16 / 43
モモンガの欠席 2
しおりを挟む
「殿下、今日は天気が悪いですけど大丈夫ですか?」
エイミーがそう言いながらやって来たのは、四限目の授業が終わった直後のことだった。
昼休みで教室を出ていく人が目立つ中やってきたエイミーは、開口一番にそう訊ねてきた。
「薬を飲んだから大丈夫だ」
「そうですか、よかったです。二限目と三限目は欠席していたみたいだったので心配したんですよ」
「待てなんでお前が知っている」
「殿下のクラスの人が教えてくれました」
エイミーは胸を張って答えた。
朝から天気が悪かったので、エイミーはずっとライオネルのことが気になっていたのだ。
ライオネルは気圧の影響を受けやすい体質で、天気の悪い日に頭痛を覚えることが多い。特に今日はエイミーも軽い頭痛を覚えるくらいに気圧が低かったので、きっと具合が悪くなっているだろうと思っていた。
だから休憩時間に様子を見に行くようにしていたのだが、一限目が終わったあとにふらりといなくなったライオネルは、そのまま二限目も三限目も戻って来なかったと彼のクラスメイトが教えてくれたのだ。
(きっと頭が痛くてどこかで休んでいたのね)
体調が悪い日に付きまとうとライオネルが困るだろうと思って、医務室のウォルターに様子を聞きに行くのも我慢していたのだ。もしライオネルが寝ていたら邪魔になるかと思って。
「殿下、ご飯を食べに行きませんか」
「断る」
「わたしも今日は食堂なんです」
「だから断る」
「さ、行きましょう」
「………モモンガめ」
「わたしは人間ですよ?」
ライオネルの手を取って歩き出すと、彼はため息を吐いた。だが、手を振りほどこうとはしない。どちらにせよ昼食を食べに食堂に行くからだろう。
「今日はモリーン伯爵令嬢と一緒じゃないのか?」
「シンシアは今日お休みなんです。風邪を引いてしまったんですって。季節の変わり目って寒暖差があるからか体調を崩しやすいですよね。あ、殿下、もしわたしが風邪を引いたらお見舞いに来てくださいね!」
「絶対に嫌だ」
「殿下が風邪を引いてもちゃんとお見舞いに行きますからね」
「来るな」
「クッキー焼いていきますからね」
「人の話を聞け!」
「えへへ~」
ライオネルはぷんぷんと怒り出したが、エイミーはへらへらと笑った。体調を心配していたが、ライオネルが元気そうで嬉しい。
食堂を兼任しているカフェテリアに行けば、すでに大勢の生徒でごった返していた。
しかし、このカフェテリアはとても広いので、座る場所がなくて困ることはほとんどない。
隅の方の開いている席を見つけると、エイミーはライオネルとともにそちらへ向かった。
「殿下は座っていてください。お食事を持ってきます。日替わりランチでいいですか?」
「お前のそのちっこい手で二つも持てるわけないだろう。俺も行く」
「ダメです。殿下はそこで席を取っていてくれないと。大丈夫ですよ、ちゃんと一つずつ持ってきますから」
「だが――」
「じゃあちょっとだけ待っていてくださいね~」
「おい!」
エイミーはライオネルを席に残して、ぱたぱたと食事を取りに行く。
ライオネルにいった通りに、一つずつ席に運ぶと、彼の対面に腰を下ろした。
(えへへ、殿下と初ランチデート!)
入学してから、エイミーは一度もライオネルとランチを一緒に取ったことがない。誘いに行ってもいつも断られるからだ。だが、今日はお弁当がなかったおかげでライオネルを食事に誘うことに成功した。
(お弁当がなかったらいつも一緒に食べてくれるかしら? ……無理ね、たぶん)
今日はたまたまだろう。ライオネルの体調が優れないから、エイミーを撒く体力がなかっただけに決まっている。
綺麗な所作で食事をとるライオネルに認めていると、彼が顔を上げて眉を寄せた。
「お前は毎日毎日オレを追いかけまわして飽きないのか」
「はい!」
「即答するな!」
そうは言うが、考える必要のない問いだったのだから即答するのは当然だ。エイミーはできれば四六時中べったりとライオネルに引っ付いていたいのである。これでも我慢している方なのだ。
「殿下殿下、来月はわたしのお誕生日ですよ。覚えてますか?」
「毎年あれだけしつこくされれば嫌でも覚える」
「殿下大好き‼」
誕生日を覚えていてもらえて、エイミーがぱあっと顔を輝かせると、ライオネルははーっと長いため息をついて、それから真顔になった。
「お前は一体何度同じことを言わせればわかるんだ」
ライオネルの綺麗な紫色の瞳が、まっすぐにエイミーの目を射抜く。
「俺はお前が嫌いだ」
エイミーは大きく目を見開いた。
エイミーがそう言いながらやって来たのは、四限目の授業が終わった直後のことだった。
昼休みで教室を出ていく人が目立つ中やってきたエイミーは、開口一番にそう訊ねてきた。
「薬を飲んだから大丈夫だ」
「そうですか、よかったです。二限目と三限目は欠席していたみたいだったので心配したんですよ」
「待てなんでお前が知っている」
「殿下のクラスの人が教えてくれました」
エイミーは胸を張って答えた。
朝から天気が悪かったので、エイミーはずっとライオネルのことが気になっていたのだ。
ライオネルは気圧の影響を受けやすい体質で、天気の悪い日に頭痛を覚えることが多い。特に今日はエイミーも軽い頭痛を覚えるくらいに気圧が低かったので、きっと具合が悪くなっているだろうと思っていた。
だから休憩時間に様子を見に行くようにしていたのだが、一限目が終わったあとにふらりといなくなったライオネルは、そのまま二限目も三限目も戻って来なかったと彼のクラスメイトが教えてくれたのだ。
(きっと頭が痛くてどこかで休んでいたのね)
体調が悪い日に付きまとうとライオネルが困るだろうと思って、医務室のウォルターに様子を聞きに行くのも我慢していたのだ。もしライオネルが寝ていたら邪魔になるかと思って。
「殿下、ご飯を食べに行きませんか」
「断る」
「わたしも今日は食堂なんです」
「だから断る」
「さ、行きましょう」
「………モモンガめ」
「わたしは人間ですよ?」
ライオネルの手を取って歩き出すと、彼はため息を吐いた。だが、手を振りほどこうとはしない。どちらにせよ昼食を食べに食堂に行くからだろう。
「今日はモリーン伯爵令嬢と一緒じゃないのか?」
「シンシアは今日お休みなんです。風邪を引いてしまったんですって。季節の変わり目って寒暖差があるからか体調を崩しやすいですよね。あ、殿下、もしわたしが風邪を引いたらお見舞いに来てくださいね!」
「絶対に嫌だ」
「殿下が風邪を引いてもちゃんとお見舞いに行きますからね」
「来るな」
「クッキー焼いていきますからね」
「人の話を聞け!」
「えへへ~」
ライオネルはぷんぷんと怒り出したが、エイミーはへらへらと笑った。体調を心配していたが、ライオネルが元気そうで嬉しい。
食堂を兼任しているカフェテリアに行けば、すでに大勢の生徒でごった返していた。
しかし、このカフェテリアはとても広いので、座る場所がなくて困ることはほとんどない。
隅の方の開いている席を見つけると、エイミーはライオネルとともにそちらへ向かった。
「殿下は座っていてください。お食事を持ってきます。日替わりランチでいいですか?」
「お前のそのちっこい手で二つも持てるわけないだろう。俺も行く」
「ダメです。殿下はそこで席を取っていてくれないと。大丈夫ですよ、ちゃんと一つずつ持ってきますから」
「だが――」
「じゃあちょっとだけ待っていてくださいね~」
「おい!」
エイミーはライオネルを席に残して、ぱたぱたと食事を取りに行く。
ライオネルにいった通りに、一つずつ席に運ぶと、彼の対面に腰を下ろした。
(えへへ、殿下と初ランチデート!)
入学してから、エイミーは一度もライオネルとランチを一緒に取ったことがない。誘いに行ってもいつも断られるからだ。だが、今日はお弁当がなかったおかげでライオネルを食事に誘うことに成功した。
(お弁当がなかったらいつも一緒に食べてくれるかしら? ……無理ね、たぶん)
今日はたまたまだろう。ライオネルの体調が優れないから、エイミーを撒く体力がなかっただけに決まっている。
綺麗な所作で食事をとるライオネルに認めていると、彼が顔を上げて眉を寄せた。
「お前は毎日毎日オレを追いかけまわして飽きないのか」
「はい!」
「即答するな!」
そうは言うが、考える必要のない問いだったのだから即答するのは当然だ。エイミーはできれば四六時中べったりとライオネルに引っ付いていたいのである。これでも我慢している方なのだ。
「殿下殿下、来月はわたしのお誕生日ですよ。覚えてますか?」
「毎年あれだけしつこくされれば嫌でも覚える」
「殿下大好き‼」
誕生日を覚えていてもらえて、エイミーがぱあっと顔を輝かせると、ライオネルははーっと長いため息をついて、それから真顔になった。
「お前は一体何度同じことを言わせればわかるんだ」
ライオネルの綺麗な紫色の瞳が、まっすぐにエイミーの目を射抜く。
「俺はお前が嫌いだ」
エイミーは大きく目を見開いた。
36
あなたにおすすめの小説
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
折角転生したのに、婚約者が好きすぎて困ります!
たぬきち25番
恋愛
ある日私は乙女ゲームのヒロインのライバル令嬢キャメロンとして転生していた。
なんと私は最推しのディラン王子の婚約者として転生したのだ!!
幸せすぎる~~~♡
たとえ振られる運命だとしてもディラン様の笑顔のためにライバル令嬢頑張ります!!
※主人公は婚約者が好きすぎる残念女子です。
※気分転換に笑って頂けたら嬉しく思います。
短めのお話なので毎日更新
※糖度高めなので胸やけにご注意下さい。
※少しだけ塩分も含まれる箇所がございます。
《大変イチャイチャラブラブしてます!! 激甘、溺愛です!! お気を付け下さい!!》
※他サイト様にも公開始めました!
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!
こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。
そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。
婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。
・・・だったら、婚約解消すれば良くない?
それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。
結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。
「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」
これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。
そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。
※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。
※本編完結しました。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる