王子にゴミのように捨てられて失意のあまり命を絶とうとしたら、月の神様に助けられて溺愛されました

狭山ひびき

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雪の女王からの招待状

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 三日後、サーシャロッドとエレノア、そしてリーファとラーファオの四人は、雪の妖精たちが暮らすノーウィン山の麓に向けて出立した。

 サーシャロッドが「車」と言った代物は、エレノアの想像する馬車とは似て非なるものだった。

 車部分の作りは馬車によく似ている。だが、車を引くのは馬ではなく、馬によく似ているがエレノアがはじめて見る動物だ。背中に真っ白い羽を持った、毛並みの美しい白馬である。飛翼馬だとサーシャロッドは言った。なんと、空が飛べるそうだ。

 サーシャロッドたちが馬車ならぬ飛翼馬車に乗り込むと、車は静かに動き出し、ばさりという大きな音とともに宙に浮かぶ。

 エレノアは馬車の窓から下を覗き込んで、瞳を輝かせた。

(すごい! 空を飛んでる……!)

 以前、空飛ぶ木馬の暴走で一度空を飛んだことのあるエレノアだが、あの頃は恐怖で木馬にしがみついていることしかできず、空からの景色を堪能する暇はまったくなかった。

「あまり下を見ていると酔うぞ」

 エレノアはしばらく外の景色を堪能していたが、サーシャロッドに呼ばれて素直に姿勢を正す。

 すると、目の前のラーファオがとても大きな荷物を持っているのに気がついて、エレノアは小さく首をひねった。

 予定では二拍で帰るはずなので、それほど大きい荷物は必要ないと思うのだが。

「これは全部防寒具なんですよ」

 エレノアの視線に気がついたのか、リーファがあきれたように言った。

「ラーファオったら寒いのが本当に苦手で。こんなにたくさん持ってきても、全部は着られないのに」

「大丈夫だ、重ねて着る。リーファのも持って来たよ」

 そう言って長いマフラーを取り出したラーファオは、リーファの首にぐるぐる巻きに巻きつけた。

「もう……、まだ到着していないじゃない」

 マフラーを巻き付けられたリーファが、ぺしりと小さくラーファオの太ももを叩く。

 仲がいいなとエレノアが微笑ましく思っていると、それを羨ましそうに見ていると勘違いしたのか、サーシャロッドが言った。

「お前のマフラーも持ってきているぞ。手袋も」

 ごそごそと荷物を漁り、エレノアの首にマフラーを巻き付ける。手袋も手渡された。同じ毛糸で編まれているのか、白くふわふわした可愛らしいマフラーと手袋だ。手袋の手首の部分にはまるでウサギのしっぽのように丸くふさふさした飾りがついている。

 とても嬉しいが、車の中は温かいので、正直暑い。

 同じくマフラーでぐるぐる巻きにされているリーファと顔を見合わせて、吹き出してしまった。

 女の子なんだから体は冷やすなという男性たちは、とても心配症だ。

「妖精さんたちも一緒に行ければよかったですね」

 月の宮殿の庭に住む野原の妖精たちは、一緒に行くと駄々をこねたが、サーシャロッドに却下を食らって渋々留守番をしている。

「連れてきたら、何をしでかすかわからんからな」

 そういうサーシャロッドは、実はエレノアの私室を雪ウサギで水浸しにした妖精たちに腹を立てていて、その意趣返しもあるのではないかと密かにエレノアは推測している。

 エレノアと雪遊びをするとはりきっていた妖精たちは置いてけぼりを食らってしまったので、何かお土産になるようなものを持って帰るつもりだ。

(サーシャ様と、はじめてのお泊り旅行……!)

 エレノアはふわふわの手袋の表を撫でて、サーシャロッドに微笑みかけた。
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