君を愛せないと言われたので、夫が忘れた初恋令嬢を探します

狭山ひびき

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妨害 1

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 王妃様のお茶会のあとから、わたしの元に大量のお手紙が届くようになった。
 そのほとんどが真珠の購入についてで、あとはお茶会への招待状である。
 夜、クリフ様がわたし宛の手紙を確認しながら、あきれたような顔をした。

「現金なものだな。女性というものは欲しいものがあるとこうもあっさり手のひらを返すものなのか」

 寝室にはわたしとクリフ様の二人だけだ。
 少し前にクリフ様から「もう少し分厚いナイトドレスを着るように」と言われたので、わたしは白い木綿のナイトドレス姿である。
 不思議とこの格好になったら、クリフ様は寝る前にこうしておしゃべりする時間を作ってくれるようになった。よくわからないが、以前の格好はお気に召さなかったのだろう。

「女性は流行に敏感なので、これから流行るとわかっている真珠を手に入れたくて仕方がないのだと思います」

 これはセイディの受け売りだ。新興貴族は気に入らないが真珠は欲しい貴族令嬢や夫人が、プライドより実利を取ったのである。
 王妃様が目に見えてわたしの味方だと示したのも大きいという。わたしは気に入らなくても、王妃様の逆鱗には触れたくない。そういうことだ。

「しかしここですぐに君が甘い顔をしては侮られるのではないのか?」
「それはセイディも言っていました。なので、新興貴族と関わりのある家や、新興貴族に対して悪感情を抱いていないところから優遇する予定です」
「新興貴族を敵視していては真珠が手に入らないと思わせるわけか」

 くつくつとクリフ様が悪い顔で笑った。

「なかなか策士だな」
「セイディが考えてくれました」
「なるほど、王妃様の血縁らしい。あの方もあれで結構腹黒だからな。味方には優しいが、敵には容赦ない方だ」
「そうなんですか?」
「見た目で騙されない方がいい。あの弱々しそうな見た目もわざとだぞ。かなりしたたかな女性だ。ギルバートはそこも気に入っているらしいが」

 ギルバート陛下とイヴェット王妃様はとても仲がいいそうだ。だからこそ、ギルバート陛下が国の財政を上向かせようと頑張っているのに足を引っ張る一部の古参貴族たちが気に入らないという。

「そう言えば王妃様がビアトリス様を叱責していましたが、その、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫とは?」
「ビアトリス様やアストン侯爵家が、その、あまりいいことにならないのではないかと」

 クリフ様はきょとんとした。

「どうしてアナスタージアが気にするんだ? もともとアストン侯爵家は新興貴族蔑視の古参貴族代表のようなところだ。ギルバートは折を見て政治から遠ざけたいと狙っていたようだし、この機会に嬉々として潰しにかかるんじゃないか?」
「クリフ様はその……それでいいんでしょうか?」
「俺は君と結婚した新興貴族派だぞ? いいに決まっている」

 いや、そう言うことではなく……初恋相手の家が左遷されるかもしれないのに、クリフ様は気にしないのだろうかと思ったのだ。

 ……ビアトリス様が初恋相手だと忘れているから、気にならないのかしら?

 本音を言えば、わたしはビアトリス様があまり好きになれない。
 面と向かってあれだけ攻撃してきた人を好きになれるほどわたしは自虐趣味じゃないからだ。
 だけど、クリフ様の気持ちを考えると複雑だった。
 クリフ様が、並んでソファに座っていたわたしの手をきゅっと握った。

「俺と結婚したせいで、君へのあたりが強くなったと思う。真珠の流行で改善されればいいと願っているが油断はできない。君に対するあたりが強いアストン侯爵家など、とっとと社交界から追い出してやりたい気分だよ」
「そ、そうですか……」

 わたしは顔に熱が集まるのを感じながらうつむいた。
 クリフ様がそう言ってくださるのはとても嬉しい。嬉しいのだが、もし彼がビアトリス様が初恋相手であると思い出したら、どんな気持ちになるのだろうと考えると、手放しでは喜べない。

「それにしても、俺も確認したが、義父上が仕入れる真珠は粒がそろっていて綺麗だな」
「まだ研究途中だそうですがカンニガム大国では真珠の養殖をはじめたそうなんです。試行錯誤を重ねている段階なので養殖真珠はそれほどたくさんは取れないんですが、そのおかげで粒のそろったものが以前より安価に手に入るようになったんですよ」

 ちなみにその真珠の養殖にマクニール家の親戚が投資しているため、優先的に手に入るのだ。だからこそこちらにも回してもらえるのである。

「義父上もマクニール家の親戚も、本当に利に聡い」
「商人ですからね。でも、ラザフォード公爵家だってもともと領地の収益はかなりあったと聞きましたけど……」
「うちは鉱山があるからそれで潤っていただけだよ。鉱山資源は有限だから、いずれは困窮していたと思う。だからマクニール家と縁が結べたのはとても嬉しいし……それ以上に、君が嫁いできてくれて嬉しい」

 するりと指を絡めてクリフ様がとろりととろけるような笑みを浮かべた。
 まるで誘惑するような笑みにわたしの鼓動がざわつきはじめる。

「え、ええっと……」
「アナスタージアのストロベリーブロンドには真珠がよく似合うから、真珠が流行してくれるのは嬉しいな」
「そ、そうです、か……?」

 クリフ様の心には初恋女性への気持ちが残っているはずなのに、どうしてわたしに甘い言葉をささやくのだろう。
 もしかしたら愛されているのかと勘違いしそうになる。

「あ、あの、そろそろ遅い時間ですし、寝ませんか……?」

 このまま起きていたら、わたしは頭に血が上ってのぼせてしまいそうだ。

「そうだね」

 クリフ様がわたしの手を引いて立ち上がらせた。
 ベッドまでいざなわれて、横になるとまた手を繋がれる。

「アナスタージア、提案があるんだが」
「な、なんでしょうか?」

 クリフ様はころんとわたしの方を見て、照れたように笑った。

「今日から、眠るときに抱きしめさせてくれないだろうか」

 わたしは、自分の心臓が壊れるかと思った。

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