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離宮の夜は大混乱!?
淋しそうな誘拐犯 3
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沙良は出されたハーブティに口をつけながら、困惑したように視線を上げた。
目の前には難しい顔をした青年と、思いつめたような表情のエルザが座っている。
青年はバードと名乗ったが、彼もエルザも説明らしい説明をしてくれないので、沙良は状況がわかるまでおとなしくしておくことにした。
昼前――
離宮に軟禁されていたエルザの部屋にポタージュを持っていくと、彼女にそのままお茶に誘われた。
他愛ない話をしながらお茶を飲んだことまでは覚えている。
だが、沙良の記憶は途中で途絶え、気がついた時にはバードの屋敷の前だった。
そのまま半ば強引に引きずられるようにしてこの部屋まで連れてこられたというわけだ。
部屋の中には気まずい沈黙が落ちており、沙良は使用人がおいて行った茶菓子に手を伸ばすふりをしながら、バードとエルザの顔を盗み見る。
(バードさんは、エルザさんの恋人で、リリアさんの元恋人。でも、エルザさんが隣にいるのに、にこりともしないし、おかえりも言わないのは……どうして?)
シヴァはめったに笑わないが、それでも沙良が隣にいるときは表情を和らげてくれる。アスヴィルもミリアムア隣にいるときはとても嬉しそうだった。それなのに、バードは厳しい顔をしたままだ。
エルザもだ。恋人のバードがいるのに、表情が硬い。
「エルザ、あれを使ったの……?」
長い沈黙の末、バードがため息交じりに口を開いた。
エルザはティーカップをおいて頷いた。
「はい」
エルザはちらりと沙良を見ると、申し訳なさそうに眉を下げた。
「……睡眠薬とあの薬を使って、この子を連れ出しました」
なるほど、途中から記憶がないのは、睡眠薬で眠らされたからのようだ。
(あの薬……?)
沙良は「あの薬」が何なのかが気になったが、状況が呑み込めない中で迂闊に口を開くのはよくないと思い、黙っておく。
バードは難しい顔のまま額に手を当てた。
「……君の説明によると、この子はシヴァ様の妃じゃないのかな?」
妃。言われ慣れない単語に沙良はびっくりすると同時に照れてしまい、もじもじとティーカップの持ち手をいじった。
「そのようです」
「シヴァ様の妃を誘拐してきて、……どうなるか、わかってるのか」
「それは……。でも、杭も取り上げられて、こうするしかなかったんです。沙良と引き換えにジェイルをおびき寄せられれば……」
「あの杭は一つしかない。もう一つ同じものを作るには時間がかかるよ」
エルザはきゅっと唇をかんだ。
沙良はマドレーヌを咀嚼しながら、変な二人だなと思った。少なくとも、エルザとバードが恋人同士には見えない。
エルザがシヴァに取り上げられた杭も、どうやらただの木製の杭ではなさそうだ。
(心臓がほしいって言ってたけど……)
ジェイルの心臓をほしがるエルザに、バードが協力しているのだろうか。
そうまでしてほしがるジェイルの心臓に、どれほどの価値があるのだろう。
沙良は今度はココア風味のバターケーキに手を伸ばした。昼食を食べ損ねたためお腹がすいているのだ。
部屋の窓から見える外の景色は、闇に覆われていてはっきりと見えない。
もしかしたら夕食の時間かもしれないが、食事が運ばれてくる雰囲気はない。
(……シヴァ様、帰ってきたかな)
シヴァの顔を思い浮かべて、沙良は途端に淋しくなった。
シヴァのことだ、きっと沙良を探しに来てくれると思うが、もしこのまま会えなかったらという不安も頭の中をよぎる。
(チョコチップクッキー……、ないな)
バターケーキを飲み込んだ沙良は、テーブルの上の茶菓子の中にシヴァの好きなチョコチップクッキーがないことに淋しさを覚える。
(シヴァ様……)
次に口に入れたカヌレは、何の味もしなかった。
目の前には難しい顔をした青年と、思いつめたような表情のエルザが座っている。
青年はバードと名乗ったが、彼もエルザも説明らしい説明をしてくれないので、沙良は状況がわかるまでおとなしくしておくことにした。
昼前――
離宮に軟禁されていたエルザの部屋にポタージュを持っていくと、彼女にそのままお茶に誘われた。
他愛ない話をしながらお茶を飲んだことまでは覚えている。
だが、沙良の記憶は途中で途絶え、気がついた時にはバードの屋敷の前だった。
そのまま半ば強引に引きずられるようにしてこの部屋まで連れてこられたというわけだ。
部屋の中には気まずい沈黙が落ちており、沙良は使用人がおいて行った茶菓子に手を伸ばすふりをしながら、バードとエルザの顔を盗み見る。
(バードさんは、エルザさんの恋人で、リリアさんの元恋人。でも、エルザさんが隣にいるのに、にこりともしないし、おかえりも言わないのは……どうして?)
シヴァはめったに笑わないが、それでも沙良が隣にいるときは表情を和らげてくれる。アスヴィルもミリアムア隣にいるときはとても嬉しそうだった。それなのに、バードは厳しい顔をしたままだ。
エルザもだ。恋人のバードがいるのに、表情が硬い。
「エルザ、あれを使ったの……?」
長い沈黙の末、バードがため息交じりに口を開いた。
エルザはティーカップをおいて頷いた。
「はい」
エルザはちらりと沙良を見ると、申し訳なさそうに眉を下げた。
「……睡眠薬とあの薬を使って、この子を連れ出しました」
なるほど、途中から記憶がないのは、睡眠薬で眠らされたからのようだ。
(あの薬……?)
沙良は「あの薬」が何なのかが気になったが、状況が呑み込めない中で迂闊に口を開くのはよくないと思い、黙っておく。
バードは難しい顔のまま額に手を当てた。
「……君の説明によると、この子はシヴァ様の妃じゃないのかな?」
妃。言われ慣れない単語に沙良はびっくりすると同時に照れてしまい、もじもじとティーカップの持ち手をいじった。
「そのようです」
「シヴァ様の妃を誘拐してきて、……どうなるか、わかってるのか」
「それは……。でも、杭も取り上げられて、こうするしかなかったんです。沙良と引き換えにジェイルをおびき寄せられれば……」
「あの杭は一つしかない。もう一つ同じものを作るには時間がかかるよ」
エルザはきゅっと唇をかんだ。
沙良はマドレーヌを咀嚼しながら、変な二人だなと思った。少なくとも、エルザとバードが恋人同士には見えない。
エルザがシヴァに取り上げられた杭も、どうやらただの木製の杭ではなさそうだ。
(心臓がほしいって言ってたけど……)
ジェイルの心臓をほしがるエルザに、バードが協力しているのだろうか。
そうまでしてほしがるジェイルの心臓に、どれほどの価値があるのだろう。
沙良は今度はココア風味のバターケーキに手を伸ばした。昼食を食べ損ねたためお腹がすいているのだ。
部屋の窓から見える外の景色は、闇に覆われていてはっきりと見えない。
もしかしたら夕食の時間かもしれないが、食事が運ばれてくる雰囲気はない。
(……シヴァ様、帰ってきたかな)
シヴァの顔を思い浮かべて、沙良は途端に淋しくなった。
シヴァのことだ、きっと沙良を探しに来てくれると思うが、もしこのまま会えなかったらという不安も頭の中をよぎる。
(チョコチップクッキー……、ないな)
バターケーキを飲み込んだ沙良は、テーブルの上の茶菓子の中にシヴァの好きなチョコチップクッキーがないことに淋しさを覚える。
(シヴァ様……)
次に口に入れたカヌレは、何の味もしなかった。
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