月夜の闇に煌めく星〜ゲイビの世界に愛はあるのか〜

はちこ

文字の大きさ
73 / 90

永遠③

しおりを挟む
事務所から歩いて行けるその場所に、櫂とふたり、腰かける。

少しだけあいた距離が、ふたりの距離感だと、朔良は感じた。


少しずつ沈む太陽が、海を照らす。
早々に点灯した電球たちが、太陽の光にその色を飲み込まれている。


「櫂……元気だった?」
「ん……朔は?」
「うん……」

なにから話したら良いか。
ただ、ポツポツと言葉を繋ぐ。

「あれから、どうしてた?」
「あー……美容師んなった。都内の美容院で研修みたいなんさしてもらって、今こっちの店で働いとる」
「そうなんだ……」
「いつか、店開きたいなって、思っとる」
「そっか、櫂はやっぱすごいなぁ……」
「なに言っとるんよ、朔だって、もう大学生は終わった?」
「終わったよ……今、働いてる」

寒い季節に人はまばら。
犬の散歩をする人がたまにふらりと、近くを通る。

揺れる波から視線を櫂に移す。
パチンと視線が合って、思わずドキンと胸が鳴る。

眉を下げた櫂の顔は、少しだけ困ったような、そんな顔をしていた。


「櫂……俺ずっとさぁ、櫂のこと探してた」
「え?」
「最初に話したこと、覚えてる? あの場所、なんか居心地いいよなって」
「あぁ、あの温泉で?」
「うん……俺本当に、あの場所と、みんなが好きだった。ずっとあの場所にいられるわけないってことは、わかってる。でも……」
「……」
「こんなに、みんないなくなるなんて思ってなかった……」
「……朔?」

不意に与えられたこの時間に、櫂になにを言っているんだろうと、思った。

それでも今溢れる想いを、止められなかった。

「朔……どうした?」
「弦くんが引退した……来月のイベントで、凌空くんも引退……」
「そう……なんや……」
「あの頃いたメンバーが、どんどんいなくなってさ……当たり前のことなのに……」
「朔……」
「櫂……なんで、なんでいなくなったんだよ……」
 
込み上げる想い。
言葉にしたかったのは、そんなことじゃない。
なのに、出てくる言葉はなぜか、櫂を責めるような、そんな言葉で。

「なんでだよ……」
「ごめん朔……」

謝らせたいわけじゃない。
むしろ、謝りたかったのに。

すぅっと、息を吸った。
キュッと拳を握って、今日までの日々を、思い出す。


「ひとり、置いていかれた気がした……」
「え?」
「みんな、前向いてどんどんあそこ出ていって……俺ひとり、あそこに置いてかれた気がして……」
「それは違うだろ、朔はまだ大学生で、朔のペースがあってさ」
「そうじゃなくて……」
「え?」
「俺……櫂と、一緒にいたかった……」

やっと言えた、素直な言葉だった。

ただ、櫂と一緒にいたかった。
櫂の夢を、応援したかった。
櫂と、一緒に歩いて行きたかった。


誰かを好きになって、泣く日が来るなんて、思っていなかった。
そんなに自分が女々しいなんて、思ってもいなかった。

でも今、目から溢れるのは、大粒の涙。
ポタポタと落ちて、地面の色が変わる。

「朔……ごめ……朔ごめん……」

櫂の手が、頬に触れて冷たい指先に、あの頃が戻ったような気がした。

「俺、朔に拒否られたらもう生きてけんと思って……逃げた……」
「違うよ俺がそうさしたんだよ……ごめん櫂……」
「朔なら大丈夫って、思っとったのに、最後の最後に、やっぱり言えんかった……」
「櫂……」
「ごめんな朔……」

遠くにチャリ……と、犬のリードが擦れる音が聞こえて、思わず櫂が手を引っ込めた。
ガシガシと朔良は涙を拭いて、遠くの夕陽を見る。

「櫂、俺……櫂と一緒にいたい……」

櫂はグズっと鼻をすすり、そして地面についた朔良の手にそっと小指を当てた。

触れる小指から伝わる櫂の熱は、あたたかくて、寒いのに櫂のいる方だけ、ぼんやりあたたかく感じた。

「朔は……いなくならん?」

櫂の震えるその声は、心の弱さ。

朔良は当たる小指を、そっと絡ませた。

「いなくならない、ずっと、一緒にいたい」


遠くに落ちる太陽が、空を染める。
グラデーションの空を映した海は、キラキラ光る。


やっと言えた言葉に見たのは、作られた光ではなくて、太陽がつくったグラデーションの光。

光を飲み込んだ太陽が照らした光。


ずっと、救いを求めてきた。
その光を全て、グラデーションの光が飲み込んで、新たに道を、照らしてくれた。


そんな、おとぎ話のような。
くさい小説のような。

そんなことを、素直に、朔良は思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...