17 ジュウナナ

ガランドウ

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第2章 一色 咲良

第2話 榊道場

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 金沢から離れ、京都駅に降り立ったリクトは、京阪電車から叡山電鉄に乗り換え、岩倉の駅を目指す。

 岩倉は京都の奥座敷とも呼ばれる鞍馬に近く、京都市の北端に位置する閑静な地でありながら学び舎も多く、学生達も多く住む町だ。

 駅を出たリクトは、郷愁に駆られ胸一杯に空気を吸い込む。

 「22才の時以来だから20年以上経つのか・・いや、今は2013年だから11年ぶり?いやいや、今17才だから未来・・我ながらややこしいわ」

 今生きる時代設定に翻弄され、懐かしさも霧散し溜息を吐くリクトだが、益美を失ったあの日の出来事を思い出し、真剣な顔付を取り戻した。



        §



 リクトが益美を失った日にサカノボる。

 病院の屋上で昏倒し倒れたリクトであったが、その身は議事場中央の円卓の上に置かれていた。

 「・・・」
 円卓を囲むように備え付けられた椅子の一つに、横柄に足を組んで座る一人の男ボレアスが、タバコをクユらせながら暫くの時間、無言でリクトを見守っていた。

 「くっ・・」
 リクトは意識を取り戻し少しの間中空を見詰め何事かに思いを馳せていたが、その思考を断ち切り身を起こすと、まだ疲労が残った身体で立つことも出来ず、その場に座り込んで頭を抱える。

 「目覚めたか」
 無言でリクトを見ていたボレアスが立ち上がり、両の手をレザーパンツのポケットに突込んで前屈みになり、リクトの様子を観察するように覗き込む。

 「ここは・・?」
 リクトは頭痛がするのか、顔をしかめ頭を振り、声がした方へと目を向ける。

 「・・議事場だ。これからお前を秤にかけようと思ってな」
 ボレアスは胸を張って腕を組む。

 「まぁ簡単な話だ。今からお前は俺と戦う、それだけだ」
 
 リクトは興味がないとばかりにボレアスに一瞥イチベツをくれた後、自分の左手を見詰め目をツムる。
 
 「お前の返事など必要はない。まぁ死なない程度に手加減してやる」
 ボレアスは椅子から立ち上がり円卓にふわりと飛び乗ると、あぐらをかいて座るリクトを見下ろした。

 それでもリクトは俯いたまま動こうとしない。

 ボレアスは無反応なリクトに片方の目をひく付かせて細め、両手をポケットに突っ込んだまま予備動作無しに前蹴りでリクトの顔面を蹴り上げる。

 「ガッ!」と強烈な衝撃音とともにリクトは吹き飛ばされ、議事場の段差の壁に激突する。

 壁がひび割れる程の衝突に、リクトはピクリとも動かずその場にへたり込む。

 ボレアスは円卓から瞬間移動したかの如くリクトの目の前に現れ、リクトの顔面を壁に向かって踏み抜く。

 リクトの後頭部が壁を砕くようにめり込み、ボレアスはリクトの顔面から足裏をズルリと滑らしてから足を戻した。

 「オイ、戦わないのか?」
 
 「・・・」

 「つまらん」
 ボレアスは反応を示さないリクトの髪を掴んで、吊り上げるように無理矢理に立たせる。

 「聞こえるか同胞よ。無識者によって与えられたタマシイが、こんなガラクタでは我が宿敵ライバルとして不憫でならん。さっさと全てを奪ってしまえ」
 ボレアスはリクトの顔を覗き込み、リクトではない者に向かって声を掛ける。

 「それをおぬしが言うのか?滑稽だわい!」
 唐突に議事場内に声が響き、円卓の上に人影が立つ。

 ボレアスはリクトを掴んだまま首を捻り、円卓の上に立つ人影、無識者リョウを睨む。

 「奴の生命を散らしたのはおぬしじゃろうが、それを同胞を通り越してライバルじゃと?よく言えたもんじゃボレアス」

 「フッ、無識者よ、お前は何も分かっていない。奴と俺とは似た者同士、野望のために同胞を喰らう残り1つを狙う者だ」
 口元を釣り上げ、今にもリョウを喰らおうとする獰猛な野獣の目で睨むボレアスに対し、リョウは愛らしい幼女には不似合いな薄笑いを口元に宿し、蔑むようにボレアスを見る。

 「う・・ううっ」
 今まで無反応であったリクトがうめき声を上げ、髪を掴むボレアスの手を抑えて掴む。

 「リョウ・・お前何しでだんだよ・・益美が・・なぁリョウなんどがならないか・・」
 潰された鼻から血を垂れ流し、ボレアスの存在などお構い無しに、円卓に現れたリョウに向かって懇願の言葉を呟く。

 「なぁリョウだのむよ、でぎるよな・・でぎると言っでくれよ・・」
 
 「こいつは何を言ってるんだ無識者?」
 ボレアスの手を振り解くわけでもなく、ただリョウに向かって空いた手を伸ばし懇願するリクトの姿に、ボレアスは首を捻りリョウを見る。

 リョウは言葉を発せず、だが表情に余裕が無くなっている。

 「気に食わんな。何を考えているか知らんが、こいつに宿した同胞はお前が考えてる程甘くはないぞ」
 ボレアスは掴んだままでいるリクトを自分の顔に近づけてリクトの顔を覗き込む。

 「む・・」
 だが何かを察し、リクトを放り投げようとするボレアスの手をリクトの手が離さない。

 「おまえ邪魔や・・リョウと話ししてるやろが・・」
 ボレアスが離したことで宙吊りになっていたリクトの足が地につき、ボレアスの手を掴んでいたリクトはそのまま地面に向かってボレアスの腕を引き込む。

 「なんだ、今更やる気出されてもな?」
 お互い腰を落とした態勢になりながら、ボレアスは言葉とは裏腹に両の口角を釣り上げ喜悦を隠さない。

 「邪魔なんだよ・・」
 リクトは空いた掌を、ボレアスの喜悦に歪んだ顔面に貼り付ける。

 「ギーーン」とリクトの左腕が唸り、光る記号の粒が腕の周りに発生すると腕下に集まり、リクトのアルマが形作られる。

 「な、どういう事だ無識者!ここではアルマは使えないだろうが!?」
 ボレアスは血相を変え、リョウに向かって声を荒たげる。

 「さぁ?わしも驚いておる」
 リョウは言葉とは裏腹に、真顔のまま首を傾げ両手を上げ肩を竦めた。

 ボレアスは掴まれていない右腕を上に掲げ、自身のアルマを顕現させようとするが

 「クソが!」
 
 なにも起こらない事に毒づき、睨むようにリクトを見る。

 「どけよ」
 既にリクトの腕下にはアルマ、ショットガンが出来上がり、ボレアスに突き付けられている。
 
 「ガァーン!!」
 初めてリクトがアルマを使った時のように、グリップを握ること無く腕の下に浮かんだショットガンが火を噴いた。

 辺りを硝煙と共に赤い血煙が立ち上り2人の姿を隠すが、煙から離脱するように飛び退くボレアスの左僧帽筋が抉り取られている。

 立ち込めていた煙が霧散し、反動によって真上にまで左腕を掲げ立ち尽くすリクトの姿が現れる。

 「奴はもう取り込まれているということだな、無識者よ?」
 ボレアスは負傷した肩を手で抑え、リクトに背を向けてリョウを見る。

 リョウは胸の前で腕を組み、何事か考え込むようにリクトを凝視している。

 「・・・フン、どこまでもふざけた奴だ、だがまぁいい」
 問い掛けに反応を示さないリョウに侮蔑の溜息を吐き、リクトへ向き直った。

 リクトは左腕を掲げたまま動かない。

 「リクトと言ったか。こいつが残る17人の一人として立つなら、まぁそれに越したことはないか」
 ボレアスはゆっくりとリクトに向かって歩み寄る。

 「こいつはまだ自身の力を制御出来ていない。かと言ってそれが出来たとしても、奴の足元にも及ばないがな」
 リクトの横を素通りし、数歩進んだところで振り返ると、リョウに人差し指を突き出す。

 「外で見つければ、瞬殺だ。おまえはそれを歯噛みして見守るだけだ」
 捨て台詞を吐いたボレアスは、風を操り揺らめく蜃気楼の中に姿を消した。

 沈黙していたリョウは、そこに来て初めて顔に影を落とし俯く。

 「リクト、すまないのじゃ。やはり一緒に行動すべきじゃったな・・」
 リョウは円卓の上から一瞬でリクトの足元に移動をしてみせ、リクトを見上げる。

 左腕を振り上げたまま固まっていたリクトが、不意に脱力してその場に両膝をついた。

 リョウと同じ目線の高さになり、目の前にいるリョウへ手を伸ばそうとするが、自分を見るリョウの表情に溜息を漏らし、伸ばした手を引っ込め、両の手を膝の上に置いて項垂れる。

 「リクト・・」
 リョウはリクトの顔に手を差し伸べようとするが、リクトはその手を避け、よろめきながら背を向け立ち上がった。

 「リョウ、俺を益美のところに帰してくれ。それぐらいしてくれてもいいだろ?」

 「導きがなければ・・と言いたいところじゃが、その言い草はちと気になるの?」
 慈しむ眼差しでリクトの背を見ていたリョウの目が、訝しむ目に変わる。

 「今まで、話をしていた。俺の中にいるお前らの同胞って奴と」
 
 「ほう」
 
 「一瞬の間でありながら、いろいろ話してくれたよ・・そして奴は俺の中からいなくなった」
 リクトは振り向き、悲愴感漂う顔つきから挑むような目つきに変えリョウを見る。

 「だからといって奴の意志を受け継ごうなんて思ってないし、奴も俺に頼まなかったぜ?」

 リクトの言葉に目を見開くリョウではあるが、それは言葉の意味より全てを知ったであろうリクトの意志が垣間見れた気がしたからだ。

 「リクト・・出来ればわしは、おぬしに・・」

 「今の俺には、守るべき者がある」
 リクトの背に向かって手を伸ばし声を掛けるリョウに、リクトは言葉で遮った。

 「なにもリョウがしたことを恨むとかはないぜ?何ならお前の為に片棒を担ぐことだってしてやる。だがな、その前にもう少しだけ益美達のそばにいさせてくれ、頼むよリョウ」
 言葉の終わりにリョウへ振り返り、リクトは深く頭を下げた。

 「フ、フン!なんじゃい、らしくもなく頭なんぞ下げおってからに・・」
 鼻息荒くそっぽを向くリョウだが、その顔は徐々にクシャクシャに崩れだし、目に涙を溜める。

 「オ、オイ・・泣くことないだろ。お前が泣くと分かってはいても、流石に良心が傷むだろうが!」
 リョウが大粒の涙を両の手で何度も拭い出す姿は、幼気な女の子にしか見えず、リクトは思いとは裏腹に動揺してしまう。

 「か、悲しい理由ワケじゃないのじゃ・・ただ、なんか安堵した途端、勝手に・・勝手になのじゃ・・」
 
 それから大泣きするリョウを宥め、リクトはリョウと一つの約束を取り決め、あの日に戻ることが出来たのだった。



        §


 
 
 「よし、ココに来た意味は唯一タダヒトツ、あいつをシバき倒す・・いや違うな、預けているのを返してもらわないとだ」

 独り言を口に出しているのに気付き、ハッとするリクト。

 「なんか俺、ゼファに似てきたか・・」
 顔をしかめ、溜息を吐く。

 駅を利用する人達が、リクトを避けて奇異な目を向けている事には、気づいていない。



 岩倉駅から約2km程北に位置する岩倉川沿いに、目的地がある。

 そこは何十年も前に廃校になった小学校を、道場主が引き取り開いた剣道場だ。 

 裏門にあたる左右の石柱だけが残った門をくぐると、200mトラックが作れるぐらいの広さである運動場を横切った先に、昭和初期に建てられたであろう木造校舎を改造した宿舎兼住居の2階建ての建物と、その隣に同じ木造の体育館をそのままにし、看板だけを掲げた剣道場がある。

 運動場を抜け、宿舎より先に道場前に辿り着いたリクトは、入り口の前でその門を見上げた。

 「サカキ道場・・変わってないなぁ」
 門に掲げられた道場の名を読み上げ、感慨深くその看板を見詰める。

 道場内から何人もの剣士が蛮声を上げ、竹刀を打ち合う音や、板間を踏み込む音が外にいるリクトの元まで響いてくる。
 
 「へぇ~結構流行ってるんだな・・俺が居た時とは大違いだけど、ってか女の声も混じってないか?」
 ここの道場主に弟子入りした時は、リクト含め3人しか居なかった。

 「まぁ俺自身弟子入りしたつもりは、これっぽっちも無かったけどな。けどそれをアイツは・・」
 リクトは当時のことをまた少し思い出し、気が滅入るのだった。

 そこへガラリと入口の戸が開き、一人の大柄な男が出てきた所で目の前に立つリクトと鉢合わせる。

 「ん?どうしたい、こんなところで突っ立って?」
 その男は道場で稽古をしていたのだろう、道着の前を開けさせ、全身から吹き出す汗をタオルで拭う。

 「え?ああっと、ここの道場に用があって・・榊はいるのか?」
 リクトは考え事をしていたため、唐突に聞かれた問に詰まりながらも、目的の人物の所在を聞く。

 「あ?先生の事言ってるよな?お前呼び捨てってどういう関係や?」
 少し怒気を含んだ物言いで、リクトに睨みを利かす。

 「いや、すいません。榊センセイはイラッシャイマスカ?」
 つい言い方を間違えてしまったのは確かだが、それでも目の前にいる男の態度が癪に障り、ガッチリ睨み返したまま詫びの言葉を抑揚なく発声する。

 「なんやガキ、ナメてんか?あん?」
 男は首を左右に振って骨を鳴らすと、リクトの胸倉を掴む。

 男の身長は190cmはあり、剣士にしては筋肉量の多い巨漢だ。
 170cmそこそこのリクトを、軽々と持ち上げる。

 「俺はガキでも手加減できんで?」
 男がリクトに顔を寄せ威嚇の言葉を吐くが、リクトは無言で男の手首を掴み力を込めた。

 「ん?うんんんん!?」
 その力に男は苦悶の表情を浮かべ、リクトの胸倉を掴む手が離れる。

 地面に降り立っても尚、リクトは掴んだ手首を離さず、更に力を込めていく。

 「は、離してくれ!痛い痛いッて!」
 懇願する男の言葉を無視し、手首を握り込んだまま腰を落とすと、男の手を地面に接地させる程引き込んで顔を寄せる。
 
 「俺は名はガキじゃないリクトだ、この道場を潰しに来たんだよ。わかったか?ガキに力負けする肉ダルマ」



 リクトは扉の隙間から道場内を覗き見る。

 道場内には2人の女性剣士へ、2人の男性剣士が掛り稽古を行っていた。

 また女性剣士の後ろを道着姿で竹刀を手に持ち、打ち込みを行う女性剣士にアレコレ指導をする如何にも師範風な男もいる。

 「ここの道場に女性剣士って、どういうつもりだ肉ダルマ?」

 「いや、今稽古を行ってるのは大学生だ。指導を行っているのがここのってか、肉ダルマってやめてくれ・・いや下さい」
 リクトの質問に途中からヘリクダって答えるのは、リクトの表情が険しく変化したのに気付いたからだ。

 「大学生・・だと?」
 リクトの中で、癒える事のない記憶が呼び起こされ、眉間にシワが寄る。

 「いつから学生の指導やってるんだ?」
 肉ダルマを射殺す程の視線をくれる。

 「え?あ、あの学生・・さん達は、代行の後輩でして」
 言葉を選びながら、恐る恐る答える。

 「いつからだって聞いてるんだが?」
 苛立ちを隠せず、徐に肉ダルマの肩に手を伸ばす。

 「ヒィ!今日が初めてです!」
 リクトの手から距離を置くように仰け反り、早口で答えたのだった。

 


 「やめやめー!手を止めてくれ!」
 指導に当たっていた師範風の男が、稽古を中断させた。

 「ん?平井の奴、どこ行った・・まぁいっか」
 師範風の男は肉ダルマの名を呼ぶが、気に留めることなく正座で待機する女性剣士へ向き直る。

 その男は肉ダルマこと平井程体はでかくないが、胸元や袖から見える引き締まった体は、剣の修練で培われたものだと分かる。

 「なぁ肉ダルマ、道場には榊がいないが?」
 道場内を一通り眺めたリクトは、平井を睨む。

 「はい!今は外出しておりまして・・ですがいつ帰ってくるかも分かっていない次第で・・」
 平井は正座をし、リクトから視線を外すまいと必死に目を向けているが、平井の左頬が大きく腫れ上がって左目が塞がっている。

 「なんだよ、ハナっから言えよ」

 「ひぃ!たないで!」
 睨みを利かせただけのリクトに、平井は両手で顔を塞ぎ怯えだす。

 これはリクトが道場内を覗いていた時、平井が道場内へ助けを呼ぼうと声を上げようとした瞬間、リクトの平手打ちが平井の頬へ飛び、その勢いで外の通路までふっ飛ばされたのだった。

 「あいつがいつ帰ってくるのか分からんのは同意だが・・どうしたもんか、榊がいないと来た意味ないからなぁ」
 リクトは一つ溜め息を吐き空を見上げた後、平井を見下ろす。

 「ここの宿舎に部屋はまだあるのか?」

 「あ、有ります。俺等が寝泊まりに使ってますが、部屋は沢山あるので・・」
 平井はリクトの質問に答えるが、言葉尻を言い淀む。

 「それは知ってるよ。んじゃ俺は宿舎に行くわ、榊がいないのが分かったから肉ダルマは好きにしていいぞ。だが一悶着起こそうっていうなら誰だろうと相手になるが?」

 「そんな滅相もない!・・あ、いや待って!えっと、俺が宿舎へ案内しますよ・・いや、させて下さい!」
 平井は慌ててリクトの前に立ち、先導するように先立って歩く。

 「知ってるって言ってんのに・・まぁいっか」
 平井の態度に訝しむが、リクトは追求することなく後に続いた。

 
 宿舎は元々木造校舎だった建物を一部改修し、1階には炊事場兼食堂と娯楽室に浴場、そして榊の個室が広く取られ、残ったいくつかの教室部分と2階の教室をそれぞれの個室にしていた。

 「あれから10年ほど経つんだろうけど、あんま変わってないな」
 リクトは宿舎に入ってすぐにある食堂を覗き、代わり映えの無さに思わず顔を綻ばせてしまう。

 「よかったらここでくつろいでいて下さい。俺はちょっと部屋を片付けてきますんで」
 平井はリクトを娯楽室へ案内をし、そそくさと個室へと向かう。

 「いや待て、俺も行くよ。俺が当時使ってた部屋が有って、どうなってるか見たいからさ」
 
 「え、いや・・も、もしリクトさんが使ってた部屋を汚してたら悪いんで、先行って片付けますんで!」
 平井は慌ててリクトを制し、廊下を走っていった。

 平井は目的の2階の部屋に駆け込み、どう片付けるかとあたふたしつつ目に付く物を手に取り、雑多に段ボールの中に突っ込んでいく。

 「ふーん、どうなってんだよ肉ダルマ君。まさにここが俺が使ってた部屋なんだが?」
 リクトは部屋の扉に寄り掛かり、部屋の様子を見渡した後、薄い目で平井を睨んだ。



        § 



 道場内

 一通りの稽古が終了し、防具を解き正座をして汗を拭う女性剣士の前で、2人の男性剣士がニヤついた顔を突き合わせ、何事か小声で話していた。

 「あのぅ、いいでしょうか?」
 女性剣士一人が、おずおずと手を挙げる。

 「ん?美紀ミノリさん、どうかしましたか?」
 挙手に男性剣士が応えるが、道着姿の美紀を足元から胸元まで睨めるように視線を動かす。

 道着姿ではそう身体のラインなど分かるものではないが、美紀は少し肉付きがいい体型をしており、男性剣士の好色な目つきが腰や胸元に注がれた。

 「えっと加藤師範代、百合先輩は今日来られないのでしょうか?」

 「ああ、百合代行ですが、師匠の仕事の関係で帰りが遅くなると連絡がありました。ですが代行も後輩であるあなた達にお会いしたいそうで、夜遅くになりますがそれまで私達でモテナすよう言いつかっておりますよ」
 受け答えをする男性剣士加藤と、隣に立つもう一人の男性剣士相原アイハラはお互い顔を見合わし軽く頷き合う。

 「本当ですか!百合先輩に会って貰えるなんて!」

 「無理を承知で来てみてよかったぁ!」
 後輩である2人は手を取り合って喜び合う。

 百合代行とはこの榊道場の主であり流祖である榊 琉李サカキ ルリの一人娘であり、道場主代行を務めている。

 また、嵯峨野大学女子剣道部の主将をも務める剣士だ。

 そして今年度選手権の王者まで上り詰めた今日の剣道界のホープであり、また美貌も兼ね備えていたことでアイドル的な扱いを受けてもいた。

 その為、大学の練習とは別にこの道場へ修行を懇願する部員が後を立たず、しかし百合はその全ての申し出を断っていたのだが・・。

 「いやぁ稽古を付けてみて、お二方を百合代行がお認めになったのがよく分かりましたよ」
 加藤は然もありなんと大きく頷き、相原に目配せをする。

 「ですねぇ、ここでの稽古を初めて許したのですから。ま、今日は初日ですから稽古はここまでにしましょう。ここの道場には宿舎がちゃんとありまして、お風呂の準備も既に出来ているかと思いますので、食事の用意が整うまでお風呂にでも入ってくつろいでくださいな」
 相原は慇懃に頭を垂れ、喜び勇む2人を宿舎へ誘う。

 加藤は女性2人と相原の背を見送ると、ふと辺りを見渡す。

 「それにしても平井のやつ、どこいった?」


 ・・つづく・・
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