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野心と陰謀と
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「ウィルフレド殿下とダンスのときに何か話していただろう? 何を話していたの?」
この城に来たときに宣言した通り、クラヴィスは夜、イリアの部屋を訪れてそこで眠った。彼は器用な人で、侍女たちに気づかれぬように、就寝後時間をずらしてイリアの部屋に行き、朝早くに自分の部屋に戻っていた。
クラヴィスはイリアを腕の中に閉じ込めて、彼女の頭を優しくなでながら、詰問するような口調で問いただしてきた。
イリアに近づく男はすべて敵だと言わんばかりのこの王太子は、自分のそばから離れた婚約者が、知らないところで男と密談をしていることをよしとしなかった。
さあ、洗いざらい白状しろと責められて、イリアは口を尖らせると、ウィルフレドとかわした話を語った。ただ一点、クラヴィスと自分のダンスのどちらが踊りやすいかと訊かれたことだけは黙っていた。クラヴィスのいらぬ嫉妬心に火をつけると、痛い目を見るのは自分だからだ。
クラヴィスは黙って聞いていたが、突然イリアの手を取ると、その指にぱくりとかじりついた。歯は立てられなかったが、驚いたイリアが慌てて手を引っ込めようとしたが、彼は手を離さず、それどころか彼女の指の一本一本に舌を這わせはじめた。
イリアは真っ赤になった。
「な、なにをしているの……!」
「何って、君の手に僕以外の男が触れたのが気に入らない。しかもダンスの間ずっと握られていたなんて。消毒しないと気がすまない」
「消毒って……、お、お風呂でちゃんと洗ったもの!」
「風呂で洗おうと関係ないね。僕が消毒したいんだから」
そう言って丁寧に指が舐めしゃぶられると、イリアは恥ずかしいやらくすぐったいやらで、背筋をぞくぞくと悪寒のようなものが伝ってきて身をよじった。
「や、やっ、もう終わったでしょ! 離して……!」
「まだだよ。もう片方の手が終わっていない」
そう言ってもう片方の手が取られると、イリアは目を潤ませて枕に顔を押しつけた。
(ばかばか、クラヴィスのばか! 恥ずかしいのに……!)
そうしてイリアは、クラヴィスが満足するまでその辱めに耐えたあと、ようやく手が解放されると、その手を胸下でぎゅっと抱きしめて、浅い呼吸をくり返した。
顔が熱いし、鼓動は早いし、まだくすぐられているようなゾクゾクした感じがある。
イリアがうるうると目を潤ませていると、クラヴィスは上機嫌で彼女を引き寄せてその唇にキスをした。
「かわいいな。ここがもし僕の部屋なら、遠慮なんてしないのに」
何を遠慮しないつもりなんだろう。イリアは怖くて訊けなかった。
「イリアだって僕に可愛がられたいだろう?」
イリアは確かにクラヴィスに可愛がってほしいが、彼の言う「可愛がる」は何やら違う響きがする。ここで頷いたらおそらくもっと恥ずかしいことをされてしまう。悟った彼女は、クラヴィスの気分を害さないように「も、もう充分だもの」と答えた。「嫌だ」なんて言ったら最後、間違いなく「お仕置き」される。
しかし、何やら火がついてしまったらしい彼は、「遠慮しなくていいんだよ」と言ってイリアの鼻先にかじりついた。あまがみされて驚いている隙に、イリアは組み敷かれて、彼にのしかかられていた。
「もう少しくらいならいいよね」
なにが「もう少し」なのか。イリアはその先が怖くなって、ぶんぶんと首を横に振った。
けれどもクラヴィスはイリアの抵抗はお構いなしで、彼女の首筋に舌を這わせて、彼女の胸の谷間に顔をうずめた。そして、その首にある首飾りに向かって忌々しそうに「邪魔だな」とつぶやいた後、それをよけるようにさらに舌を這わせる。
「クラヴィスぅ……!」
これ以上はまずい。イリアはそう思ったが、クラヴィスは止まらないらしい。イリアはポチを探したが、彼はイリアの頭の上でくぴくぴと眠っていて起きる気配がなかった。実はポチは、彼の愛らしさにすっかり心奪われたカーミラによって、存分に好物の魚が与えられて、お腹がいっぱいになって幸せな夢の中にいるのだった。きっと夢の中でも魚を食べているのだろう、時折もぐもぐと口を動かすのがその証拠だ。
「わかっているよ。キスの痕はつけないからね」
そういうことではない。胸のふくらみや腰のあたりを撫ではじめたクラヴィスに、イリアは泣きそうになった。
気がつけば、胸元がかなりはだけさせられている。あと少しで大事なところが見えてしまいそうだ。イリアは慌てて身をよじった。
「わたしたち、お客さんなのよ……!」
クラヴィスは本気でイリアが泣きそうになっているのに気づいて、仕方ないと肩をすくめた。そしてイリアの夜着を整えると、彼女を腕の中に閉じ込めた。
「もう少し可愛がりたかったんだけど、またの機会にしておくよ」
イリアは、頼むからその機会は「結婚後」に訪れてほしいと思った。
この城に来たときに宣言した通り、クラヴィスは夜、イリアの部屋を訪れてそこで眠った。彼は器用な人で、侍女たちに気づかれぬように、就寝後時間をずらしてイリアの部屋に行き、朝早くに自分の部屋に戻っていた。
クラヴィスはイリアを腕の中に閉じ込めて、彼女の頭を優しくなでながら、詰問するような口調で問いただしてきた。
イリアに近づく男はすべて敵だと言わんばかりのこの王太子は、自分のそばから離れた婚約者が、知らないところで男と密談をしていることをよしとしなかった。
さあ、洗いざらい白状しろと責められて、イリアは口を尖らせると、ウィルフレドとかわした話を語った。ただ一点、クラヴィスと自分のダンスのどちらが踊りやすいかと訊かれたことだけは黙っていた。クラヴィスのいらぬ嫉妬心に火をつけると、痛い目を見るのは自分だからだ。
クラヴィスは黙って聞いていたが、突然イリアの手を取ると、その指にぱくりとかじりついた。歯は立てられなかったが、驚いたイリアが慌てて手を引っ込めようとしたが、彼は手を離さず、それどころか彼女の指の一本一本に舌を這わせはじめた。
イリアは真っ赤になった。
「な、なにをしているの……!」
「何って、君の手に僕以外の男が触れたのが気に入らない。しかもダンスの間ずっと握られていたなんて。消毒しないと気がすまない」
「消毒って……、お、お風呂でちゃんと洗ったもの!」
「風呂で洗おうと関係ないね。僕が消毒したいんだから」
そう言って丁寧に指が舐めしゃぶられると、イリアは恥ずかしいやらくすぐったいやらで、背筋をぞくぞくと悪寒のようなものが伝ってきて身をよじった。
「や、やっ、もう終わったでしょ! 離して……!」
「まだだよ。もう片方の手が終わっていない」
そう言ってもう片方の手が取られると、イリアは目を潤ませて枕に顔を押しつけた。
(ばかばか、クラヴィスのばか! 恥ずかしいのに……!)
そうしてイリアは、クラヴィスが満足するまでその辱めに耐えたあと、ようやく手が解放されると、その手を胸下でぎゅっと抱きしめて、浅い呼吸をくり返した。
顔が熱いし、鼓動は早いし、まだくすぐられているようなゾクゾクした感じがある。
イリアがうるうると目を潤ませていると、クラヴィスは上機嫌で彼女を引き寄せてその唇にキスをした。
「かわいいな。ここがもし僕の部屋なら、遠慮なんてしないのに」
何を遠慮しないつもりなんだろう。イリアは怖くて訊けなかった。
「イリアだって僕に可愛がられたいだろう?」
イリアは確かにクラヴィスに可愛がってほしいが、彼の言う「可愛がる」は何やら違う響きがする。ここで頷いたらおそらくもっと恥ずかしいことをされてしまう。悟った彼女は、クラヴィスの気分を害さないように「も、もう充分だもの」と答えた。「嫌だ」なんて言ったら最後、間違いなく「お仕置き」される。
しかし、何やら火がついてしまったらしい彼は、「遠慮しなくていいんだよ」と言ってイリアの鼻先にかじりついた。あまがみされて驚いている隙に、イリアは組み敷かれて、彼にのしかかられていた。
「もう少しくらいならいいよね」
なにが「もう少し」なのか。イリアはその先が怖くなって、ぶんぶんと首を横に振った。
けれどもクラヴィスはイリアの抵抗はお構いなしで、彼女の首筋に舌を這わせて、彼女の胸の谷間に顔をうずめた。そして、その首にある首飾りに向かって忌々しそうに「邪魔だな」とつぶやいた後、それをよけるようにさらに舌を這わせる。
「クラヴィスぅ……!」
これ以上はまずい。イリアはそう思ったが、クラヴィスは止まらないらしい。イリアはポチを探したが、彼はイリアの頭の上でくぴくぴと眠っていて起きる気配がなかった。実はポチは、彼の愛らしさにすっかり心奪われたカーミラによって、存分に好物の魚が与えられて、お腹がいっぱいになって幸せな夢の中にいるのだった。きっと夢の中でも魚を食べているのだろう、時折もぐもぐと口を動かすのがその証拠だ。
「わかっているよ。キスの痕はつけないからね」
そういうことではない。胸のふくらみや腰のあたりを撫ではじめたクラヴィスに、イリアは泣きそうになった。
気がつけば、胸元がかなりはだけさせられている。あと少しで大事なところが見えてしまいそうだ。イリアは慌てて身をよじった。
「わたしたち、お客さんなのよ……!」
クラヴィスは本気でイリアが泣きそうになっているのに気づいて、仕方ないと肩をすくめた。そしてイリアの夜着を整えると、彼女を腕の中に閉じ込めた。
「もう少し可愛がりたかったんだけど、またの機会にしておくよ」
イリアは、頼むからその機会は「結婚後」に訪れてほしいと思った。
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