63 / 137
離宮の夜は大混乱!?
浮気はドロドロだからダメなのです! 4
しおりを挟む
――それは、およそ一月前のことだった。
バードは魔王の離宮から少し離れた森の中に屋敷を構えていて、喧騒よりも静寂を愛する、優しく穏やかな青年だった。
そして、音楽をこよなく愛する彼は、暇さえあればヴァイオリンを奏でているのだが、リリアが屋敷を訪れたときは、何をしていても必ず手を止めて相手をしてくれた。それがたとえ突然の訪問であっても関係なく。
リリアはバードの低くて穏やかな声と、彼の奏でるヴァイオリンの音色が大好きだった。
バードは従兄であるジェイルの親友だったが、その性格は正反対と言っても過言でなく、慌てたところなど見たことがないほど常に冷静沈着な男性だった。
そんな彼にリリアが恋心を抱くのは、ごくごく当たり前のことだっただろう。
そして、バードに恋をしたリリアが、足しげく彼の屋敷に通っているうちに、こちらも当然の成り行きかもしれないが、二人は恋人同士になっていた。
バードは屋敷にやってくるリリアをいつも笑顔でむかえ、特に大きな喧嘩をすることもなく、順調な日々が続いていたはずだった。
それなのに――
バードの様子がおかしくなったのは、およそ一月前。
リリアはいつものようにバードの屋敷を訪れていた。
リリアが訪れたとき、彼はヴァイオリンを抱え持ち、しかし弾くのでもなく、ただぼんやりと椅子に座って虚空を見つめていた。
「……バード?」
物思いにふけっているバードに、リリアは訝しそうに声をかけた。
リリアの声を聞き、彼はハッと目を見開くと、部屋の入口で首を傾げている恋人に焦点を合わせた。
だが、リリアと目が合うと、彼はふいっと顔をそらし、抱え持っていたヴァイオリンに視線を落とした。
「バード、どうかしたの?」
明らかにいつもと様子が異なるバードに、リリアは心配になって歩み寄った。
「どうもしないよ」
バードは微笑みを浮かべたが、その笑みが作り物のように感じて、リリアはますます怪訝に思った。
「やっぱり変よ。なんだか元気がないわ」
「そんなことはないよ」
「嘘よ。だって―――」
バードはいつも、リリアが来ると笑顔でむかえて抱きしめてくれるのだ。それなのに、彼は今、椅子に座ったままで、笑顔もまるで仮面を張り付けたかのようにぎこちないし、何よりリリアを歓迎しているようには見えないのである。
「……具合でも、悪いの?」
バードは微苦笑を浮かべると、少し考えて、小さくうなずいた。
「そうだね、少し頭が痛いかもしれない。安静にしていれば落ち着くと思うけど、君を退屈させてしまうかな」
「退屈なんてそんな……! 大変じゃない。起きていないで寝ていなくちゃ!」
リリアはバードの手を引っ張って立ち上がらせると、彼の背中を押して寝室まで連れて行った。
バードをベッドに寝かせると、ベッドの隣まで椅子を引っ張ってきて腰を下ろす。
「ちゃんと寝て。わたしはここにいるから」
「……うん、ありがとう」
「体調の悪いときは無理しちゃダメなのよ」
「そうだね。気をつけるよ」
バードはやはり浮かない顔をしていたが、リリアは、彼は体調が悪かったのだと、その日は納得した。
しかし、彼の様子は数日たっても一向に元には戻らず、むしろ悪化していく一方で、ついに三日前、にこりとも笑わなくなったバードに、リリアはこう言われた。
――もう、ここには来ないでくれ。
リリアは真っ青になってバードに理由を訊ねたが、彼は何も理由は教えてくれず、悩み続けたリリアは、ついに限界になってジェイルを訪ねたのだった。
バードは魔王の離宮から少し離れた森の中に屋敷を構えていて、喧騒よりも静寂を愛する、優しく穏やかな青年だった。
そして、音楽をこよなく愛する彼は、暇さえあればヴァイオリンを奏でているのだが、リリアが屋敷を訪れたときは、何をしていても必ず手を止めて相手をしてくれた。それがたとえ突然の訪問であっても関係なく。
リリアはバードの低くて穏やかな声と、彼の奏でるヴァイオリンの音色が大好きだった。
バードは従兄であるジェイルの親友だったが、その性格は正反対と言っても過言でなく、慌てたところなど見たことがないほど常に冷静沈着な男性だった。
そんな彼にリリアが恋心を抱くのは、ごくごく当たり前のことだっただろう。
そして、バードに恋をしたリリアが、足しげく彼の屋敷に通っているうちに、こちらも当然の成り行きかもしれないが、二人は恋人同士になっていた。
バードは屋敷にやってくるリリアをいつも笑顔でむかえ、特に大きな喧嘩をすることもなく、順調な日々が続いていたはずだった。
それなのに――
バードの様子がおかしくなったのは、およそ一月前。
リリアはいつものようにバードの屋敷を訪れていた。
リリアが訪れたとき、彼はヴァイオリンを抱え持ち、しかし弾くのでもなく、ただぼんやりと椅子に座って虚空を見つめていた。
「……バード?」
物思いにふけっているバードに、リリアは訝しそうに声をかけた。
リリアの声を聞き、彼はハッと目を見開くと、部屋の入口で首を傾げている恋人に焦点を合わせた。
だが、リリアと目が合うと、彼はふいっと顔をそらし、抱え持っていたヴァイオリンに視線を落とした。
「バード、どうかしたの?」
明らかにいつもと様子が異なるバードに、リリアは心配になって歩み寄った。
「どうもしないよ」
バードは微笑みを浮かべたが、その笑みが作り物のように感じて、リリアはますます怪訝に思った。
「やっぱり変よ。なんだか元気がないわ」
「そんなことはないよ」
「嘘よ。だって―――」
バードはいつも、リリアが来ると笑顔でむかえて抱きしめてくれるのだ。それなのに、彼は今、椅子に座ったままで、笑顔もまるで仮面を張り付けたかのようにぎこちないし、何よりリリアを歓迎しているようには見えないのである。
「……具合でも、悪いの?」
バードは微苦笑を浮かべると、少し考えて、小さくうなずいた。
「そうだね、少し頭が痛いかもしれない。安静にしていれば落ち着くと思うけど、君を退屈させてしまうかな」
「退屈なんてそんな……! 大変じゃない。起きていないで寝ていなくちゃ!」
リリアはバードの手を引っ張って立ち上がらせると、彼の背中を押して寝室まで連れて行った。
バードをベッドに寝かせると、ベッドの隣まで椅子を引っ張ってきて腰を下ろす。
「ちゃんと寝て。わたしはここにいるから」
「……うん、ありがとう」
「体調の悪いときは無理しちゃダメなのよ」
「そうだね。気をつけるよ」
バードはやはり浮かない顔をしていたが、リリアは、彼は体調が悪かったのだと、その日は納得した。
しかし、彼の様子は数日たっても一向に元には戻らず、むしろ悪化していく一方で、ついに三日前、にこりとも笑わなくなったバードに、リリアはこう言われた。
――もう、ここには来ないでくれ。
リリアは真っ青になってバードに理由を訊ねたが、彼は何も理由は教えてくれず、悩み続けたリリアは、ついに限界になってジェイルを訪ねたのだった。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】恋につける薬は、なし
ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。
着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…
婚約破棄された悪役令嬢、手切れ金でもらった不毛の領地を【神の恵み(現代農業知識)】で満たしたら、塩対応だった氷の騎士様が離してくれません
夏見ナイ
恋愛
公爵令嬢アリシアは、王太子から婚約破棄された瞬間、歓喜に打ち震えた。これで退屈な悪役令嬢の役目から解放される!
前世が日本の農学徒だった彼女は、慰謝料として誰もが嫌がる不毛の辺境領地を要求し、念願の農業スローライフをスタートさせる。
土壌改良、品種改良、魔法と知識を融合させた革新的な農法で、荒れ地は次々と黄金の穀倉地帯へ。
当初アリシアを厄介者扱いしていた「氷の騎士」カイ辺境伯も、彼女の作る絶品料理に胃袋を掴まれ、不器用ながらも彼女に惹かれていく。
一方、彼女を追放した王都は深刻な食糧危機に陥り……。
これは、捨てられた令嬢が農業チートで幸せを掴む、甘くて美味しい逆転ざまぁ&領地経営ラブストーリー!
竜帝と番ではない妃
ひとみん
恋愛
水野江里は異世界の二柱の神様に魂を創られた、神の愛し子だった。
別の世界に産まれ、死ぬはずだった江里は本来生まれる世界へ転移される。
そこで出会う獣人や竜人達との縁を結びながらも、スローライフを満喫する予定が・・・
ほのぼの日常系なお話です。設定ゆるゆるですので、許せる方のみどうぞ!
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
悪役令嬢ですが、兄たちが過保護すぎて恋ができません
由香
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・セレフィーナに転生した私。
破滅回避のため、目立たず静かに生きる――はずだった。
しかし現実は、三人の兄による全力溺愛&完全監視生活。
外出には護衛、交友関係は管理制、笑顔すら規制対象!?
さらに兄の親友である最強騎士・カインが護衛として加わり、
静かで誠実な優しさに、次第に心が揺れていく。
「恋をすると破滅する」
そう信じて避けてきた想いの先で待っていたのは、
断罪も修羅場もない、安心で騒がしい未来だった――。
異世界転生公爵令嬢は、オタク知識で世界を救う。
ふわふわ
恋愛
過労死したオタク女子SE・桜井美咲は、アストラル王国の公爵令嬢エリアナとして転生。
前世知識フル装備でEDTA(重金属解毒)、ペニシリン、輸血、輪作・土壌改良、下水道整備、時計や文字の改良まで――「ラノベで読んだ」「ゲームで見た」を現実にして、疫病と貧困にあえぐ世界を丸ごとアップデートしていく。
婚約破棄→ザマァから始まり、医学革命・農業革命・衛生革命で「狂気のお嬢様」呼ばわりから一転“聖女様”に。
国家間の緊張が高まる中、平和のために隣国アリディアの第一王子レオナルド(5歳→6歳)と政略婚約→結婚へ。
無邪気で健気な“甘えん坊王子”に日々萌え悶えつつも、彼の未来の王としての成長を支え合う「清らかで温かい夫婦日常」と「社会を良くする小さな革命」を描く、爽快×癒しの異世界恋愛ザマァ物語。
治療係ですが、公爵令息様がものすごく懐いて困る~私、男装しているだけで、女性です!~
百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!?
男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!?
※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる