旦那様は魔王様!

狭山ひびき

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離宮の夜は大混乱!?

浮気はドロドロだからダメなのです! 4

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 ――それは、およそ一月前のことだった。

 バードは魔王の離宮りきゅうから少し離れた森の中に屋敷を構えていて、喧騒けんそうよりも静寂せいじゃくを愛する、優しく穏やかな青年だった。

 そして、音楽をこよなく愛する彼は、暇さえあればヴァイオリンを奏でているのだが、リリアが屋敷を訪れたときは、何をしていても必ず手を止めて相手をしてくれた。それがたとえ突然の訪問であっても関係なく。

 リリアはバードの低くて穏やかな声と、彼の奏でるヴァイオリンの音色が大好きだった。

 バードは従兄であるジェイルの親友だったが、その性格は正反対と言っても過言でなく、慌てたところなど見たことがないほど常に冷静沈着な男性だった。

 そんな彼にリリアが恋心を抱くのは、ごくごく当たり前のことだっただろう。

 そして、バードに恋をしたリリアが、足しげく彼の屋敷に通っているうちに、こちらも当然の成り行きかもしれないが、二人は恋人同士になっていた。

 バードは屋敷にやってくるリリアをいつも笑顔でむかえ、特に大きな喧嘩けんかをすることもなく、順調な日々が続いていたはずだった。

 それなのに――

 バードの様子がおかしくなったのは、およそ一月前。

 リリアはいつものようにバードの屋敷を訪れていた。

 リリアが訪れたとき、彼はヴァイオリンを抱え持ち、しかし弾くのでもなく、ただぼんやりと椅子に座って虚空こくうを見つめていた。

「……バード?」

 物思いにふけっているバードに、リリアは訝しそうに声をかけた。

 リリアの声を聞き、彼はハッと目を見開くと、部屋の入口で首を傾げている恋人に焦点を合わせた。

 だが、リリアと目が合うと、彼はふいっと顔をそらし、抱え持っていたヴァイオリンに視線を落とした。

「バード、どうかしたの?」

 明らかにいつもと様子が異なるバードに、リリアは心配になって歩み寄った。

「どうもしないよ」
 バードは微笑みを浮かべたが、その笑みが作り物のように感じて、リリアはますます怪訝に思った。

「やっぱり変よ。なんだか元気がないわ」

「そんなことはないよ」

「嘘よ。だって―――」

 バードはいつも、リリアが来ると笑顔でむかえて抱きしめてくれるのだ。それなのに、彼は今、椅子に座ったままで、笑顔もまるで仮面を張り付けたかのようにぎこちないし、何よりリリアを歓迎しているようには見えないのである。

「……具合でも、悪いの?」

 バードは微苦笑を浮かべると、少し考えて、小さくうなずいた。

「そうだね、少し頭が痛いかもしれない。安静にしていれば落ち着くと思うけど、君を退屈させてしまうかな」

「退屈なんてそんな……! 大変じゃない。起きていないで寝ていなくちゃ!」

 リリアはバードの手を引っ張って立ち上がらせると、彼の背中を押して寝室まで連れて行った。

 バードをベッドに寝かせると、ベッドの隣まで椅子を引っ張ってきて腰を下ろす。

「ちゃんと寝て。わたしはここにいるから」

「……うん、ありがとう」

「体調の悪いときは無理しちゃダメなのよ」

「そうだね。気をつけるよ」

 バードはやはり浮かない顔をしていたが、リリアは、彼は体調が悪かったのだと、その日は納得した。

 しかし、彼の様子は数日たっても一向に元には戻らず、むしろ悪化していく一方で、ついに三日前、にこりとも笑わなくなったバードに、リリアはこう言われた。

 ――もう、ここには来ないでくれ。

 リリアは真っ青になってバードに理由を訊ねたが、彼は何も理由は教えてくれず、悩み続けたリリアは、ついに限界になってジェイルを訪ねたのだった。
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