超能力者は探偵に憧れる

田中かな

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2.ただの探偵ですよ

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扉の向こうで横たわっている出光氏。これは本当に目の前で起きていることなのか、夢ではないのか、と思わず現実逃避せずにはいられない。僕の頬を伝う汗がイヤにリアルな感触だ。

「ゴン君、警察をよんで。香織、電話のある場所はわかる?」

「!は、はい!こっちです!」

僕も皐月さんも動けずにいたけど、樹玖子さんのおかげで金縛りがとけたかのように我に返った。まずは警察に連絡しないと!

皐月さんの後を追い電話のある場所へ急ぐ。

「こっちです!」

「ど、どうしたのですか?」
皐月さんと向かった先に先ほど皐月さんを呼びに来ていた秘書の人だ。

「話は後で、電話はどこですか?」

僕が問いかけるのと同時に皐月さんが扉を開く、ここは…放送室みたいなところだな。たしかにここなら電話がありそうだ。
部屋を見回すと壁に緊急用の外線が設置してあった。

僕は無我夢中で電話を手に取り、警察に状況を伝えた。すぐに向かってくれるそうだけど、到着まで2時間弱かかるみたいだ。たしかに僕達がここに着いたのも、1時間半くらいはかかったからしょうがないか。

電話の後、事件現場に戻ると、花野刑事がすでに現場の保全に動いていた。僕達と一緒に合流した秘書、檜山翔子《ひやましょうこ》さんを見つけ、あれこれ説明を始めたと思ったら、檜山さんは急いで走り去ってしまった。おそらく、会場の封鎖や待機の案内に向かったのだろう。
樹玖子さんは…現場に入って出光氏の近くを調べているな。

「ゴン君。どうだった?」

僕に気がついた樹玖子さんが僕に問いかける。

「警察はここに到着するまで2時間弱くらいかかるみたいです。」

「そう。なら、もう少し私たちで調査できそうね。」

樹玖子さんは調べるつもりなんだ。この事件を。今まで放心していたところもあったけど、いつも通り冷静な樹玖子さんのおかげで僕も落ち着きを取り戻しつつある。

「はい!やりましょう!所長!」

僕達に何ができるかわからないけれど、樹玖子さんにかかればどんな事件だって解決だ!

「さっそくだけど、凶器と思われる万年筆に触ってみてくれる?犯人がわかるかも」

そうだった。僕にはその能力がある。触れた物の記憶を読み取る力、僕や樹玖子さんがサイコメトリーと呼んでいるこの能力。こういう時こそ能力を活かす時だ。

うっかり能力を発動しないように普段は着けている手袋を外し、出光氏に刺さったままの万年筆に手を伸ばす。

「おい、死体には触れるなよ!現場に入れることだって特別なんだぞ。」

突然の花野刑事の声で思わず手を引っ込めてしまった。もう少しだったのに。

「凶器はその万年筆と見て間違いないだろう。ピカピカの万年筆だ。うっかり触れて、指紋をつけるなよ。」

指紋か。たしかにうっかり触れてしまって指紋がついてしまったら、容疑者どころか犯人と思われても仕方がない。残念だけど万年筆に触れるのはやめたほうがよさそうだ。

それにしても1つどうしても確かめないと行けないことがある。さっきから花野刑事の発言には引っかかることがある。

「所長。その…やっぱり出光氏は…」

「ええ。…すでに亡くなっているわ。さっき、花野刑事と確かめた。」

死体。凶器。もしかしたら息を吹き返すんじゃないかと思っていたけれど…やっぱり出光氏は亡くなっているのか。そしてその凶器はこの万年筆…

「…なぜ、犯人は万年筆を凶器に使ったのかしら。」

隣で考え事をしていた樹玖子さんが呟く。
なぜ万年筆を使ったのか…か。

「犯人は出光氏と口論になり、カッとなって近くにあった万年筆を手にとって、とかでしょうか。」

「うーん。あり得ない…とは言わないけれど、犯行現場が社長室であるならば、可能性は低いと思う。」

この社長室が犯行現場であるならば、か。
そう言われた僕は社長室を観察してみる。うーん……あ!

「この部屋には他にも凶器になりそうな物が多いですね。」

「しかも手の届きやすそうな範囲にね。そこのトロフィーとかね。」

樹玖子さんは窓際に飾られているトロフィーを見つめる。

「そもそも、凶器はただの万年筆じゃなくてかの有名な黄金の万年筆なのよ?いったいどこにあったのかしら。」

「それは…社長室に飾ってあったんじゃないんですか?」

「それは…どうかしら。あれを見て。」

樹玖子さんは壁を指さした。壁に飾ってあるのは…雑誌の切り抜きだろうか。

「あっこの社長室が写っていますね。」

黄金の万年筆が展示されているようには見えない。カメラの死角にある可能性もあるけど…どうだろう。

「そもそも、この社長室は普段応接とかでも使っているなら、黄金の万年筆を見た人が少ないのはおかしいんじゃないかしら。」

たしかにそうだ。あとで檜山さんに確認したほうがいいかもしれないな。

「おい、そろそろいいか?事情聴取を始めたいから手伝ってくれ。」

花野刑事がそう提案してきたので、僕と樹玖子さんは一旦捜査を中断し、花野刑事についていく。

隣の部屋に行くと何人か人が集まっていた。どうやら花野刑事が檜山さんに人を集めてくれるようお願いしたみたいだ。

集められたのは僕達を含めて7人だ。僕、樹玖子さん、花野刑事。それと案内してくれた檜山さんと皐月さんもいる。それからさっき見かけた副社長と…こちらをちらちら見ていた記者らしき人。

「おい、社長が殺されたと聞いたがどうなっているんだ!」

「そうですよ!いきなり会場から出るなと言われたと思ったらこんなところに集められて…説明してくださいよ!」

副社長さんと記者さんがそれぞれ花野刑事に詰め寄る。詳しい話はまだみたいだ。

「落ち着いてください。私はB県警刑事の花野です。」

刑事。その一言で場が緊張に包まれるのがわかった。花野刑事はいつもの口調とは違い、淡々と話を続ける。

「まず、出光半蔵社長が殺害されたのは事実です。これはそのための事情聴取です。また、ここにいる皆さんは容疑者。そう考えられます。」

「私が容疑者だと?ふざけるな!」

「そうですよ!不当な疑いをかけられるなんて、名誉毀損で記事にしますよ!?」

2人とも突然の事態でパニックになっているようだ。記者さんがよくわからない訴えをしている。

それにしても容疑者、か。皐月さんは第一発見者だからわかるけど他の3人はなぜ容疑者なのだろう。そんな僕の疑問を感じ取ったのか、重い空気の中、樹玖子さんが口を開いた。

「皆さんを集めたのは他でもありません。ここにいる皆さんは黄金の万年筆を事件前に見たことがある人物です。」

「それがなんの関係があるというのだ!そもそも私は副社長だぞ?知っているに決まっているじゃないか。」

「実は、黄金の万年筆が凶器に使われたのですよ。」

檜山さんがそう呟くように話した。花野刑事が話したのだろう。

「それなら僕は関係ないですよ。なんせしがない三流記者なものですから。」

この人、やはり記者だったのか。

「嘘をつくな!お前は社長のことをこそこそ嗅ぎ回って、万年筆のことも調べ上げていたじゃないか!さっきの打ち合わせの時も突然入ってきたしな!」

副社長は随分ご立腹だ。一方記者はバツが悪そうにそっぽをむいた。

「皆さん落ち着いてください。檜山さんのおっしゃるとおり、被害者である出光氏は黄金の万年筆で殺害されたとみて間違いありません。」

樹玖子さんはまたも落ち着いた声で話を続ける。

「ここにいる皆さんは、今日のお披露目前に黄金の万年筆を見ている、つまり黄金の万年筆での犯行が可能だと思われる人物です。まずは、皆さんのお話を聞かせてください。」

「そもそもあんたはだれなんだ。あんたも警察なのか?」

副社長の疑問ももっともだ。そういえば名乗ってなかった。

「ふっ。愛上樹玖子…!ただの探偵ですよ…」

ニヤリ、と樹玖子さんが不敵に微笑んでみせる。こんな状況だけどかっこいい…!
本当に無名のただの探偵だけど、樹玖子さんのハッタリが効いたのか、その後、容疑者の事情聴取がスムーズに始めることができたのだった。
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