叔父一家に家を乗っ取られそうなので、今すぐ結婚したいんです!

狭山ひびき

文字の大きさ
2 / 27

オーレリアの婚活 1

しおりを挟む
 婚活すると決めたはいいものの。

(もう春なのよね)

 ヴァビロア国の社交シーズンは秋から春頃まで。一番盛り上がるのは晩秋から冬の次期で、春先になればパーティーの数もぐんと減って、急に閑散としてくる。

 それでもかろうじてパーティーを開いている家はあるだろうが、一足早く王都からサンプソン公爵領の伯爵家に帰ってきたため、オーレリアは現在王都から遠い場所にいる。ここから王都まで、馬車で数日かかるのだ。

 開催されるパーティーの数が少ないところに向けて、片道数日かけて王都へ通うのはあまりに効率が悪すぎる。

 領主のサンプソン公爵はとてもいい方で、王都にびっくりするほど大きな邸を有していて、領地の代官一家が王都へ行くときはその部屋を貸してくれるのだが、この時期に貸してくれとは言い難いし、何より家族が死んだ直後にパーティー三昧かと眉を顰められてしまうだろう。

 オーレリアの婚活は、はじめる前からつまずいてしまった。

「お嬢様、その……結婚相手は、身近な方からお探しになられたらいかがでしょう」

 見かねたドーラが助言してくれるが、オーレリアには親しくしている男性は誰もいない。ラルフ以外。

「身近ってことは、この領地の中でってことよね? でも、結婚してくださいとお願いして結婚してくれそうな人に心当たりはないわよ。どうしようかしら」

「…………お可哀そうなラルフ様」

 ドーラがぼそりと何かを言ったが、真剣に考えはじめたオーレリアの耳には入らなかった。

 急がなくちゃ急がなくちゃとそればかり考えるからか、焦りしか生まれてこない。

 ドーラが、婚活をするのでもやつれていては魅力が半減しますと言ったので、一生懸命目の前の昼食を口に運びながら、オーレリアはうーむと唸る。

 そんなオーレリアに、ドーラとケネスが顔を見合わせてため息を吐きだした。

「お嬢様、差し出がましいようですが、お嬢様の周りにはすでに、お嬢様の伴侶としてふさわしい方がいらっしゃるのではないでしょうか?」

 ケネスが遠慮がちに口を挟んで、オーレリアはごくんと咀嚼していたパンを飲みこんだ。

「ふさわしい方……?」

「ええ。ほら、お嬢様にいつも優しく接してくださるあの方でございますよ」

(あの方……?)

 いったい誰のことを言っているのだろうかとオーレリアは首をひねって、それからハッとした。

「ま、まさか、ギルバート様のこと⁉」

「「え?」」

「いや、確かにお優しい方だけど、でもでも、領主様のご子息となんていくらなんでも恐れ多いと言うか……!」

 サンプソン公爵には二人の息子がいて、長男が今年二十一になるクリス・サンプソン。そして次男がオーレリアと同じ年のギルバートだった。

 ギルバートは公爵令息なのにとても気さくで、オーレリアにいつも優しくしてくれる。快活な兄クリスと違ってギルバートは穏やかでおとなしい性格をしていて、とても紳士的だ。ちなみに、ものすごくモテる。

「ああ、でも、お相手がギルバート様だったら、絶対にサンプソン公爵もこの家を叔父様に渡したりしないわよね?」

 オーレリアにとって雲の上の存在すぎて想像だにしていなかったが、これは悪い選択ではない。

 すっごくモテるギルバートはなぜかまだ誰とも婚約していないから、オーレリアにだって少しくらいはチャンスが残っているかもしれない。

「ええっと…………お嬢様?」

 ドーラがとても困った顔をしていたが、オーレリアは食べかけのパンを口の中に押し込んで、もぐもぐと咀嚼すると、ミルクで胃に流し込んだ。

「こうしてはいられないわ。ギルバート様に求婚するなら、こんなボロボロな姿じゃ勝ち目はないもの。わたし、今からお風呂に入ってボロボロなお肌を整えて来るわ!」

「……えー……」

 途方に暮れたドーラの肩を、ケネスがポンと叩いた。

「結果はどうあれ、前を向いてくださったようなのでよしとしよう。……ラルフ様は気の毒だが」

 そんな二人の会話が耳に入っていないオーレリアは、近くのメイドを捕まえて、バスルームにお湯を用意してもらうように頼む。

(お肌にいいらしいから、料理長にちょっぴり蜂蜜をもらって、蜂蜜パックをしよっと)

 できるだけ綺麗に整えて、ギルバートに結婚してもらうのだ。

(絶対に叔父様の好きにはさせないから! お父様お母様お兄様、天国から見守っていてね!)

 ボロボロになっていた肌を整えて、髪を整えて、喪服を脱いで、オーレリアは前を向く。

 この家を守るために、結婚するのだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜

学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜

織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。 侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。 学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました

ミズメ
恋愛
 感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。  これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。  とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?  重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。 ○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます

顔も知らない旦那様に間違えて手紙を送ったら、溺愛が返ってきました

ラム猫
恋愛
 セシリアは、政略結婚でアシュレイ・ハンベルク侯爵に嫁いで三年になる。しかし夫であるアシュレイは稀代の軍略家として戦争で前線に立ち続けており、二人は一度も顔を合わせたことがなかった。セシリアは孤独な日々を送り、周囲からは「忘れられた花嫁」として扱われていた。  ある日、セシリアは親友宛てに夫への不満と愚痴を書き連ねた手紙を、誤ってアシュレイ侯爵本人宛てで送ってしまう。とんでもない過ちを犯したと震えるセシリアの元へ、数週間後、夫から返信が届いた。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。 ※全部で四話になります。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

公爵さま、私が本物です!

水川サキ
恋愛
将来結婚しよう、と約束したナスカ伯爵家の令嬢フローラとアストリウス公爵家の若き当主セオドア。 しかし、父である伯爵は後妻の娘であるマギーを公爵家に嫁がせたいあまり、フローラと入れ替えさせる。 フローラはマギーとなり、呪術師によって自分の本当の名を口にできなくなる。 マギーとなったフローラは使用人の姿で屋根裏部屋に閉じ込められ、フローラになったマギーは美しいドレス姿で公爵家に嫁ぐ。 フローラは胸中で必死に訴える。 「お願い、気づいて! 公爵さま、私が本物のフローラです!」 ※設定ゆるゆるご都合主義

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...