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第一部 三回目の人生
信用できるのは、大嫌いだった男 1
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ラロからファウストお兄様に毒が盛られているかもしれないと聞かされてから、わたしはずっと考えていた。
ラロは、この情報はわたしの好きに扱えばいいと言っている。
たぶんだけど、ファウストお兄様がわたしのために離宮を修繕したり、予算の横領問題を調査しようと動いてくれたのが原因だろう。ラロの中でお兄様の株が上がったからこそ、わたしに放置しろとは言わなかったのだ。
わたしも、一度も会ったことのないお兄様が、どうやらお父様とお母様とは違うとなんとなくわかっている。
もちろん、それだけで信じられるほどわたしは心が清らかじゃないけど、クリストバルもお兄様を信頼しているし、それなら会ったことのないお兄様を少しくらいは信じてもいいのかなって気にはなっていた。
もしこれが、お父様に毒が盛られていると聞いたら、わたしは知らんぷりを決め込んだだろう。
親子の情なんてこれっぽっちもない、むしろ恨みこそしているお父様がどうなろうとわたしの知ったことではないからだ。
だけど、お兄様は……悩む。
わたし自身の身の安全を考えるなら、この情報はわたしの胸の中にとどめておいた方がいい。
下手に誰かに伝えて、わたしがお兄様の命を狙っている張本人じゃないのかって疑われでもしたら大変だもの。
サモラ王国で嫌われ者である魔女のわたしは、簡単に冤罪にかけられる。
それは二度目の人生で痛いほど理解したことだ。
わたしはもう死にたくない。
三度目の人生は、今度こそ幸せに生きたいのだ。
だから、何も知らない顔をして、エミディオに嫌がらせという名の報復をして、ラロと共に西に逃げてマダリアード帝国で第二の人生を送るのが、わたしの中で一番安全かつ理想とする未来のはずだ。
ここで下手にファウストお兄様に毒が盛られているなんて漏らしたら、その未来が脅かされるかもしれない。
……だけど、もしこれでお兄様が死んだら、わたしのせいになるのかしら。
わたしは死にたくない。
だけどそのためにファウストお兄様を犠牲にしていいのかしら。
ラロは、ファウストお兄様が狙われているのは、王位継承問題が関係しているだろうと言っていた。
逆に言えば、それ以外でお兄様が狙われる理由がないのよね。
サモラ王国はどこかの国と戦争をしているわけじゃないから、他国の暗殺者が潜り込んでいるとは考えにくいし、もし暗殺者なら、死なない量の毒を盛り続けて自然死に見せかけるなんてまどろっこしいことはしないだろう。
だったら、国内の誰かが犯人と考えるのが最も自然で、そうだとしたら、王位継承問題以外に、お兄様を害する理由がない。
……ラロは、お兄様が毒を盛られているのに気づいているみたいに言っていたわね。
だから故意的に食事の量を減らしているのだろうと推測しているみたいだった。
でも、クリストバルはお兄様が毒を盛られていることを知らないみたいだったから、きっとお兄様が誰にも言わずに伏せているのだろうと思われる。
だけど、なんとなくだけど、お兄様がクリストバルを犯人だと思っているとは思えない。
もしそうなら、わたしが作った得体のしれない栄養薬をクリストバルから渡されて口にするはずないもの。
そしてクリストバルも、お兄様の体調を回復させようと動くはずがない。
……ということは、よ。消去法で、犯人はクベード侯爵家もしくは関係する誰かってことになるわよね。
ラロも、クベード侯爵家が怪しいって考えているんだわ。
だから、わたしにエミディオはもう好きじゃないのかって確認したのよ。わたしが傷つくかもしれないと思って。
……ラロは、口は悪いけど優しいのよね。
でも大丈夫。
相手がエミディオ――クベード侯爵家なら、わたしが傷つくことは何一つないわ。
……で、この情報、どうしようかしら。
昨日の夜からずっと考えているけど、朝になってもまだ答えが出ない。
おかげで刺繍のお勉強中に三回も指を針で刺しちゃって、見かねた公爵夫人が「もうやめて休憩にしましょう」って急遽マナー教育という名のティータイムに変わったわ。面目ない……。
そして午後。
クリストバルと一緒に、馬車で隣の町に向かいながら、わたしはようやく一つの結論に至った。
この情報をどうするかは、何が正解かはわかんないけど、クリストバルには相談してみよう。
なんだかんだ言って、三度目の人生、ラロを除けばクリストバルが一番信用できるのだ。
ラロは、この情報はわたしの好きに扱えばいいと言っている。
たぶんだけど、ファウストお兄様がわたしのために離宮を修繕したり、予算の横領問題を調査しようと動いてくれたのが原因だろう。ラロの中でお兄様の株が上がったからこそ、わたしに放置しろとは言わなかったのだ。
わたしも、一度も会ったことのないお兄様が、どうやらお父様とお母様とは違うとなんとなくわかっている。
もちろん、それだけで信じられるほどわたしは心が清らかじゃないけど、クリストバルもお兄様を信頼しているし、それなら会ったことのないお兄様を少しくらいは信じてもいいのかなって気にはなっていた。
もしこれが、お父様に毒が盛られていると聞いたら、わたしは知らんぷりを決め込んだだろう。
親子の情なんてこれっぽっちもない、むしろ恨みこそしているお父様がどうなろうとわたしの知ったことではないからだ。
だけど、お兄様は……悩む。
わたし自身の身の安全を考えるなら、この情報はわたしの胸の中にとどめておいた方がいい。
下手に誰かに伝えて、わたしがお兄様の命を狙っている張本人じゃないのかって疑われでもしたら大変だもの。
サモラ王国で嫌われ者である魔女のわたしは、簡単に冤罪にかけられる。
それは二度目の人生で痛いほど理解したことだ。
わたしはもう死にたくない。
三度目の人生は、今度こそ幸せに生きたいのだ。
だから、何も知らない顔をして、エミディオに嫌がらせという名の報復をして、ラロと共に西に逃げてマダリアード帝国で第二の人生を送るのが、わたしの中で一番安全かつ理想とする未来のはずだ。
ここで下手にファウストお兄様に毒が盛られているなんて漏らしたら、その未来が脅かされるかもしれない。
……だけど、もしこれでお兄様が死んだら、わたしのせいになるのかしら。
わたしは死にたくない。
だけどそのためにファウストお兄様を犠牲にしていいのかしら。
ラロは、ファウストお兄様が狙われているのは、王位継承問題が関係しているだろうと言っていた。
逆に言えば、それ以外でお兄様が狙われる理由がないのよね。
サモラ王国はどこかの国と戦争をしているわけじゃないから、他国の暗殺者が潜り込んでいるとは考えにくいし、もし暗殺者なら、死なない量の毒を盛り続けて自然死に見せかけるなんてまどろっこしいことはしないだろう。
だったら、国内の誰かが犯人と考えるのが最も自然で、そうだとしたら、王位継承問題以外に、お兄様を害する理由がない。
……ラロは、お兄様が毒を盛られているのに気づいているみたいに言っていたわね。
だから故意的に食事の量を減らしているのだろうと推測しているみたいだった。
でも、クリストバルはお兄様が毒を盛られていることを知らないみたいだったから、きっとお兄様が誰にも言わずに伏せているのだろうと思われる。
だけど、なんとなくだけど、お兄様がクリストバルを犯人だと思っているとは思えない。
もしそうなら、わたしが作った得体のしれない栄養薬をクリストバルから渡されて口にするはずないもの。
そしてクリストバルも、お兄様の体調を回復させようと動くはずがない。
……ということは、よ。消去法で、犯人はクベード侯爵家もしくは関係する誰かってことになるわよね。
ラロも、クベード侯爵家が怪しいって考えているんだわ。
だから、わたしにエミディオはもう好きじゃないのかって確認したのよ。わたしが傷つくかもしれないと思って。
……ラロは、口は悪いけど優しいのよね。
でも大丈夫。
相手がエミディオ――クベード侯爵家なら、わたしが傷つくことは何一つないわ。
……で、この情報、どうしようかしら。
昨日の夜からずっと考えているけど、朝になってもまだ答えが出ない。
おかげで刺繍のお勉強中に三回も指を針で刺しちゃって、見かねた公爵夫人が「もうやめて休憩にしましょう」って急遽マナー教育という名のティータイムに変わったわ。面目ない……。
そして午後。
クリストバルと一緒に、馬車で隣の町に向かいながら、わたしはようやく一つの結論に至った。
この情報をどうするかは、何が正解かはわかんないけど、クリストバルには相談してみよう。
なんだかんだ言って、三度目の人生、ラロを除けばクリストバルが一番信用できるのだ。
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