マッドハッターの気ままな事件簿~ドSな帽子屋は一人の少女を溺愛する~

狭山ひびき

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お猫様はどこに消えた!?

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「それで、何の用ですかね?」

 国王オルフェリウスに呼び出されたヴィクトールは、相手が一国の国王だというのに、まったく敬う様子もなくソファで紅茶をすすっていた。

 国王と情報屋――、身分の差がありすぎて、本来ならば口を利くことすらできない相手なのだが、オルフェリウスとヴィクトールは旧知の仲である。

 というか、過去にオルフェリウスに依頼された仕事で、うっかり王家の機密情報まで握ってしまったヴィクトールは、それからことあるごとに国王に呼び出されるようになった。

 迂闊に手を出して機密情報を漏らされては困るが、しかし野放しにしておくこともできないから、監視を兼ねて仕事を依頼している――オルフェリウスにしてみれば、そんなところだろうか。

 しかし、ヴィクトールにしてみればどうだっていい。

 国王だろうが誰だろうが、自分の仕事の依頼をしてくる相手はすべて「客」だ。贔屓ひいきをするつもりはない。

「僕は今仕事を抱えていて忙しいんで、手短にお願いしますよ」

「では手短に言うよ。猫を捕まえてこい」

「……は?」

 オルフェリウスの執務室の壁際には、軍人のように背筋を伸ばした男が立っている。第一秘書官のオーゲンという名前の男だが、彼は見た目通り腕の立つ男だと言うことをヴィクトールは知っていた。

(無視して帰ってもいいけど……、どうせ止められるんだろうなぁ)

 オーゲンに立ちふさがられると、部屋から逃げ出すのも容易ではない。

 ヴィクトールは仕方なく話を続けた。

「猫なんてどこにでもいるでしょう。適当に、その辺の野良猫でも捕まえくればいいでしょうに」

 今朝のスノウの話といい、今日はやけに猫に縁のある日だ。

「どこにでもいる猫ではないのだよ。王太后が飼っているフランソワーズという名前の猫だ」

「ああ、青い目に淡いブラウンの毛並みの猫ですか」

「……本当に、何でも知っているのだな、お前は」

 どうでもいい情報――と言いたそうな視線を向けられても、ヴィクトールは飄々ひょうひょうとしていた。

 オルフェリウスは気を取り直してコホンと咳ばらいをすると、オーゲンを呼んだ。

 呼ばれた秘書官は、黙って机の上に金貨の入った袋をおく。

「これが報酬だ」

「これはこれは……、猫一匹にずいぶんと気前がいいことですねぇ」

「お前も母上の面倒さはわかっているだろう」

 なるほど、確かに。

 この報酬は、王太后のヒステリーを回避するための金と言うことか。そして前払いで渡すと言うことは、成功しか受け付けないということ。

「何が何でも探してくれ。必要なものがあるのなら、言ってくれれば用意しよう。急いでくれたまえ」

(今抱えている仕事も終わってないんだけど……。断られるってことは考えてないんだろうなぁ、この人は)

 ヴィクトールはため息をついて、金貨の入った袋を手に取る。

 この中身だけで、一般市民が一生食べて行けるだけの金額だった。

 ヴィクトールは金貨を持って立ち上がると、部屋を出て行く前にこうつけ加えた。

「言っておきますけど、探した猫が死んでいても知りませんよ」

 オルフェリウスはその可能性も考えていたらしく、小さく微笑んだ。

「わかっている。その時はその時で、別の方法を考えてあるから問題ないのだよ」

 だったら探さずにはじめからその方法で王太后を黙らせろよ――、ヴィクトールはそう言いたかったが、一度だけ遠くから見たことのある王太后の顔を思い出して、口に出すのはやめておこうと思ったのだった。
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