白狼 白起伝

松井暁彦

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光輝の兆し

 十一

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 病をおして馬車に乗り、穣の城郭を見て回った。城郭内は殷賑いんしんを極めていた。市場には人と物が溢れ活気が熱量となり、馬車の窓から隙間風と共に流れ込んでくる。
 
 この年、魏冄は咸陽の罪人に恩赦を与えた。そして、罪人数万を穣へと移し住まわせたのである。治安を維持する警邏隊けいらたいを配置したことで、罪人の再犯率は激減し、労働力を得た穣は開拓され大いに富んだ。また隣接する魏と韓の商人の往来を緩和化したことで、多様な物資が市場に溢れた。
 
緩和といっても穣の領地に踏み込むには、多少のまいないは必要であり裏で得た銭は全て魏冄の元に利として挙がってくる。利の大分は白起の軍費にあてている。遠征費は馬鹿にならず、度重なる遠征費を国庫だけでは、とても賄えないのが現状である。
 
 今の魏冄には白起を金銭面で補助してやることしかできない。莫大な利を穣の地で上げてはいるが、魏冄自身は銭に固執する男ではない。現状は上々。それでも苦く噛み締めるような想いは変わらない。

(俺は人を捨てきれなかったのだ)
 畢竟、全ての業を俺は白起に押し付けているのだ。暗渠あんきょが病んだ胸を更に締め付ける。

「もういい。館へ戻ってくれ」
 潤いを欠いた声で馭者ぎょうしゃに命じる。ゆっくりと馬車は反転し、館への帰路につく。再び市場を通り過ぎようとした矢先、ひと際大きな喧噪が流れ聞こえた。

「何の騒ぎだ?」

「商人が競りのようなものを行っているようですね」
 驂乗そえのりの従者が答える。競りはよく行われるが、これほどの騒ぎだ。余程に珍品を揃えた商人が仕切っているのだ。不意に感興がそそられた。

「少し見てみたい」
 馬車は止まり従者の肩を借りて黒山へと向かう。

「領主様」
 魏冄の姿を認めた、男が慇懃に告げると人々は道を開けた。
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