の人物となるだろう。

 思考を読まれる可能性がある白面の人物を、極力見ないように心がけてはいるが、つい気になって見てしまう。

 白面の人物は思念で「君はまだ念話を習得できていないのか」と語りかけてきた。

 この異世界で生まれたならば、そんな問いはしないのではないか?

 「考えてますねぇ、真崎さん。そう、あなたの考えはおおよそ合ってますよ」
 黄は嬉しそうに「うんうん」と頷きながら両手を腰に当て胸を反らす。

 「最初に言った通り、私とあなたは同郷ですし、彼もですよ?」
 黄は白面の人物の方を向き、「クイッ」と顎で指し示す。

 「はぁ・・まぁいいけど」
 白面の人物が大きく溜息を吐き、渋々といった感じで初めて言葉を発し、自身の白面を覆うように手を掛け外し素顔を晒した。

 「な・・」
 真崎は白面の人物の素顔に、驚愕の色を隠せない。

 「ほほう、中々に良い反応ですね!」
 黄は大仰しく手を叩き、真崎に拍手を送る。

 「そんな、どういう・・」
 真崎は填まる事が出来ない散らばった思考のパズルが、白面の正体を目の当たりにした瞬間、全てのピースがチグハグに組み上がり、分かっているのにたどり着けない。

 だがその思考の行き着く先に身体が拒絶反応を起こし、脈拍が跳ね上がり呼吸を乱す。

 「おっと、皆まで仰らなくてもいいですよ。彼があなたの思考を読んでくれてますから」
 真崎のやっとのことで吐いた言葉を制し、黄は白面を取った男に向いたまま何度も頷いている。

 真崎は対話の主導権どころではなく、完全に相手の掌に乗っていることを自覚しても尚、白面を外した人物から目が離せない。

 それに気づいた黄は、腰に置いていた両手をスラックスのポケットに突っ込み、ゆっくり真崎に歩み寄る。

 「まぁ驚かれるのも無理はない。ですがまず考えを改めていただきたいのは、優先権は私共にあるという事。単純な話ですよ、先にこの異世界の可能性を見出したのは私達なのだから」
 黄はポケットに手を突っ込んだまま胸を反らし、真崎を見下す。

 「ですから、私達の仕込みに後から手を突っ込んできた済美 静香は筋違いも甚だしい。聡明な真崎さんにはもう理解が及んでいますよね?そうだろ、三木みき?」
 黄は首だけぐるりと動かし、三木と呼んだ白面を被っていた男に問い掛けた。

 三木と呼ばれる男は「こくり」と頷き、黄の傍まで来ると真崎を見る。

 「アンタのところで飼ってる、そうだね・・今は該世がいせだっけ?その子は置いて行きなよ」
 真崎を嘲笑うかのように顔を歪ませ睨みつけるその容姿は、三木 和葉みき かずはにそっくりだったのだ。



        §
 


 済美 該世さいび がいせはサリアと共に、帝城内謁見の間に足を踏み入れた。

 城の外観に相応しく、中世のバロック様式を思わせる複雑な彫刻が施された室内空間の床中央に、真紅の絨毯が最奥にある一席の玉座に向かって一直線に敷かれている他には絵画や調度品などは一切なく、簡素でありながら壁面や天井に施された彫刻によって、主である皇帝の威厳を顕していた。

 広々とした謁見の間には人一人もいない無人であり、該世らは敷かれた絨毯の上を、警戒することなく玉座に向かって歩みを進めた。

 (警備の近衛兵、いない、何している)
 辿々しい思念の言葉を響かせるサリアは、近衛兵への愚痴というより、辺りを忙しなく見渡し場内の異変を気にしている。

 丁度謁見の間の中央付近でサリアを制し、該世は立ち止まる。

 「分かってたよ、アンタがいるって事は」
 該世は無人の玉座に向かって、無表情のまま思念では無く、日本語で言い放つ。

 (・・・気配を消すのは性分ではあるのじゃが、よく分かったのう、精霊が囁くとでも?)
 玉座の裏というより玉座の後ろ、光が差さない影から「ヌッ」と人が現れる。

 (ガイセ殿、下がれ)
 サリアは該世を庇うように前に立つ。

 (大丈夫だサリア、ここは俺に任せてくれ)
 だが該世はサリアの大きな肩に手を置き、より前に出る。

 「いや?ただ単にアンタが臭いから分かるんだよ、ミカラジ司教」
 匂いを嗅ぐふりをして顔をしかめる該世。

 (相変わらず、減らず口を叩くヤツよのう)
 該世の挑発に乗るわけもなく、顔をニヤつかせながらゆっくりと玉座の前に立ち、身に着けている紫の法衣の袖を払い、大仰に玉座へ鎮座する。

 その様を見たサリアは背負っていた大剣を抜き放ち、耳障りなこの世界の言語を喚きながら、抜いた大剣の切っ先をミカラジ司教に向けた。

 (兵団長ごときが、宰相であるワシに対し大層にものを言いよるのう。じゃがこの際じゃ、この国の現状をはっきりさせておこうかの)
 剣を向けられているにも関わらず、ミカラジ司教は頬杖をついてどこか物憂げに語りだした。
 (お前達が崇める帝など、うに傀儡としての役目を終えておる。早い話、とっくに死んでおるわ)
 
 (何、言っている、分かるか、ガイセ殿?)
 ミカラジ司教の話にサリアは理解が追いついていないのか、愕然とした表情で該世に思念を飛ばす。

 該世は共和国同様、ミカラジ司教のやり口を理解している。

 この帝国もまた、自身の野望の為利用し、そして滅亡させるのに何の躊躇もないのだろう。

 それにしても、この異世界の全てを掌握してみせるミカラジ司教の手腕には、目を見張るものがあると思うのと同時に、果たしてこの老いぼれにそれだけの実行力があるのかと、該世は訝しむ面もある。

 ならば戸邨の言う未知の勢力がバックアップしているとすれば・・。

 (あのクソ野郎ならやりかねない。だがサリア、アイツを討つことが出来れば、まだこの国に未来があるのも確かだ)
 該世はサリアが冷静さを失わせないよう、思念の言葉を紡ぐ。

 だがサリアは巨体を震わし、該世も感じるほどの殺気を身に纏う。
 (私は、司教、許せない。レギザーム殿下の為、死に場所、見つけた)

 サリアは突き出していた大剣の肩に担ぎ直し、腰を低く落とした。

 (待てサリア、最後まで話を聞け!お前が力を振るう場所はここじゃないだろうが!)
 制止するよう該世は思念を飛ばすが、その言葉も聞かずサリアはミカラジ司教へ一直線に飛び出す。
 
 10m以上はあるミカラジ司教までの間合いを、強烈な踏み込みで地面の石畳を踏み割り、一足飛びで詰める。

 担ぎ技とでも言えるように、詰める間合いと大剣を振り下ろすタイミングを合致させ、ミカラジ司教の頭上目掛けて大剣を叩き込む。

 必死の一太刀が迫る刹那、頬杖を付いたまま身構えもしないミカラジ司教は、口角を吊上げ迫るサリアを見上げ呟く。
 (ウジ虫が)

 サリアとミカラジ司教との間の石畳が吹き飛び、中から先を尖らせた木の根が飛び出しサリアの腹部を貫くと、串刺しにしたまま天井に突き刺さった。

 「サリア!」
 予想だにしないミカラジ司教の攻撃に、該世は声を上げる。

 (ふむ。この簡素な場所に、よいオブジェが出来たではないか)
 眼の前に伸びた木の根をノックするように拳で何度か叩いては、一層口角を吊上げ邪悪な笑みを浮かべる。

 (さて、うるさいウジ虫が退場し、これでおぬしとゆっくり話し合いが出来ればいいのじゃがのう?)
 ミカラジ司教は玉座から立ち上がり、伸びた木の根から身を晒して該世の様子を伺う。

 「クソ野郎が、何してくれてんだ!」
 該世はサリアの様子を見ること無く、殺気を纏わせミカラジ司教を睨み付ける。

 (はて?・・これは以外じゃのう、おぬしにとって異世界人等どうでもいい事では・・)
 該世の態度に訝しむミカラジ司教は何かを感じ取り、真上を見上げる。

 「ゴッ!」という鈍い風切り音がし、次の瞬間ミカラジ司教の眼の前にサリアの大剣が突き刺さる。

 (ヒッ!)
 短く悲鳴を上げ、後ろに倒れ込むミカラジ司教。

 (外し、たか・・無念・・)
 頭上にいるであろうサリアから、該世へ思念が響く。

 (ああ、惜しかった。けど見てみろよあの情けない格好を)
 腰を抜かしたのかなかなか立ち上がろうとしないミカラジ司教に薄ら笑いを浮かべ、ゆっくりと歩み寄る。

 サリアが攻撃を受けた時、サリアから短く(気を引け)と該世に思念が飛んできていた。

 それを受け、該世は声を荒たげミカラジ司教の気を自分へ向けたのだった。

 (待ってろよサリア、今降ろしてやるから)
 該世は両手の指を鳴らし、首を捻って身体を解す素振りを見せながら木の根の麓までたどり着く。

 (ま、待てショウマ。おぬしとは話し合おうと言っておるではないか!)
 詰め寄る該世にミカラジ司教は座り込んだまま後退る。

 「ああいいぜ、お前には聞きたいことがあるからな。そこで大人しくしてろ」
 該世はミカラジ司教へ蔑む視線を送り、左手首のリストバンド軽く握った後、その左手で木の根に触れた。

 「・・・ん?」
 該世は異能の力を発動させるが、触れた手が「バチッ」と電流が走ったように弾かれた。

 (フ、フハハハ・・おぬしの精霊の力では無理か、なるほどのう)
 今にも命乞いをしそうな程焦りを見せていたミカラジ司教が、該世の様子に我を取り戻す。

 「オイ動くなよ?話し合いには応じてやるから、ちょっと待ってろ」
 該世はミカラジ司教を指差し、地面に突き刺さっているサリアの大剣に目を移す。

 (サリア、借りるぞ)
 該世は軽々と大剣を抜き取ると、木の根に向かって両手もろてで水平に大剣を身体に引き付けると、横薙ぎに大剣を振るった。

 1m程もある根本を一刀で両断させると、切られた木の根はゆっくりと切られた部分から倒れ出したかと思うと、一斉に微細な粉末状に分解され、泡と消えていく。

 それに併せて頭上からサリアが落下してくるのを、該世は大剣を投げ捨て両手で受け止めるが、その重みにサリアを抱き留めたまま尻餅をついてしまうのを何とか堪えた。

 「くぅ、さすがに重すぎるぞ・・」
 顔を顰めながらサリアをそっと地面に寝かせた。

 (・・今、失礼な事、言った、な?)
 サリアは薄目を開け、該世を見る。

 (え、なんで分かった?いや、そうじゃなくって・・それより腹の大穴を塞いでやるからな、まだ死ぬなよ)
 貫かれた下腹部に左掌を当て、異能の力を発動させた。

 下腹部に開いた穴の縁から徐々に肉が再生していく。

 その間も該世は力を使いながらミカラジ司教を睨み付けるが、ふと今の出来事に思考が囚われ視線を外す。

 ミカラジ司教はそれにつけ込みすっくと立ち上がると、ゆっくり該世から距離を取った。

 「お前、なんでハイジアの力が使える?」
 該世は距離を取るミカラジ司教を咎めること無く、治癒を施している手に視線を落としたまま呟いた。

 サリアの回復が終わりユラリと該世は立ち上がると、後退るミカラジ司教を睨む。

 「お前がハイジアの力を使うことなんてあり得ないんだよ。だがさっきの攻撃は大地の恵みを司るハイジアの力だ」

 (だから何だというのじゃ!)
 該世の追求にミカラジ司教は肩を怒らせ、怒気を孕んだ眼光を向ける。

 ミカラジ司教の豹変に、該世は若干頬をヒク付かせるが、平静を装う為に軽く息を吐く。
 「その怒りが何から来ているのかは分からないが敢えて聞く、翔子は無事だろうな?」

 (ほう、あの小娘の事を聞くか。もう感づいたとはさすがじゃ)
 ミカラジ司教は平静さを取り戻すだけでなく、ニヤついた笑みを顔に張り付かせた。

 「俺は敢えてと言った意味、分かってないって事でいいな?」
 我慢の限界をきたしたのか、該世は右手を自分の顔に向けかざし、ミカラジ司教を睨みつけた。

 (フン、わしは端から話し合いをと言っておるのに・・。どちらかと言えば、お前に感謝してもらえるものと思っておるのじゃが?)

 「アンタの御託ごたくは、もうウンザリなんだよ」
 該世はいつの間にか背中に隠すように挿していた50cm程の鉄棒を抜き取り、鉄棒の中程を右手で掴んで前に突き出す。

 (ぬう、これは困ったのう。このままでは殺されてしまう)
 ミカラジ司教は両腕で身を抱き、大げさに窮地を訴える素振りを見せたその時。

 「ショウマ」
 謁見の間に、該世の事を将馬と呼ぶ声が響く。

 ミカラジ司教と同じように、玉座の奥の暗闇から一人の少女が姿を顕した。

 「翔子・・か?」
 現れた少女の姿は、囚われていた中村 翔子なかむら しょうこであり、該世はそれでもその少女が翔子なのだと確信が持てない理由がある。

 (どうしたショウマよ。お前の望みを叶えてやったというのに、その浮かぬ顔は)
 ミカラジ司教は翔子の肩を抱きながら口角をこれでもかと釣り上げ、邪悪な笑みを湛える。

 「お前、翔子に何を・・いやそうじゃない」
 該世はミカラジ司教に問おうとするが思い留まり、自分の確証を思わず否定した。

 黒い修道服を着させられているが、その姿はどう見ても翔子で間違いはない。

 だがその佇まいや雰囲気が、どこか懐かしさと愛おしさを覚え、声は翔子の物だがその声で呼ばれた自分の名に確証があるにも関わらず、動揺してしまう。

 動揺を隠せない該世にもありなんと大きく頷き、ミカラジ司教は一歩踏み出す。
 (わしは長年このに身を置き、魔導の研究に人生を費やしたが、わしの願いが叶うことはなかった。それがどうじゃ、おぬしという素材にめぐり逢いながらも制御できる事もなく辛酸を嘗めたかと思いきや、まさか精霊から寵愛を得ることが出来ようとは思いもしなんだ)

 ミカラジ司教は翔子の身体を抱き寄せ、翔子の髪に自分の鼻を擦り付けるようにし、匂いを嗅ぐ。
 
 (わしは思い違いをしておった・・いやただ、忘れていただけじゃった。初心というものを)
 今度は修道服の上から翔子の身体を弄りだす。

 「お前・・何してんだ!」
 明らかな挑発行為であるにも関わらず、該世は身を震わせ、片手で持っていた鉄棒を両手に持ち替え、今にもその鉄棒をミカラジ司教へ叩きつけようと詰め寄る。

 (やめて、ショウマ)
 言葉ではなく、頭に響かせる思念は該世を踏み止ませるだけでなく、怒りに染まった表情すらも弛緩させた。
 
 「和葉・・」
 該世は尊いものを見詰めるように目を細め、その目を潤ませる。

 該世の呼び掛けに、翔子は視線を外すように俯く。

 ミカラジ司教は該世にもう脅威はないと踏み、抱き寄せていた翔子から離れ該世の横を通り過ぎる。
 (ショウマよ、わしはおぬしを一道具としてしか見ておらなんだ。それがそもそも間違いであったのじゃが、わしは元来精霊を取り混む為に研究を始めた訳ではないのじゃ)

 そのまま歩みを進め、該世の背を振り返る。
 (わしが夢見たのは、精霊そのもの。この異世界の秩序の一旦を担うこと!そして・・)

 ミカラジ司教は飛ばす思念を一旦区切り、大きく深呼吸をして高揚を抑える。
 (ついに得たのじゃよ・・おぬしとは違い、精霊になり得る技法をの。それもこれもカズハというどうしょうもない女のおかげじゃ、のうハイジア)

 それまで俯き加減でいた翔子が、ミカラジ司教の思念の言葉に顔を上げた。

 翔子はミカラジ司教ではなく、視線は真っ直ぐに該世を捉えているが、表情には能面のように感情が無く、だがその両目から涙が止めどなく流れる。

 「俺には分かるよ、そこにいるのは和葉、君だろ?」
 該世は翔子を見詰めながらヨロヨロと覚束ない足取りで近づく。

 「また君に逢えたのは嬉しい・・嬉しいんだ。でもさ、これは違うよね?約束したじゃないか」
 該世は翔子と違い、顔をクシャクシャにして滂沱の涙を流す。

 (何を話しておる?別れの言葉だとしても、もういいじゃろ!さぁハイジアよ、邪魔な其奴を片付けるのじゃ!そしてわしとの盟約を果たそうぞ!)
 2人の間に言葉で割って入るミカラジ司教は、高々に命令を下す。

 該世と向かい合っていた翔子は、ミカラジ司教の命令によって弾かれたように天井へ目を向け、身体を震わせながら両手を上へ突き上げた。

 その瞬間、地震のように地面が大きく揺れたかと思うと、地面に亀裂が走り、その亀裂から太い木の根が突き出し、ムチのようにしならせ該世に向かって横薙ぎに振る。

 虚ろな目で翔子を捉えたままの該世は、木の根の横薙ぎをまともに喰らい吹き飛ばされ、謁見の間の壁に激突する。

 該世は血反吐を吐き、その場に崩れ落ちた。

 (おお、これでショウマも終わりじゃの。さぁハイジア、トドメをさせぃ!)
 ミカラジ司教は声高らかに命令をした。

 だが翔子は再度手を振り上げようとする身体を強張らせ、奮う力に抗っている。

 (ええい、何をしておる!この好機を逃すでないわ!)
 トドメを刺そうとしない翔子に苛立つミカラジ司教は懐から魔玉を取り出し、該世に向かって地面に転がす。

 魔玉が反応し、まばゆい光とともに地面からゴーレムが立ち上がる。

 ゴレームは壁に背を預けて座り込む該世を見下ろすと、巨大な拳を振り上げその拳を該世へ振り下ろす。

 該世はその攻撃に対し虚ろな視線を送り徐ろに右手を翳すが、ゴーレムの拳は該世ごと壁を突き破り、壁を瓦解させた。

 (呆気ない、呆気ないのう!)
 ゴーレムによってトドメを刺せたと、ミカラジ司教は歓喜に震える。

 (これで邪魔者はいなくなった。ハイジアよ、おぬしが取り込んだ魂の濁りも、これで綺麗になったのではないか?さぁハイジア、盟約通りわしをいざなうのじゃ)
 ミカラジ司教は懐から2本の短剣を取り出し、身を強張らせて動かない翔子の腕を引き、その手に1本の短剣を逆手に握らせる。

 (形ある者に宿らず、漂う無形な魂にこそ宿る)
 ミカラジ司教は得た心理をうわ言のように呟き、自ら自分の心臓目掛けて短剣を突き刺した。

 ・・つづく・・
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