爵位目当ての求婚はお断りします!~庶民育ち令嬢と俺様求婚者のどたばた事件~

狭山ひびき

文字の大きさ
19 / 60
祭りの夜

7

しおりを挟む
 その夜、オリバーに馬車を出してもらって、エリザベスたちは町へ向かった。

 キャシーとオリバー、セルジオ伯爵と助手のフリップもそれぞれ馬車で町へと向かうらしい。

 年に一度の、そしてこのあたりの町で唯一の祭りということもあって、エリザベスが町に到着した時はすでに町中が盛り上がっていた。

 あちこちに松明たいまつがたかれ、太鼓や笛の音が響いている。町を歩く人のほとんどが顔半分を仮面で覆っていた。

 エリザベスとレオナードも、オリバーが用意した仮面を装着して町を歩く。

 焼いた肉や酒、揚げ菓子などの屋台が町中に並んでおり、エリザベスは夕食を腹半分くらいにしておいてよかったと思った。

「あんまりうろうろしないでくれ。これだけの人だ、はぐれたら見つけにくい」

 きょろきょろとよそ見をしながら歩くエリザベスの手を握って、レオナードが注意した。

 エリザベスは、勝手に触れるなと手を振りほどこうと思ったが、確かに言われた通りはぐれると大変だと思いなおし、素直に手を握られておくことにした。

「ねえ、あれ! あれ美味しそうじゃない?」

 腸詰を焼いたものをパンにはさんで売っている店を発見して、エリザベスはレオナードの手をぐいぐいと引っ張った。

 レオナードの邸でも、オリバーの邸でも出てこないが、エリザベスは腸詰が大好物なのだ。

「買ってやるから、こら、急ぐな」

 レオナードとともに屋台に並び、腸詰を買ってもらったエリザベスは、嬉しそうにそれにかぶりつく。

 レオナードは別の屋台で酒を購入して、二人で奥の広場に向けて歩いた。

 奥の広場では大きな炎がたかれて、それを囲んで踊っているらしい。

 社交ダンスはできないが、リズムに合わせて飛んだり跳ねたりする踊りは大好きだ。シスターにははしたないと怒られたが、修道院でも友達とともに手を叩いて踊って遊んだ。

「ちょっと踊ってくる!」

 エリザベスは広場に到着すると、ぱっとレオナードの手を離して踊りの輪に加わった。

「あ、こら!」

 レオナードが焦ったように声をあげるが、エリザベスは知らん顔で、手を叩き、足を跳ね上げながらくるくると踊り出す。

 ドンドンという太鼓の音に合わせてくるりくるりと回って移動すれば、どんどんレオナードの姿が遠ざかっていった。

 そんなエリザベスを、慌てたように追いかけてくるレオナードが見えて、エリザベスはおかしくなる。
炎の周りをくるくる回っているだけなのだから、いずれは元の位置に戻るのに、おかしな人。

 そうして、踊りながら動くたびに追いかけてくるレオナードの姿を見ながら、エリザベスが一周回り終わると、ぱっとその手を取られて踊りの輪から引きずり戻された。

「まったく君は! 子供じゃないんだから!」

「あら、子供じゃないから踊るのよ」

「そうじゃない! この踊りが何なのかわかっているのか?」

 レオナードはぷりぷり怒りながら、エリザベスの腕を引き、踊りの輪から遠ざけた。

「この踊りは、町の未婚のもの同士がパートナーを見つけるための踊りだぞ!」

 エリザベスはきょとんとして、なるほどだから若い人たちばかりなのかと納得した。

 しかしレオナードの怒りは収まらないらしく、くどくどと説教を続けた。

「俺がすぐに君を連れ出したからよかったものの、あのままだったら君の周りには求婚者が群がっていたぞ! 君のパートナーはこの俺なんだ。俺以外のパートナーを見つけてどうする!」

 レオナードはこのままエリザベスを広間に近いところにいさせると危険と踏んだのか、どんどんと広間とは反対方向へ歩いて行った。

 だが――



 きゃあああああ―――!



 突然、どこからか金切り声が聞こえてきて、二人は足を止めた。

 エリザベスとレオナードは顔を見合わせ、声のする方へと向かってみる。それは、奇しくも先ほどエリザベスが踊っていた広間だった。

「何があった?」

 レオナードは近くにいた人を捕まえて訊いた。

 すると彼は震える手で広間を指して、こう答えた。

「人が、人が死んだんだ……」

 エリザベスは息を呑んだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます

天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。 王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。 影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。 私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

処理中です...