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消えた二人目の遺体
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町に降りると、エリザベスはレオナードと手をつないで歩いた。
レオナードがはぐれるといけないからと言うので、仕方なくである。
町の中は、祭りの日にあんな事件があったというのが嘘のように穏やかだった。
エリザベスは、昼前に食べた美味しかった焼き菓子をレオナードに買ってもらってご満悦だった。アーモンドのほかに、クルミやカシューナッツなどほかの種類も買ったので、食べ比べてみよう。
それからエリザベスたちは、休憩がてら、町の小さなカフェに足を向けた。
エリザベスはローズティーを、レオナードは珈琲を頼んで、それらが出てくるのを窓際の席に座って待っていた時のことだった。
「そういやぁ、聞いたか? ガストンの死体が盗まれたんだってよ」
「はあ? そんなもん盗んでどうするんだよ」
「知らねぇよ。でも、うちの親父が、ガストンとこの親父が死んだ後まで恥をさらしやがってと愚痴をこぼしてるのを聞いたって言うから本当だろうぜ」
ちょうど、エリザベスとレオナードの二つ隣に座っている二人の男連れがそんなことを言っているのが耳に入っていた。
エリザベスは、飲み物を待つ間特にすることもないので、そっと聞き耳を立ててみた。
「しかし、ガストンとこの親父もひでぇよな。息子が死んだって言うのに、泣きもしない」
「働きもしないで飲んだくれてばかりだったんだ、仕方がないだろう。よく怒鳴り合いの喧嘩もしてたしなぁ。むしろ、ガストンが死んで一番清々してるのは、ガストンの親父じゃないのか?」
「ガストンの母親も、あいつのせいで出て行ったって言うからなぁ」
「案外、酒の飲みすぎで逝ったのかもな。あの夜もだいぶ酔っていただろ?」
「ああ、酒を片手に広場でぼーっとしていたな」
「ま、あいつが死んで悲しむやつは、この町には誰もいないだろうぜ」
男たちはそう言って、珈琲を飲み干すと店を出て行った。
(ガストンって、あの夜に死んじゃった人かしら?)
話を聞く限り、どうやらそうらしい。彼らによれば、相当の嫌われ者だったようだ。
エリザベスたちの手元にローズティーと珈琲が運ばれてくると、レオナードはストレートのままカップに口をつけた。
「ずいぶん真剣に聞き耳を立てていたね」
どうやらレオナードには盗み聞きしていたのがばれていたらしい。
恥ずかしくなってうつむくと、エリザベスはもごもごと言い訳した。
「ずいぶんと嫌われていたんだなって驚いちゃって……」
「ああ、飲んだくれて働きもしないんだってね」
なんだ。レオナードだって盗み聞きしていたのだ。エリザベスは、「あんたも聞いていたんじゃないの」と口を尖らせる。
「ちょっと気になったからね」
「わたしだって、ちょっと気になっただけよ!」
エリザベスがムキになって言うと、レオナードは小さく笑って、茶請けに出てきたカラメリゼされたナッツをエリザベスに差し出した。
「機嫌を悪くしたなら謝るよ。ほら、俺のナッツもあげるから」
食べ物で釣られるようでエリザベスは腹立たしかったが、甘いナッツは好きなので、素直に受け取っておくことにした。
そして彼女たちがカフェを出た、その時だった。
「大尉! こんなところにいらしたんですか!」
野太い声が聞こえてきて、エリザベスたちはびっくりして振り返った。
振り返った先には、こちらに向けて走ってきているボナー警部の姿があった。
レオナードがはぐれるといけないからと言うので、仕方なくである。
町の中は、祭りの日にあんな事件があったというのが嘘のように穏やかだった。
エリザベスは、昼前に食べた美味しかった焼き菓子をレオナードに買ってもらってご満悦だった。アーモンドのほかに、クルミやカシューナッツなどほかの種類も買ったので、食べ比べてみよう。
それからエリザベスたちは、休憩がてら、町の小さなカフェに足を向けた。
エリザベスはローズティーを、レオナードは珈琲を頼んで、それらが出てくるのを窓際の席に座って待っていた時のことだった。
「そういやぁ、聞いたか? ガストンの死体が盗まれたんだってよ」
「はあ? そんなもん盗んでどうするんだよ」
「知らねぇよ。でも、うちの親父が、ガストンとこの親父が死んだ後まで恥をさらしやがってと愚痴をこぼしてるのを聞いたって言うから本当だろうぜ」
ちょうど、エリザベスとレオナードの二つ隣に座っている二人の男連れがそんなことを言っているのが耳に入っていた。
エリザベスは、飲み物を待つ間特にすることもないので、そっと聞き耳を立ててみた。
「しかし、ガストンとこの親父もひでぇよな。息子が死んだって言うのに、泣きもしない」
「働きもしないで飲んだくれてばかりだったんだ、仕方がないだろう。よく怒鳴り合いの喧嘩もしてたしなぁ。むしろ、ガストンが死んで一番清々してるのは、ガストンの親父じゃないのか?」
「ガストンの母親も、あいつのせいで出て行ったって言うからなぁ」
「案外、酒の飲みすぎで逝ったのかもな。あの夜もだいぶ酔っていただろ?」
「ああ、酒を片手に広場でぼーっとしていたな」
「ま、あいつが死んで悲しむやつは、この町には誰もいないだろうぜ」
男たちはそう言って、珈琲を飲み干すと店を出て行った。
(ガストンって、あの夜に死んじゃった人かしら?)
話を聞く限り、どうやらそうらしい。彼らによれば、相当の嫌われ者だったようだ。
エリザベスたちの手元にローズティーと珈琲が運ばれてくると、レオナードはストレートのままカップに口をつけた。
「ずいぶん真剣に聞き耳を立てていたね」
どうやらレオナードには盗み聞きしていたのがばれていたらしい。
恥ずかしくなってうつむくと、エリザベスはもごもごと言い訳した。
「ずいぶんと嫌われていたんだなって驚いちゃって……」
「ああ、飲んだくれて働きもしないんだってね」
なんだ。レオナードだって盗み聞きしていたのだ。エリザベスは、「あんたも聞いていたんじゃないの」と口を尖らせる。
「ちょっと気になったからね」
「わたしだって、ちょっと気になっただけよ!」
エリザベスがムキになって言うと、レオナードは小さく笑って、茶請けに出てきたカラメリゼされたナッツをエリザベスに差し出した。
「機嫌を悪くしたなら謝るよ。ほら、俺のナッツもあげるから」
食べ物で釣られるようでエリザベスは腹立たしかったが、甘いナッツは好きなので、素直に受け取っておくことにした。
そして彼女たちがカフェを出た、その時だった。
「大尉! こんなところにいらしたんですか!」
野太い声が聞こえてきて、エリザベスたちはびっくりして振り返った。
振り返った先には、こちらに向けて走ってきているボナー警部の姿があった。
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