バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

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魔剣争奪戦編

第81話 恋は熱しやすく冷めやすい

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 最初は、ほんの好奇心から始まった――

「ねぇ、そこの貴女あなた?」

 話しかけられた少女はコバルトブルーの瞳で見つめる。

「……なんじゃ貴様は」

 これが、エリスとマリアの出会いだった。

 ・・・
 ・・・・・
 ・・・・・・・


 マリア=コバルトを同世代で知らない者はいない。
 だが、残念なことに"良い意味で"ではなかった。
 エリスたちヴァンパイアは赤い瞳が特徴のモンスターだ。
 しかし、マリアはのせいで、コバルトブルーの瞳を持って生まれた。
 ヴァンパイアは血を何よりも重んじる種族。
 そのせいで、マリアは生まれたときから腫れもの扱いだ。
 街を歩いても奇異な目で見られ、石を投げられることも少なくない。

 そんなマリアを、エリスは遠目から眺めるだけだった。

「……知~らない」

 窓の外で迫害を受ける少女に、エリスは見て見ぬふりをする。
 別にマリアに何かされたとか、そういうわけではない。
 ただ、自分には関係がないというだけだ。
 両親からも、

『あの子に話しかけるなよ?』
『あなたも穢れてしまうからね?』

 と言われていた。
 ――そう言われたのなら、そうするのが正しい――
 エリスは疑問も抱かず、ベッドに寝転がった。


 ___


 だが、そんな彼女にも転機が訪れる。

『エリスちゃん。ボクと付き合おうよー?』
『無理』

 10歳になったエリスはその美貌も相まって、男たちから絶大な支持を受けていた。
 しかしエリスは若い。
 そのような恋愛にはまだ興味がなく、鬱陶しく思うだけだった。

(は~、ウザっ)

 態度に示しているつもりなのだが、男たちはそれでも言い寄ってくる。
 そんな生活にうんざりしている時、その光景を偶然見てしまった。

「う、うぅ……」
「ご、ごめんなさい……許し、て――」

 コバルトブルーの瞳の少女が、男どもを拳一つで血祭りにあげていた。
 少女の腕はバケツに入ったペンキに突っ込んだように真っ赤になっている。
 いや、そこはいったん置いておくとして……

(あのままじゃ死ぬでしょ男達アイツら)

 相手は両親が言っていた少女。
 本来なら話しかけるわけにはいかない。
 しかし、死人が出そうなこと。そして自分が鬱陶しく思っていた男たちを倒したその強さが気になった。

「ねぇ、そこの貴女あなた?」

 話しかけられた少女は殴ろうとする手を止め、エリスの方へと振り向く

「……なんじゃ貴様は」
「あたしエリス」
「何の用じゃ?」
「その人ら死んじゃうよ?」
「大丈夫じゃ。命を奪う真似はせん。きっちり死ぬ一歩手前で止めておる」
「いや、それでOKとはならないけど……」

 その後エリスは、マリアを諭し続けた。
 どうせ理解されないだろうと期待していなかったが、意外と彼女は物分かりのいい人物であることが判明。
 いつの間にかエリスとマリアは死にかけの男達の傍で、時間を忘れて談笑していた。

 それからというもの、エリスとマリアは交流を深め続け、いつの間にか親友と呼べる関係になっていく。
 エリスは相変わらず男から人気だ。
 しかし、近づく者はマリアが全員もれなく半殺し。
 それを止めるのがエリスの役目となる。
 そんなことを続けていると、いつしかマリアは"番長"と呼ばれ、もう石を投げられることも無くなっていた。
 ……ただ怖がられていただけなのだが。
 それでも、エリスはそんな日々が楽しかった――

 それから数年たったある日。

「私、彼氏探しの旅に出てくる」
「…………え?」

 突然の宣言。
 最初は冗談だと思ったものの、次の日になると本当に故郷を出ていってしまった。

(ま、まぁすぐに帰ってくるでしょ!)

 そう思っていたが、待てど暮らせどマリアは帰ってこない。
 周りの連中は番長がいなくなったと悲しむ者、そして大半は目の上のたん瘤が居なくなったと喜ぶ者。
 まだマリアを疎ましく思っている者が多数だが、少数でもマリアを慕ってくれるものが居て嬉しかった。

 けれど、やっぱり寂しかった。
 マリアと遊んでいる時が、
 マリアの喧嘩を止めるのが、
 何よりも楽しかった――

(まったく、しょうがないんだから……)

 マリアが去って数か月後、エリスはマリアを追って旅に出る。
 全ては、親友ともう一度遊ぶために――




 ***




「さあミンチにしてあげるわよお!」

 振るわれた巨大な出刃包丁を巧みに躱していくタマコとエリス。
 当たれば腕の一本、いや胴を真っ二つにされるだろう。
 魔剣を持っているとはいえ、実力差を埋められているかは微妙なところ。
 それほどの強敵に対し、エリスは笑みをこぼしていた。

(まさかお互い魔王に。そして使い魔になってから再開するとはね……)

 あちこち探し回り、なんやかんやで魔王になった。
 今となってはそれも、親友と会うための切っ掛けになったのだから良しと思える。
 けれど、それ以上に嬉しかったことは――

(マリア……ちゃんと"恋"出来てよかったわね)

 彼女はもうあの頃とは違う。
 ぶっきらぼうだった表情に、喜怒哀楽がよく出るようになった。
 それはきっと、想い人タローのおかげなのだろう。


(親友として感謝してるわタローちゃん。だから――絶対に貴方たちを勝たせてあげる!)


「さあ、まずはあなたからミンチにするわよお!」

 もう一度身に迫る包丁に、エリスは色欲の魔剣アスモデウスを構える。
 すると、刀身が桃色に輝きだした。

「――情炎」

 巨大な包丁と色欲の魔剣アスモデウスが激突した。
 が、しかし――
 アンブレラの包丁が魔剣とぶつかり合うと、一瞬のうちに熱されて赤くなってしまった。

「――あらあら?」

 瞬く間に融解した包丁は、無残にも刃を失った。
 もちろん色欲の魔剣アスモデウスは無傷だ。

「それが、色欲の魔剣アスモデウスの能力か?」

 横で見ていたタマコが訊くと、エリスは得意げに頷いた。

燃恋冷愛ラブ・ロマンス――対象の温度を変化させることが出来るのよ」

燃恋冷愛ラブ・ロマンス
 触れたモノの温度を自在に操ることができ、その幅は『絶対零度』から『絶対熱』まで可能である。

「恋は、熱しやすく冷めやすいの♡」

 ウインクするエリスをタマコは頼もしさを感じた。

「あらあら……温度を変えるのねえ――」

 だが、相手は海千山千の魔王。
 武器を一つ破壊した程度で動じるほど甘くはない。

「料理は温度が命――次からは気を付けないとねえ!」

 魔王アンブレラ=サファイア。
 この程度で終わるほど、彼女は弱くない。
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