ヴァイオレント・ノクターン

乃寅

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濫觴の四月[April of Beginning]

Mission13 専用装備

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翌日、学園に行くとなんだか騒々しくなっていた。
紙越町だけではなく、様々な国や地域の生徒や教員がこの学園に集まっているのもあって元々賑やかだがそんないい意味の賑やかとは違っていた。

「昨日生徒が襲われたってさ」
「マジっ!?ヤバいねー」
「ねー」

何人かの生徒たちのそんな会話が俺の耳に入ってくる。
大体の会話の内容はゲームのことか、誰かの噂か、それだ。

「なんか3人くらい被害に遭ってるって?」
「そうみたいだな。で、武器を奪われたとか……」
「武器を?そんなもん奪ってなにするんだろうな」
「さぁな。俺たちも一応狙われないとは限らないしな。ああそうそう。今日は午後の授業とかなしで早く帰れるみたいだぜ、先生が言ってた」
「おっ、ラッキー」

確かに午後の授業がなくなるのはありがたい。
けれど俺の心に残ったのはそこではなかった。

(“3人”……?俺以外にも襲撃された生徒が……?)
「おう、おはよう。大和。どうした?なんか考え事か?」
「ああおはよう、直巳。いや、ちょっとね……」
「……もしかして生徒が襲われた事件が気になンのか?まぁ、確かに生徒が襲撃されたってなると他人事ひとごとじゃねえよな」

……事実、他人事じゃない。俺も襲撃された生徒の1人なのだから。
しかし武器を奪って逃げるとは……一体昨日の彼女はなにが目的なのだろうか。

「あ、おはよう。東条くん、赤城くん」
「ああ、美波チャン。おはよう」
「森さん、おはよう」

教室に入ると読んでいた本から視線を上げて彼女はそう挨拶をした。
長い黒髪と白磁の肌──それと読んでいた本が彼女に文学少女という印象を与えていた。

「おや、なにを読んでるの?」
「これ?『彼岸過迄ひがんすぎまで』」
「……って、夏目漱石の?」
「知ってるの?」

彼女は本を閉じて机の上に置いて、そう問うた。

「まぁ、それなりには。本、好きなの?」
「好き……というかこれ以外の娯楽を知らないだけかな。……あれ以来、本を読むことだけが現実から逃れられる唯一の方法だったから」
「……?」
「ああ、いや、なんでもない」

本当に『なんでもない』のだろうか。
俺には一瞬彼女は悲愴感を帯びた微笑を浮かべた気がした。

「それよりも東条くん、『放課後生徒会室に来る様に』って湖城先生が言ってたよ」
「湖城先生って確かA組の?」

反省文と恋愛観について5枚、生徒の1人に書かせたモデルの様な先生だ。
どうやら恋人がいないことを気にしている様だったが……まぁ、そこは置いておこう。

「……なにか悪いことしたかな?」
「大和が?いや、それはねえだろ。別に『アラサー』とか『独り身』とかNGワードは言ってねえしよ」
「だから直巳、不用意に言っちゃいけないって……」
「いや、別になにもしていないよ」

突然教室のドアを開けて入ってくる人物がいた。湖城先生だ。
黒いレディスーツを着こなし、170はあるだろうその高身長に加え、良い姿勢、切れ長の目はモデルの様だ。

「少し話があるだけだ。東条君と森さんにね」
「えっ、美波チャンも?」
「ああ。昨夕さくせきの生徒を狙った事件について、聞いておきたいことがあってな。事件に遭った東条君からは特に」
「えっ、お前事件に遭ったのかよ──」

そう言おうとした直巳を湖城先生は「しーっ」と制する。

「……『誰が襲撃されたのか』、これは一部の生徒を除き、秘密となっている。他言はしないでくれ」
「……?なんでですか?」
「とある理由があるんだ。すまないが……この会話自体も他言しないでくれ」

そう彼女は頼んだ。
彼は「任せてくださいよっ!口は堅いんで!」と言った。
けれど直巳は口が軽いところがある。不安だ。

「さて、それでは放課後生徒会室で待っている」

そう言って彼女は出て行った。

「おはよー、どうしたの?」

そんな彼女と入れ替わる様にしてレイが入ってきた。
彼女は今登校してきた様だ。

「ああ。おはよう。レイは呼ばれた?」
「?誰に?」
「いや、呼ばれてないならいいんだ」

レイは呼ばずに俺と森さんだけを呼んだというのはどういうことなのだろう。
『一部の生徒』の条件とは一体なんなのだろう。
そんな疑問を抱えながら帰りのSHRを迎えた。

「さて、既に知ってると思うけど生徒が襲撃されたという報告を受けて学校が終わり次第速やかに帰宅・帰寮する様に学園長が言ってるわ。地区全体の対テロ戦闘員による見回りも重点的に行われることになったわ」

元々イージス所属の対テロ戦闘員によって見回りは行われている。
けれど襲撃事件を受けて厳戒態勢で警備が行われるとのことだ。

「速やかに帰りなさい。犯人を捕まえるまでね」

そして学級委員による「起立、礼」で俺たち生徒は解散する。
俺も荷物をまとめ、生徒会室へと向かうこととする。

「東条くん、行こうか」
「ああ判ってる」

森さんと共に俺は廊下を歩く。

「……そう言えば襲撃されたんだって?東条くんも」
「ああうん。ナイフを持った女の人にね」
「怪我はしてない?」
「なんとか大丈夫だったよ」

ならよかった、と俺の隣を歩く森さんはそう言った。
2人でしばし話をしているとあっという間に生徒会室前へとやってきた。

「ああ。来たな。入ってくれ」

俺たちが来たのと同時にガラガラと生徒会室の扉が開く。
そして湖城先生が俺たちに部屋の中へと入る様に促した。

「君たちが今回襲撃された生徒たち?」

中に入ると1人の女子生徒が紅茶の入ったティーカップを片手に座っていた。
赤みがかった黒髪と榛の双眸を持つ、気品を感じさせる女子生徒だ。

「ああいや、それは東条くんだけです」
「東条……君が?」
「ああはい。東条大和です」

俺はそう名乗り、彼女にぺこりと辞儀をする。
森さんも自己紹介をすると俺と同様に頭を下げた。

「ああいや、そんな風に畏まらなくていいよ。少し話を聞きたいだけだから」
「話?」
「そう。……今回の襲撃事件に関して、ね」

彼女は手に持ったティーカップに目を落とす。
その水面に榛の瞳が映る。

「あっ、そうだ。名乗り忘れてたね」

彼女はふと思い出した様に視線を俺たちに戻した。

「生徒会長、ですよね?」
「いやいや、役職名じゃなくて。わたしは相楽さがらゆかり、君たちも知っての通りこの学園の生徒会長を務めさせてもらってる。趣味は見ての通りお茶だよ。君たちも良かったら飲みながら話そう」

そう言って彼女は自身の後ろにある棚の引き出しから茶葉の入った箱を取り出す。
その引き出しは箱だけで埋め尽くされていて、彼女がただの紅茶好きではないことが窺える。

「……随分と紅茶のパッケージが増えている様に見えるが。その棚は校内の備品だ。中を私物で埋め尽くすのは──」
「まあまあ、別に減るもんじゃないですし。ほら、湖城先生もどうぞ」
「……貰おう」
「ほら、君たちも座って座って」

彼女に促され、俺たちも座った。
俺と森さんの2人は扉から見て左側に、湖城先生は右側に、そして生徒会長はテーブルの短辺に当たる部分の席に座っている。
彼女に淹れてもらった紅茶の入ったカップを手に取ると彼女は静かに問うた。

「……さて、今回の襲撃事件、襲われたのは東条くんだけでいいね?」
「はい、そうですが……」

俺が頷くと彼女は紅茶で口内を湿らせてから問うた。

「それじゃあ今回狙われたのは君を含めて3人……被害者全員の共通点はなんだと思う?」
「え、っと……全員生徒?」
「それもある。けど、もう1つあるんだ」
「……もしかして──“専用装備”?」

森さんがそう閃いた様に言った。
それを聞いて会長は「正解」と言ってカップを卓上に置いた。

「“専用装備”?」
「あれ、知らない?君も専用装備所持者の1人なのに」
「……もしかして、これのことですか?」

俺はカップを置いて自身の脇差を鞘ごと皆の目の前に見せた。

「そう、それが専用装備」
「専用装備……って、なんですか?」 

俺は問うた。
湖城先生が紅茶を一口飲んでからそれに答えた。

「対テロ戦闘員としての実力が認められると自分専用の装備を作製してもらえるんだ。君は対テロ戦闘員となって日が浅い様だが、対テロ戦闘員としての才能が認められ特例として所有が許可された」
「才能……?」
「ああ。アシュリーさんから聞いた。君が神機スサノオの剣を両断し、彼女と森さんを救出したという報告をな。しかもそれが対テロ戦闘員でなかった君によって行われたというから私と学園長は才能を感じ、専用装備の所持を認めた」

あの日のことか。
今思えば脇差一本であの巨大兵器へと立ち向かうのは愚かにも程があると思っている。
しかしそれで無傷で2人を助けられたのであれば良いとも感じている。

「大抵の生徒は量産型の装備を使用している。しかし君たち2人は違う。君たちの武器は君たちのために作られた専用の武器だ」
「え、そうなんですか?」
「ああ。森さんの武器は『泡沫ほうまつ』と『夢幻むげん』と言ったな。東条君、君の武器名は?」
「武器名?……いや、知らないです」
「名付けていない様だな。武器は“相棒”だ。名前は付けておいた方がいい」

とはいえ、そう簡単に武器の名前など思いつくはずもない。

「それはまた今度にして……わたしは『専用装備』を持っている『生徒』を狙って襲撃したんだと思ってる。専用装備持ちは実力者ばかりだからね、武器を奪われるのはかなり痛手になる。となると犯人はGRかな……」
「恐らくな。それにしても犯人は1件武器の強奪に失敗しているが他の2件は成功させている。早く捕らえないと死者も出るかもしれん……」

仮面の人物はナイフで俺の喉を掻き切ろうとしてきた。
それは明確に殺意があったからだ。
確かに放置すれば間違いなく死人が出るだろう。

「おっと、話はここまでにしておこっか」
「そうだな。襲われないうちに早めに帰った方がいいな」

俺たちは生徒会長と湖城先生を部屋に残し、そのまま部屋から出た。

「……それにしてもこれって専用装備?だっけ。それだったんだ」
「見た感じは量産されている武器と変わりない様に見えるけど……」

確かに見た感じはレイによって託された時と全く同じだ。
どこも変わっていない様に見える。
しかし俺は姉さん曰く武器と“契約”をしたらしい。
となるとどこかを改造したのだろう。

「そういや姉さんが改造したって言ってたな……どこをどう改造したかは言ってなかったけど……」
「東条くんのお姉さんって……東条先生のこと?」
「そう。研究と実験が三度の飯より好きな姉だよ。武器の改造ができるなんて知らなかったけど……」
「東条先生は確かに科学が好きだよね、狂っているって言ってもいいくらいに」

森さんは苦笑いしながらそう言った。
姉さんは科学好きというレベルの人間ではないと思っているのは俺だけではないと知って安心した。
俺たちはしばらく話をしながら教室へと戻って行った。

「……彼女も専用装備持ち、ね」

そんな俺たちを背後から獲物を狩る狼の眼で見ている者がいることを知らなかった──
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