旦那様は魔王様!

狭山ひびき

文字の大きさ
112 / 137
旦那様は魔王様≪最終話≫

消えた記憶 11

しおりを挟む
 沙良が帰ったあと、シヴァはソファに座って、クッキーの入った包みをじっと見つめていた。

 おそらくアスヴィルとミリアムに言いくるめられたのだろうが、あれだけ怯えていたのに、よくシヴァに近づこうとしたものだ。だが、クッキーの包みを渡そうとしたときの沙良の震えた指先や、真っ青な表情を思い出して、シヴァは言いようのない悲しみを覚える。

 リボンの端をひっぱり、そっと包みを開けば、沙良お手製のチョコチップクッキーが出てきて思わず微苦笑を浮かべてしまう。

 アスヴィルに何を言われたのか知らないが、記憶を失う前の沙良は、このチョコチップクッキーがシヴァの大好物だと信じていた。

 もちろん、嫌いではない。ほんのりビターなチョコチップを使っているクッキーは、紅茶にも珈琲にもよく合うし、甘いものの中では好きな部類に入る味だ。

 だが、あれば食べるくらいのもので、どうしても食べたいものではない。沙良が作るようになって、格段に口に入れる頻度が上がったが、それは沙良が作ったからであって、おそらく相手が沙良でなければ、毎日のように食べはしなかっただろう。

 シヴァは星の形をしたクッキーを一つ口に入れながら、テーブルの上においてある古びた本に視線をやった。アスヴィルがセリウスから回収してきた古代魔法について書かれた本。沙良の記憶を奪った魔法は、古代魔法だと言っていたらしい。

「星降る夜に―――、か」

 本の表紙には、古代語で「星降る夜に」と書かれている。

 星に関する魔法をまとめてあるようだが、古代語にも古代魔法にも精通していないシヴァにとって、該当箇所を拾うだけでも精いっぱいだった。それでもようやくそれらしい箇所までたどりついたが、発動された魔法の解除方法については何も書かれていなかった。

「星を戻して、記憶を操作する魔法―――、か」

 古代魔法は複雑かつ緻密で、自然現象に干渉して行うものも多く、多くの魔力もようする難解な魔法だ。セリウスの双子の弟クラウスは古代魔法を研究しているが、古代魔法を使う才能と言う点ではセリウスに軍配が上がる。生まれ持った素質とでもいうのだろうか、セリウスは誰もがてこずる古代魔法をあっさり読み解き、なおかつ発動させてしまう天才だった。

 だが、根っからの研究者体質のクラウスと違い、飽き性で自己の利害を優先させるセリウスは、研究には興味を示さなかったらしい。漁夫の利よろしく、クラウスが集めたり解読した蔵書に目を通して、必要なものだけ拾っていくのが彼だった。

「クラウスも余計な本を城において行ったものだ……」

 この本の出所は、クラウスが使っていた部屋の本棚に間違いないだろう。

(気は進まないが、仕方ない……)

 シヴァはクッキーをもう一枚口に入れると、本を片手に立ち上がった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

【完結】タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する

雨香
恋愛
【完結済】美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。 ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。  「シェイド様、大好き!!」 「〜〜〜〜っっっ!!???」 逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

お飾り王妃のはずなのに、黒い魔法を使ったら溺愛されてます

りんりん
恋愛
特産物のないポプリ国で、唯一有名なのは魔法だ。  初代女王は、歴史に名を残すほどの魔法使い。 それから数千年、高い魔力を引き継いだ女王の子孫達がこの国をおさめてきた。 時はアンバー女王の時代。 アンバー女王の夫シュリ王婿は、他国の第八王子であった。 どこか影の薄い王婿は、三女ローズウッドを不義の子ではと疑っている。 なぜなら、ローズウッドだけが 自分と同じ金髪碧眼でなかったからだ。 ローズウッドの薄いピンク色の髪と瞳は宰相ククスにそっくりなのも、気にいらない。 アンバー女王の子供は四人で、すべて女の子だった。 なかでもローズウッドは、女王の悩みの種だ。 ローズウッドは、現在14才。 誰に似たのか、呑気で魔力も乏しい。 ある日ストーン国のレオ王から、ローズウッド王女を妻にしたいとうい申し出が届いた。 ポプリ国は、ストーン国から魔法石の原料になる石を輸入している。 その石はストーン国からしか採れない。 そんな関係にある国の申し出を、断ることはできなかった。 しかし、レオ王に愛人がいるという噂を気にしたアンバー女王は悩む。 しかし、ローズウッド王女は嫁ぐことにする。 そして。 異国で使い魔のブーニャンや、チューちゃんと暮らしているうちに、ローズウッドはレオ王にひかれていってしまう。 ある日、偶然ローズウッドは、レオ王に呪いがかけられていることを知る。 ローズウッドは、王にかけられた呪いをとこうと行動をおこすのだった。  

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...