旦那様は魔王様!

狭山ひびき

文字の大きさ
123 / 137
旦那様は魔王様≪最終話≫

後悔 5

しおりを挟む
 沙良は窓外をぼーっと見つめていた。

 視線の先には中庭をのんびり歩いているシヴァの姿がある。

 ミリアムが、シヴァは考え事をするときに、たまに庭を散歩することがあると教えてくれたが、今もそうなのだろうか?

(シヴァ様、怖いのに……)

 シヴァは怖い。近くにいると身がすくんでしまうほど怖い。それなのに、最近気づけばシヴァの姿を探していた。

 今だって、たまたま外を見ていた時にシヴァの姿を見つけ、目が離せなくなったのだ。

「沙良ちゃん」

 シヴァがゆっくり庭を横切って、灌木《かんぼく》で作られた迷路の中に入って行く。慣れているのか、複雑に入り組んだ迷路なのに、シヴァは迷うことなく中央の四阿の方に向かって行った。

「ねえ、沙良ちゃん」

「ひゃあ!」

 耳の近くで話しかけられて、沙良はびっくりして飛び上がった。

 振り返れば、苦笑を浮かべたセリウスの姿がある。彼と会うのは数日ぶりだった。

「やっと気づいた。どうしたの? ぼーっとして……」

 セリウスがひょいっと窓の外に視線を向ける。そこにシヴァの姿を発見して、少し寂しそうな表情を浮かべた。

 ミリアムは今朝「ちょっとお母様に文句を言いに行くわ!」と意味不明なことを言って出かけており、リザもミリアムについて行ったので、セリウスが来るまで部屋の中には沙良一人だった。

「兄上を見ていたの?」

「えっと……」

 沙良はなんとなく気まずくなって視線を彷徨わせる。

 セリウスは沙良を背後からふんわり抱きしめると、重ねて訊いた。

「兄上が気になる?」

 気になる。だが、そう答えてはいけないような気がして、沙良は口を閉ざした。

 セリウスに抱きしめられたまま庭に視線を落としていれば、ふとシヴァがこちらを振り返る。

(あ……)

 シヴァと目があって、沙良はきゅっと心臓が締め付けられたように苦しくなるのを感じた。そして、セリウスに抱きしめられているところを見られたことに、言いようのない焦りを覚える。

 セリウスもシヴァの視線に気がついているはずなのに、沙良を開放してはくれない。

「沙良ちゃん、俺のこと好き?」

 唐突にセリウスが訊ねて、沙良は息を呑んだ。

 肩越しに振り向けば、いつもニコニコ笑っているセリウスは真面目な顔をしていて、冗談で訊いたのではないとわかる。

「す―――」

 好きだ答えようとして、沙良は言葉に詰まった。

 セリウスは好きだ。好きなはずだ。好きなはずなのに、好きと言えない。

 困った顔をして、一生懸命好きと言おうとしてなかなか言えない沙良の姿に、セリウスは瞑目して天井を仰いだ。

 天井に向けてはあ、と息を吐きだし、泣きそうな表情を浮かべる。

「記憶さえ消してしまえば、手に入ると思っていたのに……」

 セリウスは壊れ物を扱うような手つきで、沙良の頭をそっと撫でた。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する

雨香
恋愛
【完結済】美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。 ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。  「シェイド様、大好き!!」 「〜〜〜〜っっっ!!???」 逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

処理中です...