君を愛せないと言われたので、夫が忘れた初恋令嬢を探します

狭山ひびき

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デパートデート 3

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 クリフ様の一週間の休暇も終わり、彼は朝からお仕事に出かけた。
 昨日馬車の中で眠ったからか、顔色は少しだけよくなった気がするけれど、まだ本調子ではなさそうだ。
 しかし一週間も休んだので、これ以上は休めないとクリフ様はお城へ向かった。

 わたしはクリフ様をお見送りしたあと、彼の師匠であり魔法省長官でもあるコニーリアス・ヘイマー様へお手紙を書くことにした。
 バレル王国に置いて、コニーリアス様ほど魔法に精通している方はない。
 コニーリアス様ならクリフ様の失った記憶を取り戻す方法がわかるかもしれないと思ったのだ。

「ドロシア、このお手紙を届けてきてくれるように言づけてくれない?」
「かしこまりました」

 バレル王国には手紙や荷物の配達を行う民間企業が存在するが、貴族――特に古参貴族は各家の使用人が直接手紙を届けに行くことも多々ある。
 クリフ様によれば、領地などから手紙を出す場合は、秘密にしたい内容でない場合は民間の手紙の配達員に任せるが、王都に滞在している時に同じく王都に滞在している貴族へ手紙を出すときは、使用人を使った方が早く到着するので使用人に任せることが多いのだそうだ。

 わたしの書いたお手紙はクリフ様が忘却の魔法を使ったことについての相談なので、民間企業は通さない方がいいと思われた。だから公爵家の使用人に届けてもらった方がいいだろう。
 手紙を書いたあとは、わたし宛に届いた手紙の内容を確認していくことにした。
 結婚してから、わたしの元にはお茶会の招待状が届くようになったのだ。

 ……気が進まないけど、全部無視するわけにはいかないわよね。

 クリフ様と結婚する前は、お義母様とお茶会に参加していた。
 ただ朗らかに時間がすぎていくお茶会もあれば、そうでないものもあり、新興貴族と侮られることもしばしばあった。
 そのときはお義母様がフォローしてくれたり、相手を諫めてくれたりしてくれたが、これからはわたし一人で参加することになる。

 新興貴族の中にはお友達はいるが、古参貴族にはわたしはお友達がいない。
 お義母様がお茶会に連れ出してくれてできるだけわたしの交友関係を広げようと頑張ってくれたのだけど、古参貴族の中にはいまだに新興貴族への蔑視が激しい派閥があって、なかなかうまくいかなかったのだ。その派閥は高位貴族が集中しているからか、彼等に睨まれてまでわたしとお付き合いしたいと思うご令嬢はいないのだろう。

 王族で公爵夫人でもあったお義母様の手前、面と向かって敵視してくる人はいなかったけれど、お義母様がそばにいなければそれもわからない。

「ドロシア、お茶会の招待状の選別を手伝ってくれる? できればあまり参加したくないんだけど、断れないものもあると思うから」

 眉尻を下げてドロシアを見れば、ドロシアも困った顔になった。

「そうでございますね。下手に断るとあとあと面倒になるところもあるでしょうから。……早いところ、奥様と一緒にお茶会に参加できる侍女を探さなくてはなりませんね。侍女が一緒ならまだ気が楽でしょうから。できれば古参貴族の令嬢の中から探したいものですが」

 古参貴族たちからのわたしへの風当たりが強いので、守るためにも古参貴族の侍女を迎えた方がいいらしい。だけど、古参貴族の令嬢でわたしの侍女になってくれる人はなかなかいないはずだ。

「そんな人いるかしら?」
「王妃様に相談しましょう。王妃様は陛下と前王陛下の考えに賛同なさっていますから、王妃様のご実家や親戚の中から誰かご紹介いただけると、とても心強いと思われます」
「それはちょっと、恐れ多いんじゃ……」
「何をおっしゃいますか。奥様はラザフォード公爵夫人ですよ。バレル王国では王妃様に次ぐご身分なのです。奥様の侍女に選ばれるのはとても名誉なことでございます。古参貴族にはそれもわからない愚か者が多いですが、正しく状況判断ができる方は喜んで手をあげますとも」
「そうなのかしら?」

 でも、わたしは近いうちに離縁することになるだろう。それでも仕えてくれるのだろうか。それとも、わたしがクリフ様と離縁した後は、ビアトリス様にそのまま仕えることになるから問題ないのだろうか。ちょっとこのあたりはよくわからない。

 ……一人でお茶会に参加するのは怖いし、余計なことを考えずに侍女を探してもらった方がいいわよね。

 ドロシアが今晩にでもクリフ様に陛下経由で王妃様に連絡をしてくださるように言ってくれるらしい。
 そして、お茶会の招待状を仕分けながら、にこりと微笑んだ。

「最初のお茶会はこちらにしましょう。王妃様が開催されるお茶会です。高位貴族が集まるので古参貴族が多いですが、王妃様が味方になってくださるはずなのでそれほど居心地が悪いものではないでしょう。むしろ、最初のお茶会で王妃様が奥様の味方であると周知させておけば、のちのち奥様への風当たりも柔らかくなると思われます」

 ドロシアが差し出した招待状を確認すると、お茶会の日付は七日後になっていた。

「公爵夫人として最初に参加するお茶会は王妃様主催のものにするという断り文句を使えば、七日後までのお茶会のお誘いはすべて断れますよ」
「なるほど、じゃあ招待状に返信していくわね」
「いえ、それはアガサに任せましょう。高位貴族は直筆でお手紙を書くものと、代筆させるものを分けなければなりません。直筆のお手紙は相手へ特別な敬意を表していると表現するものでもありますので、すべて直筆でお手紙を書くと、その特別性が損なわれます。ですので、お茶会のお断りは代筆で、サインだけ奥様がすればいいのです」

 そう言うものなのか。

「ドロシアがいてくれて本当に助かるわ」
「事前に大奥様から引き継ぎがあったとはいえ一年ですからね。大奥様の性格上、細かい部分はわたくしどもに任せればいいと判断されたと思いますので、慣れるまでは大変かと存じますが、できる限りのフォローはさせていただきます」

 ドロシアがアガサを呼んで、お断りする招待状の束を渡す。
 断り文句は王妃様のお茶会を優先させるという文言を使うように指示を出せば、アガサは慣れているのか、するすると手紙の返信を書きはじめた。公爵家のメイドは有能だ。

「では奥様、七日後までに侍女を見つけられるように急ぎましょう。王妃様がいらっしゃるとはいえ、味方は一人でも多い方がいいですからね」


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