私の幸せ

いとい・ひだまり

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私の幸せ

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 昔よく読んでた絵本を読み返した。
 少女が小さなどらごんのお友だちに

「あなたはわたしの宝もの。幸せそのものなの」

 そう言って、抱きしめる終わり。
 懐かしいな。

「あんたたちお風呂入ったのー?」
「今入るー」

 お母さんに言われて、わたしはソファを立つ。

「ねーちゃん、後でゲームの対戦してー」
「いいよー」
「姉ちゃんが風呂出たらお前もすぐ入れよ。ゲームはその後な」
「えー」

 お父さんに駄々をこねようとする弟の後ろを通り過ぎて、わたしは絵本を本棚にしまった。


「あったか~」

 浴槽が狭いから、膝立てて半分寝転ぶみたいになって肩まで浸かる。

「……いーい湯ーだーな」

 絵本を読んで昔を思い出したからか、そんな歌が出てきて、歌詞が分からなくなったから後半鼻歌で続ける。

「幸せ、かぁ」

 ぽつりとこぼれた。
 小さい頃から、小さなどらごんを女の子が抱きしめるシーンが大好きで、よくそこだけ眺めていた。

「私の幸せって、なんだろう?」

 考えてみる。ゲーム? 漫画? スポーツ? それとも、ご飯やお菓子? ……もし世界で一つだけしか幸せを選び取れなかったら、どうするかな。私は――
 それまで自分のことしか考えていなかったのに、不意に家族や友達のことが出てきた。

「あ、そっかぁ……」

 わたし、意外と……というか、それが一番大切だったんだ。うん、そうだなぁ。もし他の全部がなくなっても、私は大切な人たちを選ぶな。普段気づかなかったけど、こんなに私、みんなのこと大切だったんだ。こんなに愛しいって気持ち、あったんだ。
 そう思ったら自然と頬が緩んできて、いつの間にかそこには涙が伝っていた。



      *



読んでくださりありがとうございます🌸
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