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エイミーと歌の特訓 2
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放課後、エイミーはうきうきと城へ向かった。
同じ方向へ向かうのだからライオネルの馬車に乗せてくれてもいいのに、同じ馬車に乗るとべったりとくっついて離れないから嫌だと言われて乗せてくれなかったのは残念だが、今日から三週間毎日ライオネルとお城デートできることと比べれば些細なことだ。
城に到着すると、ライオネルがすでに指示を出していたのだろう、すぐに防音室へ通された。
防音室にはピアノが一台置いてあって、ライオネルがピアノの前の椅子に座っている。
(もしかしなくても殿下が伴奏してくれるのかしら? 殿下のピアノ、久しぶりだわ!)
ライオネルはどんなに頼んでもエイミーのためにピアノは弾いてくれなかったが、城で開かれるお茶会では、王妃に乞われて何度か披露していた。エイミーも王妃に誘われたお茶会で聞いたことがある。そのピアノを――いくらお願いしてもエイミーのためには弾いてくれなかったライオネルのピアノを、今日ここで自分だけが独占できるのだ。
「殿下大好き‼」
嬉しくなったエイミーは、背後で扉が閉まった途端に駆けだした。
だが、抱き着く前にライオネルにがしっと頭を掴まれる。
「抱き着いてくるな!」
「だって……」
「いいか、俺に指一本でも触れてみろ、すぐにつまみ出すぞ! お前を呼んだのは歌の練習をさせるためで俺に抱き着かせるためじゃない!」
「じゃあせめて――」
「匂いを嗅ぐのもだめだ! わかったな⁉」
「……はぁい」
エイミーは口を尖らせたが、あまりごねてライオネルの機嫌を損ねると、本当につまみ出される可能性があったのでそれ以上は反論しなかった。せっかくのお城デートが一分で終了になるのは嫌だからである。
「ほら、さっさとそこに立て。まずは音階からだ。お前の歌を聞いたのは六年前が最後だからな、今がどういう状態か確かめる必要がある」
(六年前って言うと……あっ、殿下にお誕生日を歌を歌ったときね!)
エイミーが一生懸命練習した誕生日祝いの歌は、しかしわずか二小節歌ったところで待ったをかけられた。そして「二度と人前で歌うな」と言われたのである。だからあれ以来人前で歌っていないので、もちろんライオネルにも歌を聞かせていない。
「じゃあまずこの音からだ」
ライオネルがポーンとピアノの鍵盤をたたいた。
エイミーは大きく息を吸い込んで、ライオネルの叩いた音に合わせて発声する。
「あ~~~~~~」
「待てやめろどうしてそうなる!」
「?」
「今俺が叩いたのは何の音だ⁉」
「ドの音です」
「じゃあお前が歌ったのは何の音だ?」
「ドの音です」
「ソのシャープだ‼」
「……ん?」
エイミーは首をひねった。
ライオネルは頭を抱えて「音階もだめなのか……」とぼやいている。
「どうしてお前は楽器は問題なく弾けるのに歌になると音を外すんだ!」
「外してません」
「じゃあさっきのは何なんだ!」
「わかりません」
エイミーは胸を張って答えた。だって本当にわからないからだ。自分ではあっていると思っているからである。
「わかりませんけどあっていると思います」
「あっていない‼」
ライオネルがぐしゃぐしゃと髪を乱して、もう一度ドの音を叩いた。
歌えと顎をしゃくられたので、腑に落ちないながらも歌いだす。
「あ~~~~~~」
「高い。もっと下げろ」
「あ~~~~~~?」
「まだだ」
「あ~~~~~~?」
「声が揺れている。そしてまだ高い。もういいやめろ」
ライオネルは少し考えて、ソのシャープを叩いた。
「これは?」
「あ~~~~~~」
「……なんでこれはあっているんだ? じゃあこれは?」
「あ~~~~~~」
「違う! 次はこれ」
「あ~~~~~~」
「これも違う! 次!」
「あ~~~~~~」
「違うっ、次!」
ライオネルは一体何がしたいのだろうか?
次々に鍵盤をたたいては歌えと言われて、エイミーはだんだんわけがわからなくなってきた。
ただ、ライオネルが歌えというからには歌わなければならない。これをやめたらせっかくのデートが即終了だからだ。
ライオネルはひと通り確認を終えると、言った。
「お前が歌ったのは全部ソのシャープだ! お前、音聞いてないんじゃないのか⁉」
「そんなはずないです」
「……は~…………」
先は長いとがっくりと肩を落とすライオネルに、エイミーはますます首をひねった。
同じ方向へ向かうのだからライオネルの馬車に乗せてくれてもいいのに、同じ馬車に乗るとべったりとくっついて離れないから嫌だと言われて乗せてくれなかったのは残念だが、今日から三週間毎日ライオネルとお城デートできることと比べれば些細なことだ。
城に到着すると、ライオネルがすでに指示を出していたのだろう、すぐに防音室へ通された。
防音室にはピアノが一台置いてあって、ライオネルがピアノの前の椅子に座っている。
(もしかしなくても殿下が伴奏してくれるのかしら? 殿下のピアノ、久しぶりだわ!)
ライオネルはどんなに頼んでもエイミーのためにピアノは弾いてくれなかったが、城で開かれるお茶会では、王妃に乞われて何度か披露していた。エイミーも王妃に誘われたお茶会で聞いたことがある。そのピアノを――いくらお願いしてもエイミーのためには弾いてくれなかったライオネルのピアノを、今日ここで自分だけが独占できるのだ。
「殿下大好き‼」
嬉しくなったエイミーは、背後で扉が閉まった途端に駆けだした。
だが、抱き着く前にライオネルにがしっと頭を掴まれる。
「抱き着いてくるな!」
「だって……」
「いいか、俺に指一本でも触れてみろ、すぐにつまみ出すぞ! お前を呼んだのは歌の練習をさせるためで俺に抱き着かせるためじゃない!」
「じゃあせめて――」
「匂いを嗅ぐのもだめだ! わかったな⁉」
「……はぁい」
エイミーは口を尖らせたが、あまりごねてライオネルの機嫌を損ねると、本当につまみ出される可能性があったのでそれ以上は反論しなかった。せっかくのお城デートが一分で終了になるのは嫌だからである。
「ほら、さっさとそこに立て。まずは音階からだ。お前の歌を聞いたのは六年前が最後だからな、今がどういう状態か確かめる必要がある」
(六年前って言うと……あっ、殿下にお誕生日を歌を歌ったときね!)
エイミーが一生懸命練習した誕生日祝いの歌は、しかしわずか二小節歌ったところで待ったをかけられた。そして「二度と人前で歌うな」と言われたのである。だからあれ以来人前で歌っていないので、もちろんライオネルにも歌を聞かせていない。
「じゃあまずこの音からだ」
ライオネルがポーンとピアノの鍵盤をたたいた。
エイミーは大きく息を吸い込んで、ライオネルの叩いた音に合わせて発声する。
「あ~~~~~~」
「待てやめろどうしてそうなる!」
「?」
「今俺が叩いたのは何の音だ⁉」
「ドの音です」
「じゃあお前が歌ったのは何の音だ?」
「ドの音です」
「ソのシャープだ‼」
「……ん?」
エイミーは首をひねった。
ライオネルは頭を抱えて「音階もだめなのか……」とぼやいている。
「どうしてお前は楽器は問題なく弾けるのに歌になると音を外すんだ!」
「外してません」
「じゃあさっきのは何なんだ!」
「わかりません」
エイミーは胸を張って答えた。だって本当にわからないからだ。自分ではあっていると思っているからである。
「わかりませんけどあっていると思います」
「あっていない‼」
ライオネルがぐしゃぐしゃと髪を乱して、もう一度ドの音を叩いた。
歌えと顎をしゃくられたので、腑に落ちないながらも歌いだす。
「あ~~~~~~」
「高い。もっと下げろ」
「あ~~~~~~?」
「まだだ」
「あ~~~~~~?」
「声が揺れている。そしてまだ高い。もういいやめろ」
ライオネルは少し考えて、ソのシャープを叩いた。
「これは?」
「あ~~~~~~」
「……なんでこれはあっているんだ? じゃあこれは?」
「あ~~~~~~」
「違う! 次はこれ」
「あ~~~~~~」
「これも違う! 次!」
「あ~~~~~~」
「違うっ、次!」
ライオネルは一体何がしたいのだろうか?
次々に鍵盤をたたいては歌えと言われて、エイミーはだんだんわけがわからなくなってきた。
ただ、ライオネルが歌えというからには歌わなければならない。これをやめたらせっかくのデートが即終了だからだ。
ライオネルはひと通り確認を終えると、言った。
「お前が歌ったのは全部ソのシャープだ! お前、音聞いてないんじゃないのか⁉」
「そんなはずないです」
「……は~…………」
先は長いとがっくりと肩を落とすライオネルに、エイミーはますます首をひねった。
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