君とイルミネーションで。

SNOW❄️

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イルミネーション編

第1話 『まだ光ってない、それでも。』

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駅前の時計は、
約束の時間を少し過ぎていた。

冬の空気は冷たくて、
息を吸うたびに胸の奥がきゅっとなる。

大橋ユウは改札の横で立ち止まり、
スマホを一度だけ確認した。

まだ来ていない。でも、
不安というより——いつものことだ。

「……寒」

小さく呟いて、コートの前を整える。
青寄りのコートに、白っぽいマフラー。

鏡で見たときより、
外に出ると少しだけ大人に見えた。

「ユウー!」

声がした。
振り向くより先に、分かる。
「ごめん!ちょっと電車遅れてて!」

駆け寄ってきたユキは、
ロングコートの裾を揺らしながら
立ち止まった。

少し息を切らしているのに、
表情はやけに明るい。

「……全然、まだ時間やし」

「いやいや、待たせたやろ。
寒かったでしょ」

「まあ……ちょっと」

「ほら~言うと思った。
ちゃんとあったかい?」

 そう言って、
ユキはユウのマフラーに視線を落とす。

「……大丈夫」

「ほんと?首、締まりすぎてない?」

「指、入るくらいやし」

「よし合格!」

なぜかドヤ顔をされて、
ユウは小さく息を吐いた。

「ユキ、なんでそんなテンション高いん……」

「え?だってクリスマスデートだよ?」

「まだ実感ない……」

「もー、相変わらずやなぁ」

ユキは笑いながら、ユウの横に並ぶ。
自然と歩幅が揃った。
駅前の広場に向かうと、そこには——
まだ、光っていないイルミネーション。

「あ」

 ユキが足を止める。

「……まだ点いてないな」

「え、まじで?え、時間間違えた?」

「点灯はもうちょい後やと思う」

「うわーやらかしたかも……」

 ユキは少し残念そうに
イルミネーションを見上げた。

 昼間ならただの飾り。
でも、これから光ることを知っているから、
どこか落ち着かない。

「……まあ、先来れたってことで」

「ポジティブ!」

「人混む前でよかったやろ」

「たしかに。それはある」

 そう言って、ユキは少しだけ笑った。
 まだ光っていない街。
でも、寒さの中で二人並んで
立っているこの時間は、すでに特別だった。

「ね、ユウ」

「ん?」

「今日さ、いっぱい写真撮ろな」

「……俺、写り悪いで」

「知ってる。でもそれがいいんやん」

「意味わからん……」

「わからんところが好きなんよ」

 さらっと言われて、ユウは言葉に詰まる。
 代わりに、視線を逸らした。
 ——あの春は、名字で呼び合っていた。
 今は、名前で。

 それだけで、世界は少し変わった気がする。

「そろそろ時間ちゃう?」

 ユウが言うと、
ユキはもう一度イルミネーションを見た。

「……あ、来るかも」

 その瞬間。
 ぱっと、光が灯った。

 青と白の光が、冬の夜を包み込む。

「……わ」

「きれい……」

 ユキの声は、
さっきまでの元気さより少しだけ静かだった。

ユウは、その横顔から目を離せなかった。

——まだ、始まったばかりだ。

この夜は、まだまだだ。
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