Vengeance Crown ―復讐の王冠

SNOW❄️

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第2章:潜入と情報収集

Episode5:鋼鉄の将軍――帝国を統べる男との邂逅

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帝国の夜は静まり返っていた。
月は厚い雲に隠れ、
城の塔に灯る光だけが、
闇を切り裂くように揺れている。

リネルは冷たい石床に膝をつき、
地図の上を指でなぞっていた。

「……ここが中枢区画。
軍議室への通路は二本
――どちらも封鎖されているな。」

イリスが眉をひそめ、
手元の魔法石を光らせる。

「障壁が張られてる。中に入るのは無理。
けど……外から聞き取ることはできるかも。」

セリスが頷き、壁に耳を寄せた。
かすかに、男たちの低い声が響く。
その中に、ひときわ重々しい声があった。

「――予定通り、
北の防衛線は切り捨てる。
民の犠牲は想定内だ。」

その声には、揺らぎも情もない。
まるで人命を、駒のように扱う冷徹さ。

リネルの背筋が凍った。
聞き覚えのある声だった。

滅びの夜、父王を討った男
――ダリウス・グランディア。

壁越しに聞こえるその名に、
胸の奥が燃え上がる。

「……ダリウス。」

その名を吐き捨てるように呟くと、
指先が震えた。
剣「レグナス」が微かに光り、
まるで主の怒りに呼応するようだった。

だが、セリスが素早く
リネルの肩を押さえる。

「落ち着け。今動けば、全て終わりだ。」

「……わかってる。」
リネルは息を吐き、壁から離れる。
だが、拳の中で血が滲むほど強く握っていた。

イリスの魔力が限界に近づく。

「……誰か、こっちを感知してる。」

その言葉が終わるより早く、
壁の向こうから重い靴音が響いた。
ドン……ドン……ドン……。

「侵入者か。」
ダリウスの低い声が近づく。
その圧だけで空気が歪むようだった。

三人は廊下に飛び出す。
リネルが即座に指示を出す。
「散開! 足跡を分散させろ!」

セリスが煙幕玉を放つ。
濃い灰色の煙が廊下を覆い、
イリスが小さな幻影を走らせた。
だが――

「幻術か。子供じみた手だ。」

煙の向こうから、低い笑い声。
次の瞬間、空気を裂く重い刃音。

リネルが反射的に身を伏せる。
頭上を、巨大な剣が唸りを上げて通過した。

「っ――!」

壁が砕け、破片が飛び散る。
その中から現れたのは、
黒い軍服に金の装飾を施した男。

銀髪に鋭い眼光。
肩には「黒鉄の将」の紋章。
帝国最強と呼ばれる男
――ダリウス・グランディア。

「若いな……。だが、
動きは只者ではない。」

ダリウスの視線がリネルに突き刺さる。

「お前、どこの部隊だ?」

「……ただの下級兵だ。」

「ふん……答え方が下手だ。
貴族の息が残っている。」

リネルの呼吸が止まる。
見抜かれた――?

刃が鳴る。リネルは
咄嗟にレグナスを抜き、交差させた。
衝撃が腕を砕くように響く。

「ぐっ……!」

火花が散り、廊下の石壁に傷が走る。
ダリウスは微動だにしない。
その一撃には、
長年の戦場で培われた
“経験”が宿っていた。

「いい剣だな。その輝き
……どこかで見た気がする。」

「気のせいだ。」

「……そうか。ならば、
確かめさせてもらう。」

再び刃が交差する。
金属がぶつかる音が夜に響き、
イリスとセリスが援護に入る。

イリスが魔法の光で視界を奪い、
セリスが短剣を投げるが、
ダリウスはすべてを一瞬で弾き返した。

「三人か……悪くない。
だが、戦場では足りん。」

ダリウスが片腕で剣を構える。
その威圧だけで、空気が重くなる。

リネルは必死に頭を巡らせた。
“このままじゃ全員やられる……!”

咄嗟に壁の上部に目をやり、
古い梁を見つけた。

「イリス、天井を!」

「了解!」

魔法の閃光が放たれ、
梁が爆ぜる。

瓦礫が一斉に崩れ落ち、
煙と粉塵が辺りを覆う。

「退けっ!!」

リネルの叫びで三人は一気に後退。
ダリウスの姿が煙の向こうに消える。

数秒の静寂。
リネルは胸を押さえ、荒く息を吐いた。

「……やっぱり、強いな。
あれが帝国の将か。」

セリスが肩を叩く。
「だが、お前の動きも悪くなかった。
奴も確信は持てていないはずだ。」

イリスがうなずく。
「うん……けど、あの目。
リネルの中の“何か”を感じ取ってた。」

リネルは剣を握り直す。
「……必ず討つ。
あの男だけは、俺の手で。」

遠く、崩れた瓦礫の中から、
低い笑い声が響いた。

「ふん……面白い。あの眼、
まるで――灰王の血を引く者のようだ。」

ダリウス・グランディアは
崩れた瓦礫を払いながら、
闇の中に立ち上がる。

その目には、冷たい興味とわずかな笑み。

そして、静かに呟いた。
「王国の亡霊か……ならば、
今度は戦場で相まみえよう。」
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