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モノクロ
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青い空、青い海、綺麗な植物。
色があるのは大体これだけ。あ、あと無邪気な子ども達。
「いぇーい俺の勝ちー!」
「ちぇーまた負けかよ」
公園を通り過ぎる僕の耳に、楽しそうに話す男の子達の声が聞こえてくる。
たまのたまにある色鮮やかなお店や家すらない僕の通学路は、モノクロでつまらない。学校が終わっても特に用のない僕は、暇なのもあって、今日は通学路を少し脇道に逸れた。知らない道だけど、だからこそ綺麗な街並みが見れるんじゃないかと、色褪せた世界からの脱出を夢見て。
少し歩いていくと服屋があった。
……新しい服、買いたいな。
「いらっしゃっせー」
僕は自分に合いそうなものがないか店内を探す。
白に灰色、黒。ありきたりなTシャツにズボン。どれも同じようなものばかりで、しっくりくるものが見つからない。結局僕は何も買わずにその店を出た。
そうしてまた暫く歩いていると、橋の上のある店が目に留まった。小さな出店だ。
何を売っているのかは、遠目からでは分からないけれど、そこが他と違うのは、一目でわかった。
白いのに、とても鮮やかに見えた。
いいや、近付くとわかった。
世界の色は全部ここから作り出されてるんじゃないかと思う程、鮮やかだった。
色が溢れてきた。風が吹き、魚が宙を泳いだ。
空気が変わったのが分かって、僕は久しぶりに胸を躍らせてその店に近付く。
「あ、いらっしゃい、お客さん。好きに見てってね」
地面に簡易な絨毯を敷いて胡座をかいたその男性は、目まで隠れる前髪と寝癖が付きっぱなしの野暮ったい見た目とは裏腹に、やわらかい優しい声でそう言った。
「……はい」
どうしてか彼は魔法使いに見えて、無意識に僕の声は掠れた。
並んでいたのは、ブレスレット。他には、貝や砂、水晶。それから、砂粒や貝や葉っぱが入った色水。全てが澄んでいて、輝いて、綺麗だった。
こんなに綺麗な色、久しぶりに見た気がする。
この人には、この店には、色がある。これでもかというほど綺麗な色が。どうしてこんなに綺麗なんだろう。
手に取った色水の瓶に、僕が映った。時によって黄色や水色に変わる水に映る僕。
そうだ。そういえば僕にも色があるんだった。
そう思った瞬間、瓶の中身が発光して、思わず目をつむった。
「はは、その子は主を見つけたみたいだ」
店主がにこやかに言う。
「主?」
「ああ。この子達はどこかからやってきた迷子なんだ。その子は元々、君の一部だったってことだよ」
気が付くと持っていた瓶はなくなっていて、僕自身があの色水みたいに煌めいていた。
「うわぁ、綺麗……」
自分が光っているのが分かって、少し不思議な気持ちになる。髪は水中みたいにゆらゆらしてて、たまに火の粉みたいに黄色がはじける。
「それが元々の君の色だ。さて……と」
店主は一声上げると立ち上がり、指を鳴らす。そうすると出ていた商品が一瞬にして全部絨毯にしまわれた。
「魔法使いなんですか?」
僕の言葉に店主は笑った。
「違うよ。ただの配達屋さん」
彼は言うと、絨毯をわきに抱えて歩き出す。
「今日の仕事は終わりだ。じゃあね、少年。もう輝きを失くさないように」
「は、はいっ。あの、ありがとうございました」
「いいえ~」
去っていく不思議な配達屋を僕はじっと見ていたが、霧に紛れるようにその姿が消えてしまうと、辺りはいつものモノクロの街に戻っていた。けれど、僕だけは星みたいに輝いていて。
知らない内に、僕も色を失くしてたんだなと思うと、自分に申し訳なくなった。
「今度はもう失くさないから」
自分に言う。配達屋さんに貰った言葉を忘れないように。僕をちゃんと輝かせられるように。
「約束」
そうして自分を抱きしめてる僕は、はたから見たら変な人かもしれない。
でも、これは僕にとって大事なことなんだ。
今日体験したことを、ずっと忘れないでいよう。
そう、僕は心に決めた。
*
読んでくださりありがとうございます(*´꒳`*)
色があるのは大体これだけ。あ、あと無邪気な子ども達。
「いぇーい俺の勝ちー!」
「ちぇーまた負けかよ」
公園を通り過ぎる僕の耳に、楽しそうに話す男の子達の声が聞こえてくる。
たまのたまにある色鮮やかなお店や家すらない僕の通学路は、モノクロでつまらない。学校が終わっても特に用のない僕は、暇なのもあって、今日は通学路を少し脇道に逸れた。知らない道だけど、だからこそ綺麗な街並みが見れるんじゃないかと、色褪せた世界からの脱出を夢見て。
少し歩いていくと服屋があった。
……新しい服、買いたいな。
「いらっしゃっせー」
僕は自分に合いそうなものがないか店内を探す。
白に灰色、黒。ありきたりなTシャツにズボン。どれも同じようなものばかりで、しっくりくるものが見つからない。結局僕は何も買わずにその店を出た。
そうしてまた暫く歩いていると、橋の上のある店が目に留まった。小さな出店だ。
何を売っているのかは、遠目からでは分からないけれど、そこが他と違うのは、一目でわかった。
白いのに、とても鮮やかに見えた。
いいや、近付くとわかった。
世界の色は全部ここから作り出されてるんじゃないかと思う程、鮮やかだった。
色が溢れてきた。風が吹き、魚が宙を泳いだ。
空気が変わったのが分かって、僕は久しぶりに胸を躍らせてその店に近付く。
「あ、いらっしゃい、お客さん。好きに見てってね」
地面に簡易な絨毯を敷いて胡座をかいたその男性は、目まで隠れる前髪と寝癖が付きっぱなしの野暮ったい見た目とは裏腹に、やわらかい優しい声でそう言った。
「……はい」
どうしてか彼は魔法使いに見えて、無意識に僕の声は掠れた。
並んでいたのは、ブレスレット。他には、貝や砂、水晶。それから、砂粒や貝や葉っぱが入った色水。全てが澄んでいて、輝いて、綺麗だった。
こんなに綺麗な色、久しぶりに見た気がする。
この人には、この店には、色がある。これでもかというほど綺麗な色が。どうしてこんなに綺麗なんだろう。
手に取った色水の瓶に、僕が映った。時によって黄色や水色に変わる水に映る僕。
そうだ。そういえば僕にも色があるんだった。
そう思った瞬間、瓶の中身が発光して、思わず目をつむった。
「はは、その子は主を見つけたみたいだ」
店主がにこやかに言う。
「主?」
「ああ。この子達はどこかからやってきた迷子なんだ。その子は元々、君の一部だったってことだよ」
気が付くと持っていた瓶はなくなっていて、僕自身があの色水みたいに煌めいていた。
「うわぁ、綺麗……」
自分が光っているのが分かって、少し不思議な気持ちになる。髪は水中みたいにゆらゆらしてて、たまに火の粉みたいに黄色がはじける。
「それが元々の君の色だ。さて……と」
店主は一声上げると立ち上がり、指を鳴らす。そうすると出ていた商品が一瞬にして全部絨毯にしまわれた。
「魔法使いなんですか?」
僕の言葉に店主は笑った。
「違うよ。ただの配達屋さん」
彼は言うと、絨毯をわきに抱えて歩き出す。
「今日の仕事は終わりだ。じゃあね、少年。もう輝きを失くさないように」
「は、はいっ。あの、ありがとうございました」
「いいえ~」
去っていく不思議な配達屋を僕はじっと見ていたが、霧に紛れるようにその姿が消えてしまうと、辺りはいつものモノクロの街に戻っていた。けれど、僕だけは星みたいに輝いていて。
知らない内に、僕も色を失くしてたんだなと思うと、自分に申し訳なくなった。
「今度はもう失くさないから」
自分に言う。配達屋さんに貰った言葉を忘れないように。僕をちゃんと輝かせられるように。
「約束」
そうして自分を抱きしめてる僕は、はたから見たら変な人かもしれない。
でも、これは僕にとって大事なことなんだ。
今日体験したことを、ずっと忘れないでいよう。
そう、僕は心に決めた。
*
読んでくださりありがとうございます(*´꒳`*)
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