7 / 55
お猫様はどこに消えた!?
7
しおりを挟む
「それで、何の用ですかね?」
国王オルフェリウスに呼び出されたヴィクトールは、相手が一国の国王だというのに、まったく敬う様子もなくソファで紅茶をすすっていた。
国王と情報屋――、身分の差がありすぎて、本来ならば口を利くことすらできない相手なのだが、オルフェリウスとヴィクトールは旧知の仲である。
というか、過去にオルフェリウスに依頼された仕事で、うっかり王家の機密情報まで握ってしまったヴィクトールは、それからことあるごとに国王に呼び出されるようになった。
迂闊に手を出して機密情報を漏らされては困るが、しかし野放しにしておくこともできないから、監視を兼ねて仕事を依頼している――オルフェリウスにしてみれば、そんなところだろうか。
しかし、ヴィクトールにしてみればどうだっていい。
国王だろうが誰だろうが、自分の仕事の依頼をしてくる相手はすべて「客」だ。贔屓をするつもりはない。
「僕は今仕事を抱えていて忙しいんで、手短にお願いしますよ」
「では手短に言うよ。猫を捕まえてこい」
「……は?」
オルフェリウスの執務室の壁際には、軍人のように背筋を伸ばした男が立っている。第一秘書官のオーゲンという名前の男だが、彼は見た目通り腕の立つ男だと言うことをヴィクトールは知っていた。
(無視して帰ってもいいけど……、どうせ止められるんだろうなぁ)
オーゲンに立ちふさがられると、部屋から逃げ出すのも容易ではない。
ヴィクトールは仕方なく話を続けた。
「猫なんてどこにでもいるでしょう。適当に、その辺の野良猫でも捕まえくればいいでしょうに」
今朝のスノウの話といい、今日はやけに猫に縁のある日だ。
「どこにでもいる猫ではないのだよ。王太后が飼っているフランソワーズという名前の猫だ」
「ああ、青い目に淡いブラウンの毛並みの猫ですか」
「……本当に、何でも知っているのだな、お前は」
どうでもいい情報――と言いたそうな視線を向けられても、ヴィクトールは飄々としていた。
オルフェリウスは気を取り直してコホンと咳ばらいをすると、オーゲンを呼んだ。
呼ばれた秘書官は、黙って机の上に金貨の入った袋をおく。
「これが報酬だ」
「これはこれは……、猫一匹にずいぶんと気前がいいことですねぇ」
「お前も母上の面倒さはわかっているだろう」
なるほど、確かに。
この報酬は、王太后のヒステリーを回避するための金と言うことか。そして前払いで渡すと言うことは、成功しか受け付けないということ。
「何が何でも探してくれ。必要なものがあるのなら、言ってくれれば用意しよう。急いでくれたまえ」
(今抱えている仕事も終わってないんだけど……。断られるってことは考えてないんだろうなぁ、この人は)
ヴィクトールはため息をついて、金貨の入った袋を手に取る。
この中身だけで、一般市民が一生食べて行けるだけの金額だった。
ヴィクトールは金貨を持って立ち上がると、部屋を出て行く前にこうつけ加えた。
「言っておきますけど、探した猫が死んでいても知りませんよ」
オルフェリウスはその可能性も考えていたらしく、小さく微笑んだ。
「わかっている。その時はその時で、別の方法を考えてあるから問題ないのだよ」
だったら探さずにはじめからその方法で王太后を黙らせろよ――、ヴィクトールはそう言いたかったが、一度だけ遠くから見たことのある王太后の顔を思い出して、口に出すのはやめておこうと思ったのだった。
国王オルフェリウスに呼び出されたヴィクトールは、相手が一国の国王だというのに、まったく敬う様子もなくソファで紅茶をすすっていた。
国王と情報屋――、身分の差がありすぎて、本来ならば口を利くことすらできない相手なのだが、オルフェリウスとヴィクトールは旧知の仲である。
というか、過去にオルフェリウスに依頼された仕事で、うっかり王家の機密情報まで握ってしまったヴィクトールは、それからことあるごとに国王に呼び出されるようになった。
迂闊に手を出して機密情報を漏らされては困るが、しかし野放しにしておくこともできないから、監視を兼ねて仕事を依頼している――オルフェリウスにしてみれば、そんなところだろうか。
しかし、ヴィクトールにしてみればどうだっていい。
国王だろうが誰だろうが、自分の仕事の依頼をしてくる相手はすべて「客」だ。贔屓をするつもりはない。
「僕は今仕事を抱えていて忙しいんで、手短にお願いしますよ」
「では手短に言うよ。猫を捕まえてこい」
「……は?」
オルフェリウスの執務室の壁際には、軍人のように背筋を伸ばした男が立っている。第一秘書官のオーゲンという名前の男だが、彼は見た目通り腕の立つ男だと言うことをヴィクトールは知っていた。
(無視して帰ってもいいけど……、どうせ止められるんだろうなぁ)
オーゲンに立ちふさがられると、部屋から逃げ出すのも容易ではない。
ヴィクトールは仕方なく話を続けた。
「猫なんてどこにでもいるでしょう。適当に、その辺の野良猫でも捕まえくればいいでしょうに」
今朝のスノウの話といい、今日はやけに猫に縁のある日だ。
「どこにでもいる猫ではないのだよ。王太后が飼っているフランソワーズという名前の猫だ」
「ああ、青い目に淡いブラウンの毛並みの猫ですか」
「……本当に、何でも知っているのだな、お前は」
どうでもいい情報――と言いたそうな視線を向けられても、ヴィクトールは飄々としていた。
オルフェリウスは気を取り直してコホンと咳ばらいをすると、オーゲンを呼んだ。
呼ばれた秘書官は、黙って机の上に金貨の入った袋をおく。
「これが報酬だ」
「これはこれは……、猫一匹にずいぶんと気前がいいことですねぇ」
「お前も母上の面倒さはわかっているだろう」
なるほど、確かに。
この報酬は、王太后のヒステリーを回避するための金と言うことか。そして前払いで渡すと言うことは、成功しか受け付けないということ。
「何が何でも探してくれ。必要なものがあるのなら、言ってくれれば用意しよう。急いでくれたまえ」
(今抱えている仕事も終わってないんだけど……。断られるってことは考えてないんだろうなぁ、この人は)
ヴィクトールはため息をついて、金貨の入った袋を手に取る。
この中身だけで、一般市民が一生食べて行けるだけの金額だった。
ヴィクトールは金貨を持って立ち上がると、部屋を出て行く前にこうつけ加えた。
「言っておきますけど、探した猫が死んでいても知りませんよ」
オルフェリウスはその可能性も考えていたらしく、小さく微笑んだ。
「わかっている。その時はその時で、別の方法を考えてあるから問題ないのだよ」
だったら探さずにはじめからその方法で王太后を黙らせろよ――、ヴィクトールはそう言いたかったが、一度だけ遠くから見たことのある王太后の顔を思い出して、口に出すのはやめておこうと思ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる