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奪取
三
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燕王戎人の子飼いの将である、騎却が戎人の寝所に、血相を変えて飛び込んできたのは、楽毅が即墨を包囲して、三年と半年が経過した夜だった。
「何だ!騒がしい!」
夜具をはねのけ、不機嫌に起き上がると、騎却に並んで、郭蔵の姿もあった。
郭蔵はこの頃、従兄で昭王の師であった、郭隗を無実の罪で追放し、戎人の相談役として、権勢を振るっていた。
「郭蔵までこんな夜更けに何の用だ?」
きな臭い気配を感じ、戎人は姿勢を正した。従者が燭台に火を灯すと、郭蔵の左に曲がった醜い鼻が浮かび上がる。戎人は自分の右に曲がった鼻を思い出し、不快感を募らせた。
「早急に大王様に、お伝えせねばならない儀があります」
騎却は恭しく告げた。騎却という男は、凡才であるが、戎人に媚び諂うことに関しては、天下一の才能があった。
戎人にとって、耳障りの良い言葉が、連射式の弩のように次々に放たれる。故に、戎人は、騎却を薬篭中物として重用している。戎人は居並ぶ両者の顔を順に見、眼を細めた。騎却の表情には、切迫したものが窺えた。
「訊こう」
「市中である噂が広まっているのをご存じですか?」
「噂だと」
噂程度の話で、わざわざ、王の眠りを妨げたというのか。と熱を抱いた、怒りが込み上げてきたが、郭蔵の顔があまりにも険しいので、ぐっと溜飲を下げた。
「申せ」
「はっ。では、懼れながら申し上げます。我が国の相国であられる、昌国君楽毅殿に、謀反の疑いがあると」
「何だと!?」
楽毅の名が、騎却の口から飛び出した途端、下げたはずの溜飲が喉元まで、一気にせり上がってきた。
「詳らかにせよ」
郭蔵が代わった。
「斉攻略の総司令である、昌国君はあえて斉との戦を長引かせ、その間に民を厚く遇し、手懐け、自ら斉王になる目論見があるのだと」
「噂の出元は!?」
戎人は怒鳴るように言った。郭蔵が横に振る。
「この噂は市中に、伝染病の如く広く速く、既に伝わっておりまする。最早、噂の出元を探るなど不可能に近いかと」
「楽毅に叛心があると思うか?」
と問いつつも、戎人の選択は決まっていた。
今、思い出せば、必要以上に、楽毅が斉の民を重んじるのも、たった二城を残して、三年以上も危殆にある、斉の攻略に苦心惨憺としているのも、楽毅に叛心があり、斉を己が国にしようと目論んでいるとするならば、全て辻褄が合う。
「下劣な!」
怒髪天を衝いた。
「今すぐ早馬を放ち、楽毅を拘束するように伝えよ!」
「御意!」
騎却は具足を鳴らして、弾かれたように寝所を飛び出して行った。
「大王様。昌国君を拘束して、その後は?」
郭蔵が尋ねる。
「決まっておろう。最も残酷な方法で処刑してくれる。最早、楽毅を生かせとは言うまいな」
怒らせた眼で、郭蔵を睨む。
「ご随意になされませ」
郭蔵は嬉々と、唇を綻ばせた。
「何だ!騒がしい!」
夜具をはねのけ、不機嫌に起き上がると、騎却に並んで、郭蔵の姿もあった。
郭蔵はこの頃、従兄で昭王の師であった、郭隗を無実の罪で追放し、戎人の相談役として、権勢を振るっていた。
「郭蔵までこんな夜更けに何の用だ?」
きな臭い気配を感じ、戎人は姿勢を正した。従者が燭台に火を灯すと、郭蔵の左に曲がった醜い鼻が浮かび上がる。戎人は自分の右に曲がった鼻を思い出し、不快感を募らせた。
「早急に大王様に、お伝えせねばならない儀があります」
騎却は恭しく告げた。騎却という男は、凡才であるが、戎人に媚び諂うことに関しては、天下一の才能があった。
戎人にとって、耳障りの良い言葉が、連射式の弩のように次々に放たれる。故に、戎人は、騎却を薬篭中物として重用している。戎人は居並ぶ両者の顔を順に見、眼を細めた。騎却の表情には、切迫したものが窺えた。
「訊こう」
「市中である噂が広まっているのをご存じですか?」
「噂だと」
噂程度の話で、わざわざ、王の眠りを妨げたというのか。と熱を抱いた、怒りが込み上げてきたが、郭蔵の顔があまりにも険しいので、ぐっと溜飲を下げた。
「申せ」
「はっ。では、懼れながら申し上げます。我が国の相国であられる、昌国君楽毅殿に、謀反の疑いがあると」
「何だと!?」
楽毅の名が、騎却の口から飛び出した途端、下げたはずの溜飲が喉元まで、一気にせり上がってきた。
「詳らかにせよ」
郭蔵が代わった。
「斉攻略の総司令である、昌国君はあえて斉との戦を長引かせ、その間に民を厚く遇し、手懐け、自ら斉王になる目論見があるのだと」
「噂の出元は!?」
戎人は怒鳴るように言った。郭蔵が横に振る。
「この噂は市中に、伝染病の如く広く速く、既に伝わっておりまする。最早、噂の出元を探るなど不可能に近いかと」
「楽毅に叛心があると思うか?」
と問いつつも、戎人の選択は決まっていた。
今、思い出せば、必要以上に、楽毅が斉の民を重んじるのも、たった二城を残して、三年以上も危殆にある、斉の攻略に苦心惨憺としているのも、楽毅に叛心があり、斉を己が国にしようと目論んでいるとするならば、全て辻褄が合う。
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「今すぐ早馬を放ち、楽毅を拘束するように伝えよ!」
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「決まっておろう。最も残酷な方法で処刑してくれる。最早、楽毅を生かせとは言うまいな」
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郭蔵は嬉々と、唇を綻ばせた。
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