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放蕩王弟帰城する!

王弟セリウスの帰城 1

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 沙良さらが部屋に軟禁状態にされて五日ほどたった日の午後――

「次は何をしましょうかね~、沙良ちゃん!」

 ミリーに訊ねられて沙良は困った顔をした。

 にこにこ笑っているようだが、ミリーの額に青筋が浮かんでいることに沙良は気づいている。

 理由はアスヴィルの一言にあった。

 ――しばらく部屋から出るな。

 二日前、夫に端的にそう告げられたミリアムは――キレた。

 ――はあああああ? いやよ! なんでよ!? 沙良ちゃんと遊べないじゃない!

 目の前で繰り広げられた夫婦喧嘩に、沙良はなすすべなく縮こまったことを覚えている。

 ぎゃーぎゃー言い合った挙句――騒いだのはミリアムだけだったが――、ミリアムは夫に人差し指を突きつけてこう宣言した。

 ――いいわ、わかった。そのかわり、わたしは沙良ちゃんとは離れないから。この部屋にこもらせていただきます!

 こうして、ミリアムは沙良の部屋に籠城を決め込むことにしたのだった。

 こんもりとソファの上に積まれた恋愛小説の数々、人形、ボードゲーム、トランプに花札。ミリアムによって次々と運び込まれるそれらが沙良の部屋の中にあふれかえっている。

 ミリーははぁと息を吐きだした。

「沙良ちゃん、わかりました。軟禁されるのは他人事だからドキドキわくわくするのであって、自分がされたらすっごくムカつきます」

 ミリーは党の上に閉じ込められたお姫様を王子様が助けに来るという設定の恋愛小説をぱらぱらとめくった。

「いっそ、王子様が助けにくれば堂々と浮気してやるのに……」

 子供姿の彼女の口から空恐ろしい発言が飛び出して、沙良は慌てた。

「あ、アスヴィル様も、事情があるんですよ! きっと!」

「そうですかぁ? じゃあお兄様が沙良ちゃんを閉じ込めたのも理由があるんですかねぇ? でも、閉じ込めといて、ちっとも会いに来ないのは、軟禁した側の責任を果たしてないと思うんですよ」

 それは、激怒したミリアムによって、アスヴィルが追い返されたせいなのだが、彼女は自分の所業を棚に上げてそうのたまった。ついでに言うと、ミリアムとアスヴィルの夫婦喧嘩に巻き込まれ、シヴァまでも門前払いを食らっている。

 毎日、沙良の部屋の扉の前に、静かにおかれるお菓子が入ったバスケットが物悲しい。

 きっとミリアムに会いたいけれど追い返されるアスヴィルが、泣く泣くお菓子だけをおいて行くのだろう。沙良はアスヴィルに深く同情した。

 その、夫からのご機嫌取りのような差し入れをモグモグと食い散らかしながら、ミリーはふんっと鼻を鳴らした。

「いつもいつも男どもは身勝手なんですよ! 今度という今度は、簡単には許してやらないんです!」

 いつも身勝手なことをしてアスヴィルを困らせているのはおそらく彼女の方なのだが、ミリーの脳内は情報が都合よく解釈されるらしい。

 沙良はこっそりため息をついた。

 昨日も、シヴァが様子を見に来てくれたと言うのに、ミリーによって部屋からたたき出されたのだ。結果、「元気か?」「はい」の二言で逢瀬が終了した。

 ミリーは散らかったテーブルの上にボードゲームをおいた。

「沙良ちゃん、今度はこれをしましょう!」

 そうしてミリーがボードゲームの準備を仕かけたとき――

 パンパンパンパン!

 突然乾いた大きな音が響いて、沙良とミリーは顔を上げた。

「今の何でしょうか?」

「さあ……?」

 二人そろって窓際まで移動して、外を伺う。すると、今まさに花火が打ちあがってパァンとはじけたところだった。

「……花火?」

「ですね」

 なぜ? と二人そろって首をかしげる。

 やがて、二人の視線の先にある庭の一角に、真っ白な馬が登場した。その白馬は、一人の男を背中に乗せていて。

「――あ」

 ミリーはあんぐりを口を開けて言った。

「うっそ。お兄様……?」

「お兄様?」

 沙良は白馬に乗った王子様のような出で立ちの男を見つめて、シヴァの顔を思い浮かべた。

 いつも真っ黒い服を着て、周りの人間を凍りつかせるような空気をまとっているシヴァと、窓外の青と白のきらびやかな格好をしている男。

 沙良は窓外を指さしてもう一度ミリーに問うた。

「……お兄様?」
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